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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
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第61話 固有の世界

 エミーリアをいつまでも抱擁していたい。

 だが、このままでいるわけにはいかない。

 名残惜しいが、エミーリアと離れる。

 そして、ナターリアに視線を向ける。


 ナターリアは、虚ろな瞳で、俺たちを見つめていた。 

 そのナターリアを、エミーリアが、見つめる。

 互いに、何も話さない。

 ナターリアは何かを話そうとしているのか、口を動かしているが、言葉どころか音すら出てこない。

 どうやら、戦闘のダメージが出てきて、話すことができないようだ。 

 戦闘後すぐは話すことができていたのは、まだ、固有の世界が崩壊しきっていなかったからだろう。

 現在では、最早話すことができないほど固有の世界は崩壊してしまったのだ。

 そのナターリアを見つめながら、エミーリアが、言う。

「勝ったのは、メタル。どうする?」

 どうする、か。

 エミーリアの問いかけは、正直、かなり困る。

 

 何故なら、状況がわからないのだ。

 俺は、エミーリアの窮地に召喚され、目の前の敵を倒しただけである

 一応、ダエダレアの中での出来事の関係で、ナターリアが敵であることは何となく判っている。

 だが、それ以上のことは、何もわからない。

 そんな状態でどうするかと問われても、何をしていいか、分からない。


 一応、まずはナターリアに確認しなければいけないことがある。

「とりあえず、完全に負けを認めたってことで、いいんだよな?」

 この確認をしておかなければ、話を進ませづらい。

 戦闘後の処理をしている時に後ろから襲われるのは避けたい。

 俺が問いかけると、ナターリアは、虚ろな表情のまま、ぼんやりと頷く。

 言葉は話せないが、一応、意識はあるようだ。

 だが、反応や表情から、その意識は明瞭ではなさそうである。

 とはいえ、ナターリアが、完全に負けを認めた。

 これで、ナターリアは、少なくとも今すぐにこちらに害をなすことはないだろう。

 ナターリアが虚ろな感じになっているのは、どうしようもない。

 というよりも、こうなるのはわかっていた。

 俺が、それしか勝つ方法が無かったとはいえ、ナターリア固有の世界を破壊したのだ。



 個人固有の世界は、多くの場合、超人の力の源になっている。

 そのため、その世界が大きな損傷を受けた場合、力を失うだけで済めば御の字で、下手したら完全に自己が消滅しかねない。

 それだけ、個人固有の世界はその人物の根幹を為しているものなのである。

 この情報だけでは、固有の世界に相手を取り込むことは、ただ弱点をさらしているだけに感じるだろう。

 だが、実際には、個人固有の世界に相手を取り込むことは、戦闘における切り札としてもとても効果的である。

 自身の世界では、自身こそが最上位者なのだ。

 個人固有の世界は、力の源なだけあり、体外に出力しているより遥かに大きな力を相手に指向できるようになる。

 さらに、自身の世界であるため、その世界の法則すら、自由に改変できるのだ。

 そのため、本来ならば、相手を取り込むことさえできれば、捻り潰すも八つ裂きにするも、存在自体を抹消するのも、思いのままになる。

 さらに、レギオン、特に群体レギオンという種は、自身の無数の自己を自身の内面にある固有の世界で管理しているため、自身の固有世界が非常に重要になる。

 それ故、他の種よりも力が小さいうちから固有の世界が強固かつ広大に発達しやすい。

 ナターリアの世界も、群体レギオンとして強固に発達した固有の世界だったのだろう。

 切り札にするのも納得できる。


 だが、今回はそれが仇になった。


 固有の世界に相手を取り込んだとしても、自由にならないものが、一つだけある。

 それは、取り込んだ相手自身の固有の世界だ。

 だが、それでも多くの場合、取り込まれた側は、世界の主からの攻撃に耐えることができない。

 たとえ、取り込まれた者自身の世界の強度が勝っていたとしても、体外に出力可能な力は、取り込まれた者自身の世界の力の数分の一程度になってしまうからだ。

 さらに、ナターリアほどの力を持つ超人の固有の世界は、この宇宙に並ぶレベルの強度を持っている。

 相手が耐えられるなど、考えたこともなかったのかもしれない。


 だが、俺は、耐えた。

 

