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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第7章
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第6話 魔力と呪力

「メタルさん。メタルさんは、エメリア元帥と大鏡元帥から、状況を確認しておいてください。」


 鈴が言った言葉に、エメリアが俺の方に視線を向ける。

 それだけで、凄まじい魔力の奔流が、俺に向かって濁流の如く押し寄せてくる。

「うお!」

 魔力の奔流で、俺の戦闘服の裾がバタバタと靡く。

 エメリアの魔力の強さは知っているものの、体感する度に少し驚く。

 凄まじい魔力量だ。

 多少の物ならば吹き飛ばすほどの威力がある魔力の奔流だが、エメリアは、決して、魔力を俺にぶつけた気は無い。


 魔力を持っている生き物は、意識して操作しなければ、体内魔力を無意識のうちに体外に放出している。

 その量は、生物の種によりある程度固定だが、訓練すれば多少操作できるようになる。

 とはいえ、ほとんどの場合、一日の放出量を合計しても保有魔力の0.1%を超えることはない。

 その量は、食事などによる魔力の回復量よりも遥かに少ない。

 そのため、余程魔力量が多くない限り、魔力の自然放出を防ぐ訓練は必要ないことが多く、多くの人は気にしていない。

 だが、エメリアほど魔力があれば、事情は異なる。

  エメリアの、種としての元々の魔力流出量は1日当たり保有量の0.07%程度である。

 さらに、魔力操作に優れたエメリアは、0.07%どころか、そのさらに100分の1以下しか漏出していない。

 だが、魔力保有量があまりに多すぎ、例え一日当たりの流出量が0.0007%以下だとしても、これほどの勢いを伴ってしまっているのだ。


「・・・!」

 エミーリアが、半歩、後ずさる。

 俺の近くにいたせいで、魔力の奔流に巻き込まれてしまったのだ。

 勢いに負けたというか、急に強い魔力をぶつけられ、驚いて思わず動いてしまった感じだ。

 だが、バランスを崩して転ぶようなことはない。

「うお!お・・・ぐぅっ!」

 しかし、戦いに敗け、エミーリアに力を渡して弱っているナターリアは、踏ん張り切れなかったようだ。

 魔力の奔流の圧力にバランスを崩し、数歩後ずさった後に、尻もちをついて転んでしまった。

「・・・ごめんなさいね?」

 エメリアが、転んだナターリアに向けて言う。

 そう言いつつ、エメリアは魔力を操作したようで、こちらに流れてくる魔力が弱くなる。

「だ・・・大丈夫だ。」

 エメリアの声に、ナターリアが顔を赤くしながら立ち上がる。

 


