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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
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第56話 逃走


「培養は不十分だが、ある程度は動けるだろう。」


 この広間に並んでいた柱は、培養槽だったのだ。

 ナターリアの言葉に、崩壊した培養槽から現れた長い紫の髪の、ほんのり緑色の肌をした、小柄な女達が、立ち上がる。

 その数、16。

 倒れている女たちは16人よりも多いが、動くことができるのは、16人だけのようだ。 


「行け、新たなる私達よ。そして、奴らを喰らえ。力を得るのだ。」


 ナターリアの号令で、女達、新たなナターリア達は、顔を上げる。

 その顔立ちは、ナターリアと瓜二つ。

 だが、表情はなく、口は耳元まで裂けている。



 新たなナターリア達は、表情一つ変えず、獣のように、技術も何もなく俺とエミーリアを狙って飛び掛かってくる。

 動きは、早い。

 さっきまで戦っていたナターリア達と比べても、劣るモノではない。

 飛び掛かってきた一人に、カウンター気味に拳を当てる。

 軌道上に拳を置いただけなのに、見事にクリーンヒット。

 動きが単純すぎる。

 その後も、数人の突撃を止める。

 戦略超人と呼ぶにふさわしい身体能力こそあるが、こいつらだけでは、あまり強くはないようだ。 

 正直、一人一人の膂力や俊敏性などの身体能力に関しては、俺の方が優れている。

 ナターリア達が厄介なのは、その人数と連携、戦闘技術なのだ。

 新たなナターリア達には、その厄介な技術がない。

 とはいえ、新たなナターリア達が動くのに合わせて、他のナターリア達も、動き出している。

 決して、座視できる状況ではない。

 そして、エミーリアを守らなければならない状況の関係から、こちらから攻勢には出づらい。

 先ほどの奇襲は、相手が俺の動きを知らないからできたことだ。

 今から仕掛ければ、ただエミーリアが狙われるだけになってしまう。

 そんなことを考えながら戦っていると、軽戦士仕様のナターリアが、攻勢に混じり始める。

 さらに、近接戦仕様ナターリアも、攻勢に加わる。

 加えて、それらの隙を補うように魔術戦仕様のナターリアから魔術攻撃も飛んでくる。

 

 理性を失った猛獣のように襲い掛かってくる、新たなナターリア達。

 その合間を縫うように、鋭い一撃を差し込んでくる軽戦士仕様のナターリア達。

 盾を前面に押し出し、強いプレッシャーを掛けながら巧みに攻め込んでくる、近接戦仕様のナターリア達。

 そして、決して無視できない威力の魔術を絶妙なタイミングで撃ち込んでくる、魔術戦仕様のナターリア達。

 それらすべてが合わさって、非常に重厚な攻勢になっている。

 それに対し、拘束されて動けないエミーリアを守りつつ戦わなければいけない。

 ダメージは与えているものの、人数差の影響で、後方で回復されてしまう。

 ナターリア達は、一応、エミーリアの身内なので、殺すわけにもいかない。

 敵は俺の防御を突破できず、俺も決定打を与えられない。

 完全に、状況は膠着してしまった。


 ・・・エミーリアを開放し、逃がすことができれば、状況は好転するかもしれない。

 そう思い、エミーリアを拘束している術式を、斬りつけてみる。

 しかし、術式の損傷はすぐに修復されてしまう。

 拘束している魔法陣の形や構成から、修正されるのは分かっていた。

 そして、思ったよりも、硬い。

 空間を圧縮して板を作り、それ積層したタイプの術式のようで、これを斬るには、その空間の枚数分攻撃しなければいけないだろう。

 気合を入れて術式の弱いところを探ったうえで斬れば一撃で行けそうだが、戦闘中に一撃で切り捨てられるモノでもない。

 これは、内部に魔力をためているタイプだろうか?

 それとも、外部からの供給があるタイプだろうか?

 もう一度、術式を斬りつけてみる。

 術式は、すぐに修正される。

 だが、今回は、収穫があった。

 一瞬だが、魔力の流れを感じることができた。

 魔力は、外部供給されているようだ。

 三度、斬りつけてみる。

 

 ・・・わかった。


 どのナターリアが、この術式を展開しているか、わかった。

 15人の魔術戦仕様ナターリアの、最後尾ではないが、地味に目立ちづらい場所にいる一人だ。

 やはり、レギオン故に複数人数での行動に慣れているようで、隠し方が巧妙である。


 戦闘の隙を見て、足元に転がっている、培養槽の破片を拾う。

 破片を握り砕けば、十数個の小石になった。

 その小石に、エネルギーを籠める。

 そのうち一つには、他の小石の数倍のエネルギーを籠める。

 うん?

