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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
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第57話 激闘


 名乗り終え、再び、互いに向き合う。

 互いの目には、怒りが籠っている。

 俺の怒りは、愛しいナターリアを苦しめた憎いナターリアへの、怒り。

 ナターリアは、計画を悉く邪魔された怒り。

 その怒りが、自然に口を突いて、言葉になって出る。

「ぶちのめしたらぁ!」

「死ぬがいい!」


 叫ぶと同時に、床を蹴る。

 ナターリア達も俺とほぼ同時に動き出した。


 最初の接敵は、本能に任せて突進してくる新たなナターリア達。

 他のナターリア達と違って様子見も何もなく突っ込んでくるため、動き自体は速い。

 他のナターリア達と連携が取れていないところを見ると、レギオンとはいえ、独立性が高いようだ。


 一番近いナターリアが嚙みつこうとしてきたので、その口の中に拳を捻じ込む。

 培養槽から出たばかりのナターリアの歯の強度では、俺の肌に傷をつけることはできなかった。

 拳を受けたナターリアは、歯の破片と血を口から飛び散らかしながら、たたらを踏む。

 噛みつくのは危険だと察したらしく、別のナターリアが掴みかかろうとしてきたので、その腕を掴み、振り回す。

 そして、他のナターリア達をナターリアで殴りつける。

 数人のナターリアを殴ると、掴んでいるナターリアが意識を失ったので、投げ捨てる。

 すると、新たなナターリア達の合間から軽戦士仕様のナターリアが二人襲い掛かってくる。

 本能のままに襲い掛かる新たなナターリア達を隠れ蓑にして接近していたようだ。

 上段と下段の攻撃を併せて、躱しづらい攻撃を放ってくる。

 感情的になっているかとも思ったが、案外冷静な戦法だ。

 踏み込み、下段の、脛を斬るように横薙ぎに振られた短剣を踏みつける。

 それと同時に、上段の、首を狙って放たれた斬撃を蒼硬で弾く。

 返す刀で、上段のナターリアの側頭部を蒼硬の峰で打つ。

 さらに、下段のナターリアが踏みつけられた短剣を捨てて立ち上がろうとしたので、踏みつけるように足を振り下ろす。

 上段のナターリアは卒倒し、下段のナターリアは床に上半身をめり込ませて意識を失った。

 

