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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
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第66話 次なる戦いへ

 

 治安作戦軍の佐藤=柴雄元帥が到着したので、状況を説明しようとする。

 すると、ナターリアが、頬を押さえながら上体を起こし、言う。

「く・・・くそ、しっかり殴りおって・・・。」

 そんなナターリアの頬は、俺の打擲により、大きく腫れている。

 俺は、そんなナターリアに、言う。

「くそとはなんだ、くそとは。殴るだけで済ませてやったんだぞ。」

 戦いに負けたにもかかわらず、エミーリアの自我を乗っ取ろうとしたのだ。

 殴るだけで終えたことを、感謝すらしてほしいものだ。

 そのやり取りを見て、柴雄は再び疑問を浮かべる。

「・・・どういう状況かね?」

 ああ、そうだ。

 説明しなければ。


 俺は、柴雄に説明をする。

 ナターリアと戦うまでの経緯。

 ナターリアが起こした騒乱と、その背景。

 エミーリアの因縁。

 俺の説明では不足するところは、作太郎が注釈を入れてくれた。

 正直、助かる。

 俺は、説明はそこまで上手くない。


 話を聴いていた柴雄の、内部に浮かぶ核のようなものが、ぐるぐると動く。

 不定形人種の表情は、慣れていないと読み取りづらい。

 まあ、慣れていなくとも、普段あまり動かない核のようなものがこれだけ動けば、なんとなく感情が動いているのだということは、わかる。


 一通り説明を終える。

 説明を終えても少しの間、内容を考えているのか、柴雄の核のようなものは動き続けた。

 10秒ほどで、核のようなものの動きが止まる。

「ふーむ・・・。状況は、わかった。」

 そして、柴雄はナターリアの方を向く。

「さて、ナターリアとやら。今のメタルの説明に、相違はないか?」

 ナターリア側の言い分もちゃんと聞こうというスタンスは、中立さを感じさせる。

 治安作戦軍と言う、警察機構を統括するからこそのスタンスだろうか?

 ナターリアは、訊かれたこと自体に少し驚きつつも、答える。

「あ、ああ。大まかには違わん。」

 その言葉を聞き、柴雄は、悩むような姿勢になる。

「さて。そうなると、自治区間紛争の責任者として事情聴取すべきか、国家転覆を企てたとして逮捕するか、それとも、騒乱を起こしたことを理由とするか・・・。」

 この国は連邦制国家であるため、紛争や騒乱を起こしたとしても、自治区間紛争を起こしたのか、国家転覆を狙ったのかなど、その扱いに幅があるのだ。

 今回のナターリアが起こした騒乱は、一応、人々を赤い宇宙から逃がすためのものだ。

 柴雄曰く、こういった不特定多数の人々を救うために騒乱を起こすケースは珍しいそうで、どういった名目で捕縛するべきなのかが難しいらしい。

「まあ、理由は後で整理するか。起こした事案の内容は重い。少なくとも、捕縛はさせてもらおう。」

 柴雄は、ナターリアに言う。

「立つんだ。抵抗はしないように。」

 ナターリアは、立ち上がろうとするが、上手く立ちあがることができない。

 膝ががくがくと震えている。

「・・・ぐ、た、立てん。」

 打擲したダメージと戦いのダメージが合わさり、立てないようだ。

 その様を見た柴雄が、呆れたように言う。

「メタルよ。だいぶ強く殴ったな?」

 柴雄は、そう言いつつ、ナターリアを担ぎ上げる。

 はて、そんなに強く殴っただろうか?

 力を失っていたところを殴ったから、ダメージが大きいのだろうか。

「往生際が悪いナターリアが悪い。」

 エミーリアに手を出したのだ。

 仕方がないだろう。

 俺がそう言えば、柴雄は軽く笑い、何も言わなかった。 


 そんなやり取りをしつつ、柴雄がナターリアを連行しようとしたとき、鈴が戻ってきた。

 そして、ナターリアを担ぎ上げている柴雄を見て、言う。

「よかった、まだいましたね。ちょっと、連行は待ってもらえますか?」

 鈴がそう言うと、柴雄が鈴の方に頭を向け、言う。

「ふむ。まだ何か聞き取りでも?」

 鈴が答える。

「少し、状況が変わりました。ナターリア氏には、協力してもらうことがあります。」

 それを聞いた柴雄は、ナターリアを床に降ろす。

 すると、ゆっくり降ろしたにもかかわらず、ナターリアが呻く。

「ぐぅ・・・。なにか、冷やすものとかは、ないか・・・?」

 頬を押さえながら上体を起こしたナターリアが、言う。

 そんなナターリアの頬の腫れはさらに大きくなっており、紫色になっている。

 ・・・強くやりすぎたか?

