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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第7章
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第2話 メタルの年齢

「はぁ。S-1ランクの戦士が、なんでBランクの私に睨まれて縮こまっているのですか・・・。」


 鈴が俺のことをS-1ランクと言った瞬間、ナターリアが、ぎょっとした表情で俺を見る。

「なに!?」

 驚愕の声を上げたナターリアを全く気にせず、鈴は言葉を続ける。

「ま、いいです。とりあえず、私は少し準備がありますので、待っていてください。」

 鈴はそう言うと、何もない空間から機材を色々と取り出し、ごそごそと準備を始める。

 機材を何かしらの空間を作って格納していたのだろうか?

 それとも、機材を転送したのだろうか?

 鈴は技術作戦軍の元帥として、様々な分野に精通している。

 その範囲には魔術も含まれ、多くの魔術を使用できる。

 空間魔術もそれなり以上に使えるのだろう。


 作業に入った鈴を見ながら、手持ち無沙汰になったな、と思った時、エミーリアの声がした。

「S-1・・・!すごいっ・・・!」

 感極まったような声だ。

 エミーリアの方を見れば、俺を見るその目は、無表情ながらキラキラとしている。

 ・・・可愛い。

 鈴を待つ間やることもないので、そんな可愛いエミーリアを愛でようと思ったら、ナターリアが話しかけてきた。

「え・・・S-1、ということは、貴様、まさか、私と戦った時は、全力ではなかったのか・・・?」

 その声と表情は、驚愕にわなわなと震えている。

 だが、そんなことはない。

 ナターリアと戦った時は、しっかり全力だった。

 全力だったからこそ、一撃で終わったのだ。

「いや。ちゃんと全力だったよ。だから一撃で終わったのさ。」

 そう言えば、ナターリアは驚愕の表情のまま、呟くように言う。

「そ、そうか、ならよい。だが、Sランクと言えど、S-10程度は、一撃か。」

 結果だけを見れば、そうなる。

 しかし、今回は、俺が一撃で終わらせようとした、という側面もあるのだ。

「結果を見ればそうだけど、一撃で終わらせたかった理由もあるんだよ?」

 俺がそう言うと、ナターリアは訝しげな表情をする。

 対してエミーリアは分かっているようで、頷いている。

 ここは、実戦経験の差だろうか?


 同じSランクとはいえ、S-1とS-10の間には、大きな差があることは事実である。

 通常の戦いの範囲内では、覆すことは難しいだけの差がある。

 だが、攻撃が通用しないわけではない。

 ほかのランク帯で例を挙げるならば、平均的な成人男性はF-6で、よく訓練された超人ではない特殊部隊の隊員はF-1だといわれている。

 力の差は歴然なのだ。

 だが、力の差はあるものの、同じランクを相手にするとなると、実は、少し油断すれば簡単に形勢は逆転してしまう。 

 先程の例でも、正面から戦った場合には平均的な成人男性の勝ち目は極めて薄いが、不意打ちや寝込みを襲う、特殊部隊員が油断しているなど、様々な条件が揃えば、決して勝てないわけではない。

 そのように逆転の可能性は決して無くならないため、同ランク帯の相手と戦うときは、力の差があるとはいえ、決して舐めてかかっていいわけではないのだ。

 そのため、基本的に、Sランク以上の相手に長期戦は避けたい。

 長く戦えば戦うほど、形勢逆転の機会は多くなり、危険なのだ。

 とはいえ、相手との相性によっては、図らずも長期戦になることはある。

 今回は、上手く一撃で終わらせることができたので、よかった。


「ふむ、なるほどな。」

 ナターリアは、納得の表情で頷く。

 わかってもらえたようで、なによりだ。

 そんなことをナターリアに話していれば、鈴が、準備を終えたのか、立ち上がる。

「では、行きましょう。」

 ナターリア、エミーリアと話していると、鈴が言う。

 鈴の方を見れば、何かやっていた機材は一切なくなっていた。

「何してたの?」

 俺がそう問えば、鈴は簡単に答える。

「この部屋、どうも研究施設を隠してあるようなので、そのスキャンを。」

 鈴の言葉に、ナターリアは苦々し気な表情になる。

 まあ、柱に偽装していた培養槽の破片が散らばっているあたり、もはや隠れてもいない気がする。

 ナターリアの目線が培養槽の破片に向いているあたり、ナターリアもわかっているのだろう。

「思ったよりも広い研究施設が隠してあるようなので、技術作戦軍の部隊に、調査するように指示を出しました。」

 ナターリアの表情は、苦々し気なものから諦めに変わっている。

 ナターリアは、戦いに負けたのだ。

 敗者の人権、といった話もあるが、今回に関しては、大人しく受け入れてもらうおう。


 鈴の跡に続いて玉座の間を出ると、そこは、廃墟であった。

 いや、廃墟と言うには、少し違和感がある。

 廃墟に見えるように作られた建物、という感じだろうか。

 建物の傷み具合に対して、崩れ方が不自然だ。

 瓦礫も、外から見えるような場所にしか落ちていない。

 偽装された建物なのだろう。

 壁に開けられた穴から、少し離れた場所に、巨大な白い要塞が見える。

 ・・・いや、あれは、要塞ではないな?