 思ったよりもエネルギーを吸うな。

 これならば、より良い威力が出せそうだ。

 

 エネルギーを籠めた小石を、魔術戦仕様のナターリア達に向けて、投げつける。

 俺の動作は近くで戦っていたナターリア達に見られていたので、魔術戦仕様のナターリア達は、危なげなく魔術でシールドを展開して防ぐ。

 狙い通りだ。

 だが、エネルギーを多く込めた小石が、そのシールドを貫通し、拘束魔術の術者であろうナターリアに向けて飛翔する。

 そして、魔術戦仕様のナターリア達がシールド魔術を使うより早く、その内部に込められたエネルギーで炸裂する。

 唐突な衝撃に、姿勢を崩す魔術戦仕様のナターリア達。

 俺は、その炸裂と同時に、エミーリアの拘束術式を斬りつける。


 案の定、修復されない。


 魔術戦仕様のナターリア達が体勢を整える前に、破壊しなければいけない。

 さらに、2度、3度と斬りつける。

 そして、5度目の斬撃で、ついに、拘束術式は崩壊した。

「逃げろ!」

 エミーリアに、言う。

 開放されたエミーリアは状況を理解できていたため、すぐに逃亡を図る。

 ナターリア達が、それを追おうとする。

「させるかっ!」

 追おうとして俺から視線を外した近接戦仕様ナターリアに、拳を叩き込む。

 受け身も取れずに攻撃を受けたナターリアは、昏倒。

「目を反らすとは、いい度胸だな!」

 声を張り上げ、威圧する。

 俺の威圧に、一瞬動きを止めるナターリア達。

 その隙に、エミーリアは数人展開し、作太郎と特殊部隊員を回収。

 俺は、ナターリア達が動こうとするのを、牽制し続ける。

 培養槽から現れたナターリア達が本能に任せてエミーリアに向かうが、それを殴り飛ばして阻止する。

 俺が牽制しているうちに、エミーリアは、壁に走った亀裂の隙間を通り、玉座の間から逃げ出す。


 ついに、エミーリアは逃げ切ったのだ。


 その事実を前に、ナターリア達が、怒りと悔しさの籠った目で、俺を睨みつける。

「貴様、やりおったな・・・!」

 リーダー格のナターリアの声は、感情に引っ張られて、少し震えている。

「生きて帰れると、思うなよ・・・!」

 その声には、凄まじい怒りが籠っている。


 次の瞬間、ナターリア達から力の奔流が溢れ出し、俺を威圧してくる。


 だが、俺には、その程度の威圧、通用しない。

 ああ、これでやっと。

 本気が出せるのだ。

 先ほどまでは、多対一だった。

 エミーリアを守らなければいけないこちらが不利な多で、ナターリアが自由に動ける一だったのだ。

 エミーリアを守るように動くと、どうしても、本気が出せなかった。

 だが、ここからは、一対一だ。

「やっと、一対一だな。」

 文明人同士、一対一で戦うならば、名乗るのは必須。 


「我が名はメタル。メタル=クリスタル。青の戦士と呼ばれる者也!」


 俺は、自身に気合を入れる意味を込めて、名乗りを上げる。

 俺の名乗りに、意外なことに、ナターリアも乗る。

「ふん、ここまでくると名乗るのも不快だが、まあいい。」

 案外律儀に付き合ってくれるものである。


「我が名はナターリア。灰神楽自治区の女王にして、世界を救う者。」


 名乗り終え、再び、互いに向き合う。

 互いの目には、怒りが籠っている。

 俺の怒りは、愛しいナターリアを苦しめた憎いナターリアへの、怒り。

 ナターリアは、計画を悉く邪魔された怒り。

 その怒りが、自然に口を突いて、言葉になって出る。

「ぶちのめしたらぁ!」

「死ぬがいい!」



 俺とナターリア達は、叫ぶと同時に互いに襲い掛かったのだった。




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