「おや、怪我はしていないかい?」

 その瞬間、エメリアからの魔力の奔流とはまた違う、凄まじい重圧が俺たちに襲い掛かる。

 時子が、こちらを向いて声を掛けてきたのだ。

 それと同時に、強大な呪術的重圧が俺たちにかかってきたのである。

 俺は、様々な理由で呪術耐性が高いので、特にダメージは無い。

「・・・っ!」

 エミーリアが小さな声を漏らすが、今回は動かなかった。

 少し面食らったようだが、どうやら耐えることができているようである。

「ぐ・・・ぐぅ・・・!」

 だが、ナターリアは耐えることができず、膝をついてしまう。

 心配の声を上げたはずの時子の表情は、にやり、と笑っている。

 どうやら、エメリアと違って確信犯らしい。

「時子、お前はわざとだろ?」

 俺がそう言うと、時子の笑みが深くなる。

「おや?バレちまったかい?」

 どうも、エメリアの魔力にこちらが動じたのを見て、エメリアに張り合って呪術をぶつけてきたようだ。


 呪力は、魔力と特性が違うため、その挙動は魔力とは大きく違う。

 身体からの放出に関して、魔力は生物の種ごとに放出量がある程度決まるが、呪力は個体により異なる場合が多い。

 そもそも、呪力を持っている生物自体少なく、多くの場合は種全体ではなく個々の個体が後天的に得ることが多いのだ。

 個体によって、呪力を得た環境や状況が異なるため、その呪力の性質も大きく変わってくるのである。

 時子は、家系の関係で若いころに呪力を得て、今まで、長い年月にわたり呪力を扱い続けてきた。

 そのため呪力制御能力は非常に高く、普段は呪術を漏らすようなことはほぼ無いのだ。

 今回の重圧は、完全に悪戯の類だろう。

 実際、時子は面白そうにからからと笑っている。


 今回の時子による呪術の重圧は、完全に悪戯の類だろう。

 実際、時子は面白そうにからからと笑っている。


「俺たちにかまけてて、大丈夫?」

 俺がそう言えば、エメリアが頷く。

 そして、時子も言葉を返してくる。

「これ以上は、機械の方が耐えられないんでね。あたしたちゃ、少し余裕があるのさ。」

 余裕がある、と、時子は言った。

 だが、よく見ると、二人の額には、うっすらと汗がにじんでいる。

 この二人でも、この赤い穴を維持するのは、並大抵のことではないことがわかる。

「じゃあ、ちょっと状況を・・・」


 俺がそう言おうとした瞬間、急に部屋が揺れる。

 

 大きな揺れだ。

 しかも、1回揺れるだけではなく、揺れが続いている。

「04セクション、境界数値が乱れています。」

「02、07セクション、拡大方向への圧力増。」

「03、06セクション、ブレが大きくなっています。」

 叫びこそしないが、技術者と魔術師、呪術師たちが、騒然となる。

 状況に変化があったようだ。

 技術者と魔術師、呪術師が慌ただしく動き、機械や術式を必死に調整する。

 しかし、その努力むなしく、部屋の振動は大きくなっていく。

 技術者たちの声が、ついに叫びに変わってくる。

「抑え込めません!」

「05セクション、破断まで残り2%!」

 その叫びに、ラピーラが反応する。

「魔力と呪力の供給量は?」

「現在126%!」

 その言葉に、ラピーラの表情が歪む。

 126%。

 おそらく、想定以上の魔力と呪力を流しているのだろう。

 実際、機械の所々は赤熱し、また、他の場所はやばい感じの振動をしている。

 ラピーラが、機械の周囲を走り回り、いくつかの計器を見る。

 そして、叫ぶ。

「3番回路と8番回路に呪力、セクション09に魔力回せ!」

 ラピーラがそう叫んだ瞬間、何人かの技術者と魔術師、呪術師が、弾かれたように動く。

 そして、何かを操作すると、なんとなく振動が弱まる。

 だが、止まったわけではない。

 未だに状況は悪そうだ。

 ラピーラは、いくつもの機械を操作し、どうにか状況を好転させようと試みている。

 だが、うまくいかないようだ。

「鈴ちゃん、どうする!?」

 その状況に、ラピーラが、叫ぶ。

「少し、待ってください。」

 そう言う鈴は、赤い円を凝視したまま、動かない。

 鈴の口が小さく動き、ぶつぶつと何かを呟いている。

 どうやら、呪文のようだ。

 凝視している鈴の目は、淡い緑色に、光っている。

 鈴は、視覚系の術式を起動し、何かを見ているのだ。


 

 切迫した雰囲気の時間が、流れる。

 1時間にも感じる、だが、実際は数秒にも満たない時間の後。

 鈴が、口を開く。


「魔力の供給を、一秒だけ、止めてください。」


 その言葉に、ラピーラが、ぎょっとした表情をする。

 それもそうだ。

 120%を超えている今の出力で、どうにかなっている状況なのだ。

 そこで、出力を落とすどころか、止める。

 あまりに恐ろしい判断だ。

 一人の技術者が、叫ぶ。

「そ、それでは、致命的な穴が開いてしまいます!」

 当然の反応である。

 だが、鈴の次の一言で、技術者と魔術師たちの表情が変わった。


「覇山元帥とブライアン中将が、帰ってきています。」


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