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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
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第60話 決着

 エミーリア視点


 メタルに拘束魔術を破壊してもらった瞬間、逃げた。

 このままでは、メタルの邪魔になる。

 逃げるために身を翻した瞬間、作太郎と特殊部隊員たちが目に入る。

 全員、逃がさなければいけない。

「目を反らすとは、いい度胸だな!」

 メタルの声が響く。

 その瞬間、ナターリア達が止まったのが、分かった。

 今しかない。

 咄嗟に数人展開し、作太郎と特殊部隊員を回収。

 そして、すぐに一心不乱に逃げる。

 振り返る余裕もない。


 幸いにして、玉座の間には、戦闘の余波で大きな亀裂が無数にできている。

 その亀裂の中には、人が簡単に通り抜けられるサイズのものも多い。

 逃げる背後では、メタルとナターリアが戦う音が聞こえる。

 気配と戦闘音で、分かる。

 ナターリアは、私の逃走を妨害しようとしている。

 そして、メタルがナターリアを足止めしてくれている。

 メタルを信じ、一気に駆け抜け、玉座の間から脱出する。

 

 脱出した先は、幅の広い通路になっていた。

 玉座の間の中の綺麗さとは打って変わって、苔むし、ひび割れている。

 屋根はあるが壁はない。

 いや。

 壁は崩れた後のようだ。

 長く使っている施設のようにも見え、多くの場所が崩落し、廃墟じみた雰囲気を放っている。

 だが、玉座の間の様子を見るに、この廃墟感は、外から見た際のカモフラージュなのかもしれない。

 玉座の間の外周の建物は、廃墟感こそあるが案外広く、多くの瓦礫があるため、隠れる場所には困らない。

 回収してきた作太郎と特殊部隊員を、風雨に当たらないような場所を選んで寝かせる。

「かたじけない・・・。」

 悔しそうな、情けなさそうな声色で、作太郎が言う。

「・・・ん。」

 首を横に振る。

 作太郎には、助けられてばかりだった。

 作太郎が謝ることなど、何もない。

 私が首を振ったのを見て、作太郎は、少し、落ち着いたような雰囲気を纏う。

「・・・はっはっは。某らしくも、ありませんでしたな。」

 作太郎は、そう、からり、からり、と笑う。

「しかし、酷く疲れました。少し、休ませていただきまする。」

 その言葉と共に、作太郎の身体から力が抜ける。

 一瞬、力尽きてしまったかとギョッとしたが、そんなことは無かった。

 死んではいない。

 ただ、今まで気を張って意識を保っていたが、落ち着いたので、意識を失ったのだ。

 意識を失うほど、ダメージが大きい中、意志の力だけで意識を保っていたのだ。

 今は、休んでいてもらおう。

 特殊部隊員に目を向ければ、皆、まだ意識を失っている。

 全員を簡易的に診断してみたが、命に別条がある者はいないようだ。

 この特殊部隊員も、寝かせておいていいだろう。

 少し、落ち着いたので、自然と、目線が玉座の間の方を向く。


 その瞬間、一瞬、玉座の間が、ズレた。


 幸い、立っていなかったので巻き込まれなかった。

 巻き込まれていたら、無事では済まなかっただろう。

 巨大な空間魔術だ。

 ナターリアが、空間ごとメタルを切断しようとでも思ったのだろうか?


 さらに、その空間魔術以降、物音が、消えた。

 

 先ほどまで、凄まじい戦闘音が響いていた。

 だが、巨大な空間魔術が実行された感覚の後には、一切音がしなくなった。

 メタルが、やられた?

 そんなバカな。

 それとも、ナターリアを倒した?

 それにしては、静かすぎる。

 倒したのなら、普通に考えれば、メタルが声を掛けに来るだろう。

 だが、その気配も、無い。

 流石に、気になる。

 

 息を押し殺して、玉座の間の中が見える亀裂に近づく。

 そして、玉座の間の中を、のぞき込む。


 玉座の間の中央に、ナターリアが、佇んでいる。

 周囲に展開していたはずのナターリア達が、いない。


 そして、メタルも、いない。


 一体、どこに行ったのだろうか?

 まさか、メタルが、負けた?

 しかし、それにしては、ナターリアが動かない。

 ナターリアの目は、焦点が会っていない。

 何か、心ここにあらず、と言った雰囲気だ。

 一体何が起きたのか?