 宇宙間航行艦だ。

 昔、見たことがある。 

 いくつ前の文明だっただろうか?

 細部こそ色々と違うが、宇宙間移動を成し遂げた文明の時代に使われていた艦にとてもよく似ている。

 よく似ているものの、流石に搭載兵装は再現できなかったのか、火砲は現在の碧玉連邦で使用されているモノだ。

 その周囲には碧玉連邦技術作戦軍の部隊が展開し、何やら作業をしている。

 先ほど、鈴が言っていた脱出船というのは、あの宇宙間航行艦のことだったのだろう。

 まあ、昔見たことがあるだけで、別に宇宙間航行艦についての知識があるわけでもない。

 俺が下手に口出しはしない方がいいだろう。

「・・・メタルさん、何か知っていそうな表情ですね?」

 ・・・鈴にばれてしまった。

 とりあえず、過去に見たことがあることと、何もわからないことを説明する。

「なるほど。まあ、メタルさんほど生きていれば、そういうこともありますか。」

 鈴の言葉に、エミーリアとナターリアの二人が、訝しげな表情をする。

 顔立ちは瓜二つな二人だが、無表情の中に少し表情が垣間見えるエミーリアと、しっかりと表情が出るナターリアで対照的だ。

「メタル、何歳?」

 エミーリアがそう問えば、俺が答えるよりも早く、鈴が答える。

「この人は、億単位の年月を生きてきているそうですよ。詳しい年齢は、なんとも。」

 鈴がそう言えば、エミーリアとナターリアの表情が、驚愕に染まる。

 ああ、驚かれてしまった。

 驚いているといっても、エミーリアの表情はあまり動かず、ナターリアの表情は豊かだ。

「億・・・!?」

 ナターリアが驚きと共に言う。

「まあ、正確には数百億かな・・・。」

 ナターリアの言葉を訂正するように、俺が答える。


 鈴の言う通り、俺は、今まで数百億年生きてきた。

 俺が生まれたのは、この星ができてから最初の文明、現在は『第1文明期』と呼ばれている時代、その末期だ。

 その時代から今まで、数多の文明が興っては消えていった。

 俺は、その中で、数多の文明の中で生きてきた。

 素晴らしく生きやすい、幸せな文明もあった。

 どうしても相容れず、生きづらい文明もあった。

 別宇宙にまで勢力圏を広げるほどの、凄まじい技術力の文明があった。

 終ぞ鉄器に至ることなく、滅んだ文明もあった。

 時には文明の中で、時には文明を外から眺め、時には文明と対立し、時には文明には一切関わらず、生きてきた。

 現在の文明は、それなりに生きていて楽しい文明なので、気に入っている。

 だが、世界というモノは面白いもので、いくら生きても、飽きる、ということは、無い。

 長く生きれば飽きて暇になるだろう、と言ってくる者もいたが、そんなことはない。

 まあ、俺よりも頭が良くて、色々考えているような人なら、そんなこともあるのかもしれない。

 それよりもさらに頭が良ければ、地球の仏教でいう悟りというものを開いたりするのかもしれない。

 だが、幸運なのか不幸なのか、俺は、暇になるには欲望に塗れ過ぎていて、悟りを開くには頭が悪かった。

 長く生きていれば、いずれ事故や戦乱で命を落とすという可能性も、高かった。

 実際、幾度となく命の危機には瀕してきた。

 だが、俺には事故や戦乱で生き抜くだけの、いざという時には逃げおおせるだけの物理的な強さがあった。

 無論、最初から強かったわけではない。

 ただ、大変幸運なことに、そういったモノに巻き込まれるまでに、ある程度十分な強さに到達するだけの余裕があった。

 長く生きる中で、親しい者との離別や、悪意による策謀、その他数多の不幸により、生きていく心が失われる、という考えもある。

 確かに、多くの親しい者と、死別した。

 多くの悪意に晒された。

 多くの不幸に、見舞われてきた。

 だが、幸いなことに、俺の精神力は、それらに屈さない程度には強靭だったようだ。

 さらに、俺には兄弟が2人いる。

 その2人と生きてきたことも、俺の精神安定には、素晴らしい影響を与えているのだろう。


 そういった無数の幸運により、俺は、この世界に一切飽きることなく、一切失望することなく、数百億年もの時を、生きてきたのだ。



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