第62話 メタルが召喚されるまで
覇山とブライアン、鈴を呼ぶことにして、連絡をする。
今回の作戦全体の統括は鈴が行っているはずだ。
鈴に連絡すれば、全員に話を通してもらえるだろう。
鈴に連絡して事情を話すと、案の定、他の関係者全員に声を掛けてくれるそうだ。
鈴によると、西の辺境での戦闘も落ち着きつつあるようで、鈴自身もある程度余裕ができてきているとのことである。
とはいえ、皆、まだまだ忙しいようで、来るのには少し時間がかかるとのことだ。
他の皆が集まる前に、先にエミーリアとナターリアに、俺がここに召喚されることができた理由を話すことにする。
「まず、俺がここに召喚されたのは、エミーリアに渡したお守りの効果だ。」
俺がそう言うと、エミーリアは、全ての宝石が壊れ、それ自体も大きく歪んでひしゃげ、ぼろぼろになっているお守りを見る。
ナターリアは気が付いていたようで、驚いた様子はない。
俺がエミーリアに渡したお守りには、命を守る呪術を込めてあった。
身代わりの呪い。
その呪いがかかったモノを持っていると、所有者が命を失うタイミングで、その命を守るという効果がある呪いだ。
本来ならば、その呪いをモノにかけた術者、今回の場合は俺にそのダメージが返ってくる術だ。
要するに、術者が所有者のダメージを肩代わりする呪術なのだ。
とはいえ、それでは俺が大きなダメージを負ってしまう。
そう言った事態を防ぐため、宝石に事前にエネルギーを籠めておくことで、そのエネルギーとダメージを相殺させることで解決した。
エネルギーを籠めた宝石がダメージを肩代わりする形になるため、1回発動するごとに1個の宝石が割れていく。
3個目の宝石には、エミーリアが危機から脱することができるよう、その宝石が壊れた際にエミーリア自身を吹き飛ばして状況を無理やり変えることができる術式を組み込んであった。
さらに、お守り自体にもエネルギーを籠めておき、宝石と同じように身代わりになるように設計をしたのだ。
それに加えて、お守りが最後の1回のエネルギー放出をした際には、俺を強制召喚する術式も仕込んでいたのだ。
そのため、俺がエミーリアの元へと召喚されたのである。
その説明をすると、エミーリアが少し首をかしげる。
「・・・術式が、少し狂った?」
エミーリアが言っているのは、お守りが壊れてすぐに俺が召喚されなかったことについてだろう。
これにも、理由がある。
正直、すぐに召喚されなかったのは、完全に誤算であった。
俺は、お守りの効果で召喚されるまでを、思い起こすし、説明をするのだった。
*****
ダエダレアの甲羅にできた洞窟の、奥深く。
術式の核にされたエミーリアを、術式から引き剥がした直後。
俺は、覇山とブライアン、そしてギノーサに、エミーリアについて説明していた。
俺と、しばらくの間一緒に旅をしてきていること。
ジェーンと瓜二つなこと。
今回の騒動の首魁だと思われる者と因縁があること。
そして、何かがあっても俺が助けに行けるようにお守りを渡していること。
すると、ジェーンが、焦ったような表情で、言う。
「あ・・・あなた!早くこの洞窟から出たほうがいいわよ!」
・・・?
どういうことだろうか?
敵の術式を破壊し、術式の核にされていたエミーリアを助け出した。
ダエダレアの周囲に暗雲を生み出す術式は破壊したため、この西の辺境での戦闘も落ち着くだろう。
今のところ、作戦は順調だ。
何か焦ることがあるのだろうか?
「ああ、その表情は、分かってないわね!」
すると、ギノーサは焦った声色のまま、妙な質問をしてくる。
「あなたたち、この洞窟に入って、今、どれくらい時間が経ったと感じてる?」
はて。
どの程度だったか?
洞窟に入ってからだと、移動で1時間から1時間30分くらいで、戦闘で30分ほどだろうか?
「だいたい2時間くらいかな?」
俺がそう言うと、覇山とブライアンも頷く。
どうやら、皆、だいたいそれくらいの感覚のようだ。
「じゃあ、時計はある?」
時計?
ある。
仕事をするときは、つけている。
並みの戦闘では壊れない、頑丈さが売りのシンプルな時計だ。
今回の戦闘は並の戦闘ではなかったが、確認してみれば、幸いなことに、壊れていない。
・・・いや、壊れて、いない?