 そんなことを考えていると、異変は起きた。


 ナターリアが、がばりと、顔を上げる。

 そして、苦しそうに、身体を大きく仰け反らせる。

 その表情は、鬼気迫ったものだ。


 そして、ナターリアの首筋、ちょうど、喉仏があるあたりから、一筋の青い光が溢れ出す。

「がぁ・・・・ぁぁぁああああっ!」

 ナターリアの叫びが、玉座の間にこだまする。

 溢れ出した一筋の光は、天を突きさすかの如く一直線に走り、玉座の間の天井を貫通する。


 さらに、青い光は、喉から縦一直線に下腹部まで、一気にナターリアを斬り裂いた。


 その余波で、玉座の間の壁と天井に、大きな一本の亀裂が出来上がる。 

 青い光が消えると、ナターリアの喉から下腹部は、一筋に斬り開かれていた。

 切断面は、青。

 本来ならば内臓とかが見えそうな傷の奥には謎の空間が広がっており、私の位置からは深い闇に染まっているようにしか見えない。

 ナターリアは、動かない。

 

 そのまま、静止すること、数秒。

 次の瞬間、決壊するように、その斬り開かれた穴から、紫色のエネルギーが迸る。

 ナターリアから、大量のエネルギーが流出しているのだ。


 そのエネルギーの奔流の中、一瞬、青いモノが見えた。

 その青いモノは、上空で翻ると、何事もなかったかのように着地。

 そして、見覚えのある剣をナターリアに向かって構え、残心を取っている。



 メタルだ!

 メタルは、無事だったのだ!



*****


メタル視点



「私の、負けだ。」


 ナターリアがそう言った瞬間、世界は、崩壊した。

 世界を両断する青い一筋のラインに向かって。

 崩れ落ちるように。

 吸い込まれるように。

 一気に崩壊していく。

 俺は、崩壊する流れに身を任せ、逆らわない。

 逆らうこともできなくはないが、崩れ行くこの世界に留まる理由もない。 

 ナターリアは、既に崩壊する世界に飲み込まれ、どこにいるかわからなくなった。

 いや。

 この世界はナターリアの内面。

 どこにいるも何も、周囲はすべてナターリアだった。

 ということは、ナターリア自身が、崩壊しているのだろうか?


 そんな、とりとめもないことを考えながら、崩壊の流れに身を任せる。


 崩壊していくと、青い一筋のラインが何なのか、分かるようになる。

 最初は、俺のエネルギー色が青なので、その色かと思っていた。

 それも、間違いではないようだ。

 世界の断面は、俺のエネルギーに焼かれ、青色をしている。

 だが、そのさらに奥に見える青は、違う。


 ナターリアの世界の外に広がる、元居た世界だ。


 俺の斬撃は、どうやら、ナターリアの世界だけにとどまらず、外の世界の玉座の間の壁も叩き斬ったらしい。

 見えていた青い色は、壁が割られたことで見えた、青空だったのだ。

 

 その青い空に吸い込まれる。

 吸い込まれるように、身体は、加速していく。

 そして、ナターリアの世界から通常の世界に出る瞬間、一気に身体が通常の世界側に引っ張られた。


 射出。

 そう表現するのが正しい勢いで、ナターリアの世界に飲み込まれる前に見ていた景色の中に、放り出される。

 空中で体勢を立て直し、着地。

 蒼硬を構え、周囲を確認する。

 壁の亀裂からは、エミーリアが、こちらの様子を窺っている。

 可愛い。

 だが、エミーリアを眺めているわけにもいかない。

 ナターリアが立っているであろう方向に、蒼硬を構える。



 玉座の間の中央に、ナターリアが、立っている。

 


 その姿は、変わり果てていた。

 目は虚ろ。

 肌に生気はなく、手足に力もない。

 

 そして、喉元から下腹部まで、身体の中心線上を縦一直線に走る、大きな傷。


 傷の奥は、漆黒の闇に包まれており、見えない。

 皮膚の断面に当たる部分は、青い光を纏っており、焼き切れたようになっている。

 さらに、ナターリアの全身には、傷が原因で生まれたであろう、無数の亀裂が走っている。

 俺は、あの青い傷口から、跳び出してきたのだろう。

 


 生気のないナターリアを観察していると、虚ろな瞳が、ぎょろりと動く。

 ナターリアは、その虚ろな瞳で、俺を見据え、口を開く。

「・・・好きにするがいい。」

 好きにする、と言っても、何をすればいいのか。

 俺はエミーリアを助けに来ただけで、ナターリア自身に要求することは、特に無い。

「好きにしろって言われてもなぁ・・・。」

 すぐには思いつかない。

 そんなことを考えていると、ナターリアの体表面の亀裂が、ゆっくりと治っていく。

 俺は、そんなナターリアを見て、蒼硬を構えなおす。

 すると、ナターリアは諦めの滲む口調で、言う。

「外見を取り繕っているだけだ。もはや、戦う力はない。」

 その言葉に、俺は、蒼硬を下ろす。

 俺が蒼硬を下ろしたのを見て、外から様子を窺っていたエミーリアが、駆け寄ってきた。

 駆け寄ってきたエミーリアを、両手を広げて迎え入れる。

 飛び込むように抱き着いてくるエミーリアを、受け止め、抱き返す。

 

 そのまま、無言で抱擁。


 俺とエミーリアが抱擁している様子を見て、ナターリアが、ポツリと、言う。

「あぁ・・・。これは、完全に、負けだ、な。」


 こうして、俺はナターリアに勝利したのだった。


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