 思ったよりも、ナターリアは力を失っていたようだ。

 膝は未だ力が無く、まだ立ち上がることは難しいようである。

「こちらをどうぞ。罪人、もしくは捕虜を治療しないのは、虐待になってしまいますからね。」

 鈴はそう言い、どこからともなく取り出した氷枕を、ナターリアに手渡す。

「すまない・・・。」

 ナターリアは、氷枕を受け取ると、晴れた頬に当て、患部を冷やす。

「一応、衛生兵を手配しておきますね。」

 そう言い、鈴はタブレットを操作する。

 タブレットを操作して衛生兵を手配する鈴に、柴雄が問う。

「ナターリアに、協力を求めるのだな?」

 柴雄の問いに、鈴が頷く。

「ええ。よいですか?」

 鈴の言葉に、柴雄は口を開く。

「・・・今回の件は、国の存亡に関わるのだろう?」

 柴雄の問いに、鈴は頷き、答える。

「ええ。国どころか、宇宙の存亡に関わります。」

 その言葉に、柴雄の内部に浮かぶ核のようなものが、ぐるぐると動く。

 やはり、不定形人種の表情は、よくわからない。

 だが、さきほどよりも核のようなものの動きが激しい。

 色々考えているのだろうか。

「宇宙か・・・。宇宙の存亡に関わることを、我が国の法解釈云々で止めるのは、流石に愚かだな。」

 ぐるぐる動いていた核のようなものが、ぴたりと止まる。

 考えがまとまったようだ。

「ナターリアは、罪状どころか、捕縛理由も確定しておらん。だが、法解釈や後処理は、私の方でいくらでもどうにかなる。殺す以外なら、好きなようにして大丈夫だ。」

 それで、いいのか・・・?

 まあ、犯罪やその関連法の専門家である柴雄がそう言うのならば、いいのだろう。

 柴雄がそう言うと、鈴は、とてもいい笑顔で、礼を言う。

「ありがとうございます!」

 鈴の礼を聞いた柴雄は、軽く頷き、言葉を返す。

「私は、後処理のために動きはじめる。何かあったら、連絡をくれ。」

 柴雄はそう言うと、どろり、と崩れるようにいなくなってしまった。

 関係部署へ根回ししたり、法解釈を整理したりするのだろうか?

 柴雄が去るのを見届けた鈴は、ナターリアの方を見て、言う。

「ということですので、協力してもらいます。」

 鈴は、そう言うと、ナターリアを雑に担ぎ上げる。

「まて、私はまだ協力するなど・・・。」

 この期に及んで喚くナターリアに、俺は、言う。

「まだ、戦い足りないか?」

 俺がそう言えば、ナターリアはびくりと体を震わせる。

 そのナターリアの様子に、鈴が言う。

「メタルさん、そこまで脅さなくとも、協力させますので、大丈夫ですよ。」

 そう言う鈴の表情は、妙に冷たい笑顔だ。

 ・・・ちょっと怖い。

 ナターリアも、その笑顔に戦慄している。

 少しナターリアにその笑顔を向けた後、鈴は、冷たくない笑顔を顔に宿すと、俺とエミーリアの方を見て、言う。

「メタルさんとエミーリアさんも、同行してもらえますか?」

 俺とエミーリアもか。

 何か協力できることがあるのだろうか。

「場合によっては、お二人にも、協力していただくことになります。」

 俺の頭では、赤い宇宙に関することで、今この段階で特に協力できるものは無いと思っている。

 だが、俺の、戦闘に関してだけは鋭い勘は、別のことを言っている。



 大きな戦いが目の前に迫っている、と。

 

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