時計の針が、異様な速さで動いている。
「これは?・・・まさか!」
覇山もブライアンも、何かに気が付いたような反応をしている。
俺達の反応にギノーサが頷く。
「気が付いたみたいね。」
ギノーサが、そのまま説明を続ける。
今、俺たちがいるダエダレアの洞窟には、内部と外で時間の流れがズレるように術式がかけられているのだという。
時計を見れば、俺たちが2時間ほど行動していると思っているうちに、洞窟の外では、12時間以上の経過しているようだ。
さらに、この洞窟の中では、敵が自然と時計を確認することを忘れるような術式も組まれているのだという。
術中に嵌った俺たちは、ここまで一度も時計を確認することがなかった。
そのため、時間が狂わされていることに気が付かなかったのだ。
ギノーサ曰く、騒動の時間稼ぎのために組み込まれた術式なのだという。
さらに、この洞窟全体に、召喚阻止の術式がかけてあるとのことだ。
この洞窟に突入した者が外部に増援として呼び出されるのを防ぎ、外部から洞窟の奥に戦力を一足飛びに召喚することを阻止するためだという。
そこまで聴いた俺は、流石に、状況のマズさがわかった。
エミーリアは、俺がこの洞窟に潜っているうちに12時間以上もの時間、任務に従事している。
そして、もし、そこでエミーリアに何かがあっても、俺がお守りの力で召喚されることは、無い。
顔が青ざめる。
心の奥底から、恐怖と焦りが、沸き上がってくる。
「ダエダレア!」
叫ぶ。
「ちょっと、穴、開けていいか!?」
俺がそう叫ぶと、どこからともなく、小さな亀が現れる。
ダエダレアの端末だ。
どうやら、ダエダレアは、話を聴いており、状況が分かっているようだ。
「・・・仕方ないねぇ。まあ、甲羅の上の山は死んだ組織さ。穴の一つくらい、いまさらさね。」
さっぱりとした口調で、ダエダレアが言う。
俺はその答えを聞いた瞬間、何も言わず、跳んだ。
ダエダレアの洞窟の、天井に突き刺さる。
そのまま、力に任せて、無理やり天井を掘りながら、斜め上へと進む。
洞窟がある山は、逆V字型の鋭い山だ。
真上に掘るより、斜め横に掘った方が、外に出るには近い。
ダエダレアの山は、全力で掘り進むと、数秒で突破することができた。
山肌から、勢いよく、飛び出す。
周囲の暗雲は消えており、空は、明るい。
作戦開始は15時だった。
そこから2時間ならば、夕方ぐらいのはずである。
だが、空が明るい。
12時間。
朝になっているのだ。
その朝日の中に跳び出した俺は、自分の周囲に急激に魔力が渦巻くのを、感じた。
召喚術式だ。
これは、俺がお守りに仕込んだ召喚術式だ。
お守りは、最後まで消費されたのだ。
そして、発動待機状態になっていた術式が、俺が召喚可能な場所に跳び出したので、発動したのである。
こうして、俺はエミーリアの元へと、助けに駆けつけることができたのだ。
*****
俺が説明を終えると、エミーリアは、どこか納得したような表情をしている。
「ふむ。なかなかに、紙一重だったのでござるな。」
いつの間にか、作太郎も近くに来て聴いていたようだ。
ナターリアは、うなだれている。
「・・・西の辺境に展開した私達も、貴様にやられていたのか・・・。」
私達?
そうか。
俺がダエダレアの中で戦ったジェーン達は、ナターリアだったのだ。
「ジェーン達は、ナターリアだったのか。それにしては近接戦闘があまりにも弱かったけど・・・。」
そう俺が言えば、ジェーンは、がっくりとした表情で、言う。
「・・・それは、私の中でも、魔術と呪術に特化した者を送り込んだからだ。」
ある程度の相手ならば、Sランクの身体能力だけでもどうにかなると考えていたらしい。
まさか、Sランクの身体能力だけではどうにもならない超人が3人も来るとは想定していなかったそうだ。
そこまで話したところで、ジジ、という音と共に、目の前の空間に、ノイズが走る。
そして、瞬きほどの時間で、そこには、背の低い女性が立っていた。
「お待たせしました。」
懸木=鈴 元帥が到着したのだ。
「あれ?一人?」
俺がそう言うと、鈴が答える。
「ラピーラには、戦後処理を任せてあります。」
ラピーラ。
ラピーラ=カルヴァン大将。
鈴の副官だ。
鈴に戦後処理を任されたらしい。
「覇山元帥とブライアン中将については、折を見て説明をします。」
そう言い終えた鈴は、ナターリアの方を、見る。
「あなたが、今回の元凶ですね?いろいろと訊きたいことがあります。」
そして、にっこりと、底冷えのするような笑みを浮かべる。
「いろいろ、教えてくれますね?」