 盾を前面に押し出して突撃してきた近接戦仕様ナターリアをタックルで弾き飛ばし。

 合間を縫って襲い掛かってくる軽戦士仕様ナターリアを蒼硬で打ち据え。

 本能のままに襲い掛かってくる新たなナターリアは、力で捻じ伏せて。

 撃ち込まれてくる魔術には、胴体に抱き着いているナターリアを引き剥がしてぶつける。

 一回ぶつけてから、明らかに、撃ち込まれてくる魔術の威力が低くなった。


 優勢に戦いを進められている。

 そう思った瞬間、背筋にぞわりとしたものを感じたので、横方向に跳ぶ。

 すると、先ほどまでいた場所の景色が、一瞬、ずれるように歪んだ。


 空間魔術だ。

 空間自体を“ずらし”、相手を空間ごと両断する魔術である。

 基本的に、どんな相手でも防御力を無視して両断できる、大魔術だ。

 さらに、弾速の概念がないため、躱すのが非常に難しい。

 魔術の威力が下がったと思ったとたんに、今までとは格の違う威力の魔術が飛んできた。


 次々と、空間魔術が放たれてくる。

 それらを、直感のみで躱し続ける。

 俺の力ならば、無抵抗で両断されることは無いだろうが、決して小さくないダメージを受けそうだ。

 あまり喰らいたくはない。


 これは、魔術戦仕様のナターリア達から片付けなければ、厄介だ。


 そう思い、魔術戦仕様のナターリア達に向かおうとすれば、前衛のナターリア達は、次第に、なりふり構わず俺を止めようとしてくる。

 動きを止めて、魔術を当てようという魂胆だろう。

 数人のナターリアが、俺を止めようと腕に掴みかかる。

 さらに数人のナターリアが、俺の足に、胴体に抱き着き、動きを止めようとする。


 だが、その程度の力では、俺は止められない。


 腕を振り回し、腕に掴みかかってきたナターリア達を、足に抱き着いているナターリアに叩きつける。

 足を振り上げ、2、3人まとめて蹴り散らす。

 盾で抑え込みにかかってきたナターリアは、その盾ごと蹴り、踏みつけ、圧し潰す。

 剣で斬りつけられれば、その瞬間に筋肉に力を籠めて剣を弾き。

 殴られる瞬間には、向こうが当てるよりも早く、カウンターで殴り返してやる。


 蹴散らしている最中も、空間魔術が襲い掛かってくる。

 どうにか躱しているが、やはり、躱しきれない。

 ついに被弾してしまった。

「ぐぅっ!」

 腹部に、引きちぎられるような、強い力が加わる。

 思わず、声が出てしまった。

 なかなかに、痛い。

 耐えられない威力ではないが、無視できる威力でもない。


 その後も、空間魔術の被弾を最低限に抑えながら、ナターリア達を倒し続ける。

 すると、気が付けば、前衛を担っていたナターリア達は、大半が戦闘不能になっていた。

 これなら、魔術戦仕様ナターリア達の対処をすることができる。


 魔術戦仕様のナターリア達に向けて前進する。

 前進する最中、無数の魔術が襲い掛かってくる。

 空間魔術。

 光魔術。

 無魔術。

 他のナターリアを巻き込まないようになのか、今まで撃ってこなかった明らかに高威力な魔術も混じっている。

 空間魔術は先ほどと同じ、空間切断魔術。

 光魔術は、その名の通り光速で着弾する、凄まじい熱量を持った光線魔術。

 無魔術は、触れたものを無に帰す不可視の攻撃を放つ魔術。

 一つ一つが、複数の大魔術師が長時間の儀式の果てに放つような超大魔術だ。

 その魔術たちが、機関砲のように連射されてくる。

 襲い来る無数の魔術を、辛うじて躱しながら前進する。

 一発一発が凄まじい威力の魔術たちだ。

 できることなら喰らいたくはない。

 だが、どうしても被弾してしまう。

 空間魔術を喰らった時には、身体が引き千切られそうな衝撃を受け。

 光魔術に被弾した時には、全身の血液が沸騰するような灼熱感に包まれ。

 無魔術に飛び込んだときは、何か大切なモノがごっそりと奪われそうな虚脱感を感じる。

 だが、耐えられる。

 空間魔術は、引き千切られそうな肉体に力を込めて筋力で耐え。

 光魔術は、体に纏った自身のエネルギーで霧散させ。

 無魔術は、何も奪わせないという強い意思で弾き返す。


 ダメージは決して小さくないが、前進。

 そして、魔術戦仕様のナターリア達の集団に突っ込む。

 突っ込んだ瞬間、魔術戦仕様のナターリア達は、咄嗟に2グループに分かれた。

 杖をメイスのように振り回して戦う前衛と、魔術を撃ち込む後衛だ。

 だが、ここまで近づいてしまえば、こちらのものである。

 一人のナターリアからメイスを奪い、蒼硬と合わせて二刀流で振り回す。

 手近なナターリアから、次々と攻撃を叩き込み、昏倒させる。

 強大な魔術が撃ち込まれるが、この距離ならば、発動モーションを見てから躱すことができる。

 恐れることは、無い。

 近いナターリアから、どんどん昏倒させていく。


 そして、ついに、呪剣を持ったナターリアの元に到達した。

 近くに寄ったことで、呪剣に刻まれた術式を読み取ることができる。


 どうやら、エミーリアから力を奪い取るための術式のようだ。

 

 この呪剣でエミーリアを殺害し、力を奪うつもりだったのだろう。

 エミーリアから力を得るための重要な役割を担った個体だ。

 そのため、俺が襲い掛かれば逃げだすかとも思ったが、なんと、果敢にもその呪剣を構え、襲い掛かってくる。

 俺も蒼硬を振るい、迎え撃つ。

 

 数合、切り結ぶ。

 呪剣を持ったナターリアの技の冴えはなかなかなもので、俺の剣速についてくることができている。

 さらに数合、切り結ぶ。

 見えた。

 呪剣の弱い部分、ナターリアの動きの隙、そのどちらもが、見えた。

 また数合、切り結ぶ。

 切り結ぶ中で、都合が良いように、ナターリアの動きを誘導する。

 そして、最後の一合。

 剣が接触する瞬間、呪剣の弱い部分に、蒼硬の刃を立てる。


 その瞬間、ナターリアが持つ呪剣の刀身は、キンッ、という甲高い音と共に、半ばから斬れ、吹き飛んで行った。

 呪剣を斬り飛ばしたのだ。


 突如として刀身の半分を失った呪剣に、呪剣を持ったナターリアは、唖然としている。

 唖然として動きの止まったナターリアの側頭部に、蒼硬の峰を一撃。

 その一撃で、呪剣を持ったナターリアは、昏倒した。


 呪剣を持ったナターリアを昏倒させた、まさにその瞬間、背後に嫌な気配を感じ、その方向に蒼硬を差し込む。

 硬い手応え。

 舌打ち。

 その舌打ちの主に向けて、蒼硬を振るう。

 再び、硬い手応え。


 リーダー格のナターリアだ。

 どのような方法かは知らないが、気配を隠して俺の背後まで移動し、奇襲を仕掛けてきたようだ。

 

 リーダー格のナターリアは、大きくバックステップし、距離を取る。

 それに追随するのは、まだ立っている、数少ないナターリア達。

 気が付けば、戦場に立っているナターリアは、リーダー格のナターリアを含めて5人まで減っている。

 リーダー格以外のナターリアは、近接戦仕様が2人、軽戦士仕様が2人。

 他のナターリア達は、倒れていたり、壁や天井、床に突き刺さったりしている。

 立っているナターリア達以外は、皆、戦闘不能なようだ。


 リーダー格のナターリアのみを残し、4人のナターリアが、散開する。

 一瞬、包囲攻撃をしてくると思い身構えたが、どうやら、戦闘不能なナターリア達を救助に向かったようだ。

 

「忌々しい程、強いな。」

 心底憎らしげな声を出すのは、リーダー格のナターリア。

 俺は、それに答えない。

 答えず、蒼硬を構えて、睨む。

「・・・ふん。」

 リーダー格のナターリアは、鼻を鳴らす。

 そして、他の近接戦仕様のナターリア達とは違う、濃い赤色の剣を構え、こちらを睨み返してくる。


 濃い赤色の剣を構えたリーダー格のナターリアから発せられる雰囲気は、他のナターリアとは、明らかに異なる。

 どうやら、全員が均一な強さのエミーリアと異なり、ナターリアは、リーダー格の者が最も強いらしい。

 数でかかっても勝てないと判断したようだ。



 俺とナターリアは、真の一対一で、睨みあうのだった。

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