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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
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第51話 選択肢


「選ばせてやろう。お前の力の使い道を。」


 ナターリアは、そう言った後、玉座に戻りつつ、言葉を続ける。


「選択肢は、3つだ。」

 3つ。

 私は、その3つから、自身の運命を選ばなければいけないのか。

 ナターリアに敗け、拘束されたこの身では、ナターリアの言いなりになるしかない。

「一つ目は、私の一部となること。」

 完全に自我を放棄し、ナターリアの一部になること。

「そもそも、お前は、自身の力を使いきれていないのだ。」

 私は、ナターリアを強化しようとして出来上がった個体。

 ナターリア曰く、力の出力に関しては上手くできるように造られていないそうだ。

 そのため、私の内部にあるメーアの力を始めとする力の、数分の1程度しか私は発揮できていないのだという。

 私の力をナターリアに渡した場合、ナターリアは全ての力を発揮できるそうだ。

 そうすれば、脱出船を侵食的宇宙から逃がすことができる可能性が大きく向上するのだという。

「そのとき、私はどうなる?」

 私がそう問いかけると、ナターリアは短く答える。

「消える。」

 ・・・これは、論外だ。

 私は、私。

 私は消えたくはないし、私をくれてやるようなことは、したくない。

「・・・ふむ。不満なようだな。」

 当然だ。

「では、二つ目の選択肢。それは、囮だ。」

 脱出船を起動させている際の、侵食的宇宙に対する囮。

「今のお前の力であれば、ある程度の時間は稼ぐことができるだろう。」

 私は、力を完全に発揮できていないとはいえ、ある程度の力はある。

 脱出船がこの宇宙から離脱するには時間がかかる。

 その間、侵食的宇宙の注意を引く者がいれば、脱出の成功率は飛躍的に上昇する。

「お前を、侵食的宇宙内部へ送り込む。お前が侵食的宇宙と戦っている間は、効果的な囮になる。そこで、侵食的宇宙を倒すことができれば、生き残ることもできよう。」

 ・・・侵食的宇宙の内部で、その宇宙自体と戦う。

 宇宙自体を倒すことができれば、生き残ることができる。

 生き残る可能性は、決してゼロではない。

 だが、ゼロではない、というだけで、限りなくゼロに近い。

 ナターリアとさっき戦って分かった。

 ナターリアの強さは、私の比ではない。

 私では、全く歯が立たない。

 もしかしたら、メタルに並ぶレベルかもしれない。

 そのナターリアですら、勝ち目がないと判断しているような相手なのだ。

 私が生き残る確率は、非常に低い。

 だが、私が戦える分、先ほどの選択肢よりはまだ、納得がいくものかもしれない。

 私がそう考えていると、ナターリアは言葉を続ける。

「3つ目の選択肢は、力のみ全て渡すことだ。」

 力のみを渡す。

 そんなこと、できるのだろうか?

「お前の自我は残るだろう。」

 ・・・これが最も良い選択肢ではないだろうか?

 少し考えれば、私には、もう、力が必要な目的がない。

 母、ナターリアを助けに来てみれば、ナターリアこそが敵だった。

 助けるべき母は、いない。

 捕まっている私達自身はどこにいるかわからないが、今この状況から助けることも難しい。

 もっとも、この様子では、既にナターリアに吸収されているのかもしれない。

 ナターリアに吸収されていなければ、力を渡せば、もう、私達はいらないのだ。

 捕まっている私達も解放されるだろう。

 私は、もう、力は必要ないのだ。

 ならば、この選択肢が、一番いいのではないだろうか。

 底まで考えたところで、作太郎の声がした。

「・・・力を失った、エミーリアの、寿命は?」

 作太郎の問いかけに、ナターリアは、感心したような表情をする。

「ほう。もう目を覚ましたか。」

 そう言うナターリアに、作太郎が、再び問う。

「力を奪われたエミーリアは、どれほど、生きられる?」

 すると、ナターリアは、意外にも素直に答えた。

「30日。私は、少しの力も残す気はない。全ての力を失った身体は、その程度で崩壊するだろう。」

 ・・・30日、か。

 私の身体は造られた不安定なモノだという。

 ナターリア曰く、その身体を保つ力が失われれば、30日程度で体は崩壊するそうだ。

「世話になった者達への挨拶くらいならば、できるであろう。」

 挨拶をして、遺書を書く時間ができた以外、一つ目の選択肢と大差がない。

 それでは、受け入れ難い。


「どの運命を選ぶのだ?」

 

 ・・・3つの選択肢では、どれも、私の生存可能性は、低い。

 一つ目の選択肢では、ほぼ確実に、私は消える。

 二つ目の選択肢では、生存可能性は決してゼロではないが、ゼロに限りなく近い。

 三つ目の選択肢では、生き残りはするが、その命は30日程度。

 どれも、私が長く生きることは、難しい。


 私は、私の死に方を、決めなければいけないのだ。



 メタルならば、どうしたろうか?

 作太郎ならば、どうするだろうか?

 ・・・戦うだろう。

 メタルならば、自身の力を信じ、戦っただろう。

 作太郎ならば、ただ死ぬことを良しとせず、戦っただろう。

 

 ナターリアの一部になるのも、ナターリアに力を渡すのも、気に食わない。

 私達は、私達のモノだ。

 ナターリアにくれてやる義理はない。

 ナターリアに力を渡すのも、ナシだ。

 30日生き残ったとしても、その間に侵食的宇宙が動き出せば、ただ、消えるだけである。

 

 やはり、戦うべき、だろう。

 たとえ、それが、勝ち目のない戦いだとしても。

 戦い、散るのならば、まだ、納得ができる。

「・・・私は、囮に、なる。」

 私がそう言った時、ナターリアは、意外そうな表情をした。

 少しでも生きる方法を選ぶとでも、思っていたのだろうか。


 これまでのナターリアの努力は、決して簡単なモノではない。

 自身を犠牲に強大な力を蓄えてきたのだ。

 その決意、苦悩、恐怖は、壮絶なモノだっただろう。

 だが。

 だが。

 その努力の果てに得た力で、逃げを選ぶのは、何か、違うのではないだろうか。

 ナターリアが語ったことが真実ならば、今のナターリアは、最初に侵食的宇宙と戦った時とは比べ物にならない力を得ているはずだ。

 だが、戦うことは、考えていない。

 この世界を捨て、逃げることしか考えていないのだ。

 戦わないナターリアと、私は違う。

 そんな気持ちを込め、声を張る。

 体を拘束され、床に転がっている状態で凄んでも滑稽なだけだが、それでも、私は、声を張る。


「私は、戦う!」



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