 世界全てが襲い掛かってくるため、小細工は通用しなかった。

 ただ、自身の防御力と精神力で耐え抜くしかない。

 そして、今回は、俺の防御力と気合が、ナターリア固有の世界の強度を超えたのだ。

 耐えることができたのである。

 さらに、俺は世界を破壊できるだけの力と技を持っていた。

 ナターリアにとって俺は、とても相性の悪い相手だったのかもしれない。


 そんなことを考えながら、虚ろな表情のナターリアを見る。

 一応、こちらの言葉には反応しているため、完全に自己が崩壊したわけではなさそうだ。

 それどころか、眼に、少しずつだが光が戻りつつある。

 やはり、Sランクと自身で言うほどの強さは、伊達ではない。

「・・・復活してきた?」

 エミーリアが、そんなナターリアを見つめ、言う。

「どうやら、少し回復してきたようだね。」

 俺が頷きながらそう言うと、ナターリアの口が、むぐむぐと動く。

「・・・・・・・・・ぁ、ぁあ。」

 ナターリアは、口をパクパクと動かし、少し、音を発する。

 どうも、何かを話そうとしているらしい。

 だが、うまく話せないようだ。

 少し、口をもごもごとした後、ナターリアは、改めて口を開いた。

「・・・ぁ、・・・ぁあ。あァ、ヤっ・・・と、こエが、出る。」

 なんと。

 驚いた。

 もう言語機能が回復してきているようだ。

 今の短い言葉の中ですら、声色が明らかに回復してきている。

 声が出るようになったナターリアは、未だ虚ろさが抜けきっていない瞳で、ぎょろり、と、俺を睨んだ。

「こンな感覚は、初めテだ。」

 まだ少しイントネーションが変だが、会話には問題なさそうなほど、回復してきている。

「よくもまあ、やってくれたものだな。」

 なんと、この短い時間で、憎まれ口まで叩けるほど回復したようだ。

 表情からも虚ろさが抜け、ほぼ完全に自我を回復してきているように見える。

 その様子、さらに言葉と態度に、俺は、蒼硬を構える。

「なんだ?まだ元気じゃないか?もっかい戦るか?」

 俺がそう言うと、ナターリアの表情が、恐怖に引き攣る。

「い・・・いや、やらん、やらん。既に力は残っていない。」

 ナターリアはそう言い、小さく両手を上げる。

 小さく手を上げつつも、ナターリアは言葉を続ける。

「敗者が問うのも、少し違うかもしれんが、訊いてもいいか?」

 はて?

 何か疑問があるのだろうか?

「どうやって、ここまで駆けつけることができたのだ?」

 なるほど。

 確かに、疑問に思うのも当然だ。

「私も気になる。」

 エミーリアも、どうやら、気になっているようだ。

 そうなると、俺も聞きたいことがある。

「じゃあ、俺も聞きたいことがあるし、一旦、情報のすり合わせをしておこうか。」

 互いにわからないことが多いのだ。

 今回の戦いの真相。

 エミーリアについて。

 これまでの戦い。

 ナターリアの目的。

 わからないことだらけである。

 そんな中で、敵の首魁を倒し、情報を聞き出せるのだ。

 様々な答え合わせができる。

 

 情報を聞き出すとなれば、今まで一緒に作戦を行っていた関係者を招集したほうがいいだろう。

 残念なことに、俺の頭脳では、十分な聞き取りが行えない。

 俺より頭のいい、覇山やブライアン、できたら懸木も呼びたいところだ。

 だが、勝者は俺とはいえ、エミーリアとナターリアの関係等は、エミーリアの根幹に関わる部分でもある。

 いろいろ聞き取る中には、それらの話も入ってくるだろう。

 当然、エミーリアに許可を取る必要がある。

「エミーリア、関係者を呼んでいい?」

 俺がそう問えば、エミーリアが頷く。

 俺は、エミーリアの同意が得られたので、すぐに関係者たちに連絡を始める。

 人を集める俺を見て、ナターリアが不貞腐れた表情をしている。

 あまり人を呼ばれたくないのだろう。

 だが、俺は人を集めることは、やめない。



 今回は、敗者に拒否権は無いのだ。


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