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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
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第58話 一進一退からの・・・

「忌々しい程、強いな。」

 心底憎らしげな声を出すのは、リーダー格のナターリア。

 俺は、それに答えず、蒼硬を構えて、睨む。

「・・・ふん。」

 リーダー格のナターリアは、鼻を鳴らし、他のナターリア達とは違う濃い赤色の剣を構え、こちらを睨み返してくる。


 濃い赤色の剣を構えたリーダー格のナターリアから発せられる雰囲気は、他のナターリアとは、明らかに異なる。

 明らかに、他のナターリアとは違う。

 

 互いに武器を構え、睨み合う。

 ナターリアの構えは、身体を斜にし、剣を左手に持ち、腰ぐらいの高さに構えて、切っ先をこちらに向けたもの。

 斜に構えているため、ナターリアの右手は隠れている。

 いや、あれは意図的に隠しているな。

 警戒する必要がありそうだ。

 ナターリアは、ダエダレアの暴走など、これまで、数多くの搦手を使ってきた。

 だが、これまでの戦闘においては、個人の戦闘能力と人数による力押しが中心だった。

 このあたりで、搦手を使ってきそうだ。


 俺は、ナターリアの動きに対応できるよう、両足を大きめに広げて腰を下げる。

 蒼硬は、切っ先をナターリアの首筋に向けるくらいの高さに構える。



 先に動いたのは、ナターリア・・・いや、その表現は正確ではない。

 ナターリアが動こうとしたことを読み、先に動いたのは、俺だ。


 ナターリアが踏み出した動きに合わせ、首に向けて突きを放つ。

 ナターリアは突きを首をひねって躱し、距離を詰めてくる。

 俺の腹に向けて赤色の剣を突き出してくるので、身体をずらして躱す。

 躱しつつ、その動きを攻撃に繋げ、横薙ぎを放つ。

 しかしナターリアはそれを躱し、赤色の剣が際どいタイミングで俺の首筋を狙ってくる。

 身を低くして避けつつ踏み込み、ナターリアの腹部を切り上げるように逆袈裟斬りを放つ。

 だが、それは赤色の剣で受け流される。

 だが、受け流しを力で無理やり押し戻し、ナターリアの姿勢を崩す。

 そこへ、蒼硬を翻し、側頭部に向けて一閃。

 だが、ナターリアの防御が間に合う。

 とはいえ、威力を殺しきれず、ナターリアが少しよろける。

 追撃しようとしたが、ナターリアが、右手を動かそうとする。

 隠していた右手だ。

 何をしてくるかわからないので、一瞬、様子を窺ってしまう。

 だが、ブラフだったようだ。

 追撃ができずに止まった俺に向けて、ナターリアが再び踏み込んでくる。


 一進一退の、激しい攻防。

 今戦っているリーダー格のナターリアは、その身体能力も、戦闘技術も、どちらもこれまで戦ったナターリア達より、数段優れている。

 剣撃は鋭く、体捌きは的確で、動きは速い。

 だが、俺に勝るほどではない。

 隠していた右手を上手くブラフに使ってくるが、それでも、俺の方が少し押している。

 優勢だ。



 ・・・嫌な予感がする。


 

 優勢な、はずなのだ。。

 それなのに、嫌な予感がする。

 俺が押している。

 現状、ナターリアが防戦気味になっている。

 しかし、嫌な予感は、どんどん強くなっていく。

 嫌な予感が現実のものになる前に、ナターリアを倒したい。

 倒したいのだが、攻めきれない。

 嫌な予感で焦り、攻めが雑になっている。

 そして、気が付いたら、ナターリアが、防御中心の動きになっている。

 俺の攻撃は、上手く躱され、赤色の剣に防がれ・・・。


 赤色・・・?


 いや、剣の色が、赤じゃない。

 赤紫、いや、紫色になっている。

 不自然に隠された右手に気を取られ、剣の変化に気が付かなかった。

 剣に、ナターリアのエネルギーが籠められている。

 俺の隙をついて、ナターリアが、紫色になった剣を、横薙ぎに振るう。

 

 まずい!


 俺は、咄嗟に床に伏せるように身を低くする。

 それとほぼ同時に、一瞬、世界が『ズレる』。

 床に伏せるような姿勢の俺の頭上の広い範囲の、空間が斬られた。

 世界がずれたのは、ほんの一瞬だった。


 だが、その一瞬の影響は、あまりにも大きかった。

 

 壁が崩れ、周囲の景色が、変わる。

 玉座の間ごと、両断されたのだ。

 先ほどまで、玉座の間の壁の日々から見えていたのは、青空だった。

 だが、今、崩れた壁の向こう側から出てきたものは、違った。


 やられた。


 さっきまでと今で、景色が全く違う。

 ナターリアによって作られた空間に、飲み込まれてしまったのだろう。


 周囲を確認する。

 空を見れば、歪で複雑な形の雲が無数に浮かぶ、深い紫色の、空。

 いびつな形の雲は、風もないのに蠢き、常に形を変えている。

 雲の形は、時折、腕や足に見えたり、何かの顔に見えたりする。

 地面は、俺がいる場所だけは玉座の間の大理石のような材質のままだが、それ以外の地面は一変し、表面がごつごつした、岩のような質感の地面になっている。

 ・・・岩に見えた地面は、確かに岩のような質感なのだが、よく見ると、無数のナターリアの顔が集まってできたような形状をしている。

 一つ一つの顔は、近くで見ると顔なのかどうかよくわからないくらいの風化具合だが、距離を開けて見れば、確かにナターリアの顔である。

 気が付いてしまえば、空の雲の形も、時折、ナターリアの顔を浮かべている。

 そして、視界に入るは、どの顔も、無表情。

 ひどく不気味だ。

 この空間は、明らかに、ナターリアにより創り出されたものだ。

 しかも、地面の無数のナターリアを見るに、ナターリア自身の根本、非常に深い部分に紐づけられた空間なのだろう。


 ナターリアは、十数m離れたところに、立っている。

 蒼硬を構え、ナターリアに、さらに、周囲を警戒する。

 ここは、ナターリアによって創り出された空間。

 何が起こるか、わからない。


 嫌な予感がして、咄嗟に、蒼硬を背後方向に刺し込む。

 実体が無いのに重いという、矛盾した感触。

 空間の歪み等を斬りつけたときの感触に似ている。

 気が付けば、十数m離れた場所にいたはずのナターリアが、背後にいて紫色の剣を振りかぶっている。

 咄嗟に前に跳んで躱す。

 なぜか、躱した先にナターリアがいる。

 そのナターリアに向けて蒼硬を振るうも、ナターリアは掻き消えてしまう。

 搔き消えたナターリアは、十数m先に出現した。


「私は世界、世界は私。」


 ナターリアの声がする。

 その声は、見えているナターリアからではなく、空間自体全てが発しているように聞こえた。

 

「ここは私の世界。世界に抗えるなど、思わぬことだ。」


 ナターリアは十数m先に見えるのに、気配は全方位から感じる。

 ナターリアが世界で、世界がナターリア。

 その言葉は、嘘ではないのだろう。


 ここは、ナターリアの世界。



 俺は、一つの世界を相手にすることになったのだ。



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