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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第7章
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第3話 この星の成り立ち

 

「年齢は、どうだっていいだろう?」

 年齢の話は、あまり居心地がいいものではない。

 この国に生きる人々には、長命種も多い。

 しかし、億を超える年齢の者は、そうそういない。

 そもそも、億を超えるだけの年齢を刻むことができる生物自体、いないわけではないが、極めて少ない。

 さらに、実際にそれだけの年を重ねた個体は、まずいない。

 どれだけ長命でも、環境の変化や事故等で命を落とすのだ。

 実際に億を超えて年齢を刻んでいる個体は、まずいないと言っていい。

 そんな中での、俺とその兄弟だ。

 年齢の話をすれば、奇異の目線で見られるのが、普通である。

 いつもは奇異の目線で見られても何ともないが、エミーリアにその目線をされれば、ちょっとショックだ。

 

 だが、俺の心配は杞憂だった。

 俺の言葉を聴いたエミーリアは、いつもの無表情で頷き、言う。

「・・・ん、わかった。メタルは、メタル。」

 ・・・ちょっと、ジーンと来てしまった。

 だが、感傷に浸る前に、鈴がその雰囲気を遮る。

「そういうのは、全てが終わってからやってくださいね。」

 む、・・・まあ、そうか。

 そうだな。

 ここで感動していても、赤い宇宙を倒すことはできない。

 表情が元に戻った俺を見て、鈴が訊いてくる。

「メタルさん。その長い人生で、他の宇宙と戦った経験は?」

 他の宇宙と戦った経験か。

 少し考え、思い出す。


 ・・・あるな。


 一応、宇宙と戦ったことは、ある。

 その戦いは、鈴にも、覇山にも、エミーリアにも伝えていないことが関係している。

 この事実を知っているのは、俺と二人の兄弟、少数の管理者しか、いない。

 

 現在は惑星『碧玉』と呼ばれている、この星。

 碧玉連邦があるこの星は、人造の星なのだ。

 はるか昔。

 この星は、この宇宙とは異なる宇宙で、理想の社会を求める人々によりこの星は造られた。

 理想の社会を求める、の目標に違わず、その人々により築かれた第1文明期は、非常に安定した、多くの者が幸せな社会だった。

 だが、永遠は無い。

 第1文明は滅び、その後も、多くの文明が興っては、滅んだ。

 それを繰り返すうちに、この星があった宇宙も、次第に寿命に近づいていった。

 元々、ほぼ宇宙が寿命を迎えようとしている頃に造られた星だったのだ。

 百億年もしないうちに、宇宙は滅びを迎えた。

 だが、星を作った人々は、宇宙の寿命も、想定していた。

 この星には、宇宙間を渡る機能が搭載されていたのだ。

 さらに、渡った先でも文明を存続できるよう、自ら恒星を作り出す機能すら、持っている。

 それらの機能により、この星は、何度も宇宙を渡り、数百億年もの間、存続してきたのだ。

 

 宇宙と戦ったのは、その、何回目に宇宙を渡る時だったか?

 ある宇宙から脱出しようとしたとき、その戦いは起こった。

 その宇宙が、星の脱出を阻止しようとしてきたのだ。

 その時、宇宙と対峙したのは、俺と兄弟二人、そして、その時代に生きていた、最高峰の戦士たち。

 壮絶な戦いだった。

 その宇宙は、決して、弱い相手ではなかった。

 その証拠に、戦士たちは、何人もその命を散らした。

 だが、その宇宙は、既に寿命を迎える直前で、弱っていたのは確かだった。

 星を巻き込んで崩壊しようとする宇宙からの干渉をなんとか防いでいただけで、その宇宙は、ついには自壊したのだ。

 決して、勝ったとは言えない戦い。

 苦々しい思い出である。

 とはいえ、宇宙と戦ったのは、事実。

 

 まだ、この星の文明は、この星が人造の星だと知ることができるレベルには達していない。

 文明のレベルが及ばないうちにそのことを知ってしまうと、社会に大きな混乱が巻き起こる恐れがある。

 覇山や鈴などの信頼できる者に星の事実を伝えるにしても、今ではない。

 もう少し、今回の騒動が落ち着いた頃がいい。

 今回は、星が人造であることは隠しつつ、宇宙と戦ったことがあることを伝えればいいだろう。

「一応、戦ったことは、あるよ。」

 俺がそう言えば、鈴はぎょっとする。

「えぇ・・・?冗談のつもりで言ったのですが・・・。流石、数百億年も生きていれば、何でもありですね。」

 ・・・ちゃんと答えたのに、なんだか、不服である。

「まあ、いいです。後で、詳しく教えていただきます。」

 おや?

 今は聴かなくていいのだろうか?

 すると、俺が意外そうな表情をしていることを見て、鈴が言う。

「まずは、覇山元帥と合流した方がいいでしょう。」

 まあ、それもそうか。

 そのまま、歩くこと1分ほど。

「ここから転移します。」

 鈴が俺たちを案内した先は、廃墟に偽装された建物の、使われていない部屋だった。

 この部屋自体が擬装用のようで、パッと見は廃墟に見えるように作られている。

 だが、外から見えない場所にはがれき等は散らばっておらず、案外綺麗だ。

 そんな部屋の床には、緑色のラインで描かれた、即席の転移魔術陣が作成されている。

 はて?

 転移するならば、なぜ、わざわざこんなところまで案内したのだろうか?

「直接転移じゃ、だめだったの?」

 転移するならば、玉座の間から直接転移すればいいだろうに。

 そう思ったので尋ねてみれば、鈴が答える。

「流石に、この事実は最高峰の機密事項ですからね。特定の場所から以外の転移魔術受け付けない、専用の部屋で作戦を実行しているのです。」

 なるほど。

 この転移陣は、その部屋へ転移できるように組まれているのだろう。

「陣の中にお願いします。」

 鈴の言葉に従い、俺とエミーリア、ナターリアが陣の中に入る。

 さらに、俺たちに続いて、鈴も陣の中に入ってくる。

「皆さん、大丈夫そうですね。では、起動します。」

 鈴がそう言うと、魔術陣に魔力が流れる。

 魔力が流れることで、魔法陣を構成するラインが、緑色の光を発し始める。

 造り自体は即席のものだが、この魔法陣に仕込まれている魔術の回路は、相応以上に複雑なものだ。

 オーソドックスだがレベルの高い回路から、難易度が高すぎる故にマイナーになっている強力な回路まで、一切の瑕疵なく組み上げられている。

 用意したのは、鈴だろう。

 鈴の、魔術への造詣の深さと高い実力の窺える。


 魔法陣が放つ光が一定まで強くなった瞬間、俺たちは、その場所から消え去ったのだった。



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