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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
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第50話 ナターリアとの戦い


「その名がエミーリア。お前のことだ」

 ナターリアが、語り終える。

 私は。

 エミーリアは。

 ナターリアによって作られた、ナターリアの失敗作だったのだ。


「お前は、こちらの想定よりも、遥かに大きな力を得て、戻ってきた。」

 ナターリアは、玉座の上から私を見下し、言う。

「その力、こちらに渡してもらおうか。」

 ああ。

 そういうことだったのか。

 それならば『よく戻った』と、言いたくなるのも、納得だ。


 部屋の端にいるナターリアが、再び、剣を構えている。

 その剣には、よく見れば、無数の紋様が刻まれており、強い魔力と呪力を纏っているのがわかる。

 あの剣は、私の力をナターリアに還元するための剣なのだろう。


 

「先ほどは阻まれたが、次は、無い。」


 短剣を阻んだ者。

 メタル。

 恋人の姿が、脳裏に浮かぶ。

 

 正直、自分がナターリアだという感覚は、無い。

 長い間独立して活動していたため、もともと希薄だったナターリアとの、レギオンとしての『繋がり』は、もはや完全に消滅している。

 私は、エミーリアだ。

 今まで生きてきて。

 メタルたちと、冒険してきて。

 ナターリアとは全く別個の自分自身が形成されている。


 ・・・だが。

 果たして、この世界で、生きる意味は、あるのだろうか。

 ナターリアの言葉を信じるのならば、この世界は、侵食的な宇宙に、飲み込まれる運命にある。

 私がここで生き残ったとしても、どうせ、その宇宙に喰われ、消えてしまう。

 たとえ、私がナターリアに吸収されずに、かつ、侵食的な宇宙をどうにかできたとしよう。

 それでも、メタルのいない世界で生きるのは、辛い。

 ならば、私の、メタルの生きたこの世界を、少しでも生かす方が、いいのではないか。

 私の命は、ナターリアに渡してしまった方が、いいのではないだろうか。


「エミーリアよ。抵抗せず、己の役割を、運命を受け入れよ。」


 死ねば、その先で、メタルに会えるかもしれない。

 受け入れようか・・・。


「何を、勝手なことを、抜かしよる。」

 私が、諦めたかけたとき。

 怒りに満ちた、作太郎の声がした。

「己の都合で生み出し、消費する。」

 作太郎は、先の戦いの傷が癒えていない。

 しかし、ゆらりと立ち上がる。

「命を、魂を弄ぶその所業、悪逆非道である。」

 抜刀。

 傷が癒えていないとは思えないほどの迫力がある。

「エミーリアの命、如何な事情があろうと、貴様如きの好きにできるモノでは無いと知れ。」


 作太郎の言葉に、ほろり、と、涙がこぼれる。

 メタルだけではない。

 作太郎も、私のことを考えてくれている。

 ナターリアの言葉を受け入れようと思った、自分が、情けない。

 涙が、止まらない。 

 

 作太郎が、踏み出す。

 その作太郎に向かって、部屋の端で控えていたナターリアが、襲い掛かる。

 さらに、一緒に転移してきていた特殊部隊員の、ヴィール派の者たちも、一斉に襲い掛かる。

 作太郎は、満身創痍に近い状態で、ナターリアの攻撃を躱し、特殊部隊員たちを次々と薙ぎ倒していく。

 無数の傷を負っているとは思えないほど、その動きは鮮烈で、それでいて、苛烈であった。

 一閃。

 特殊部隊員が一人、地に伏せる。

 一閃。

 特殊部隊員がまた一人、崩れ落ちる。

「ふむ。思ったよりやるな。」

 玉座のナターリアが、呟く。


 呟くと同時に、ナターリアの周囲に、たくさんのナターリア達が現れていた。

 ナターリアは、群体レギオンである。

 複数で襲い掛かるのが、本来の戦い方なのだ。


 50人にもなるナターリアが、一気に作太郎に向かって襲い掛かる。

 作太郎一人では、流石に多勢に無勢だ。


 私も、戦う。

 作太郎が、私のために怒り、戦っているのだ。

 当の本人の私が、戦わなくて、なんとする。

 私も、一気に50人展開。

 作太郎に向かって進んでいるナターリア達に襲い掛かる。


 乱戦だ。


 私自身も、目の前のナターリアに襲い掛かる。

 今までの戦い方から察するに、ナターリアは魔術師だ。

 近接戦闘ならば、こちらに分があるはず。


 目の前のナターリアに向けて、剣を袈裟懸けに振るう。

 だが、その剣は、ナターリアの持つ剣によって、受け流された。

 私の剣撃を受け流したナターリアは、こちらが体勢を整える前に、手首を翻して剣を振るってくる。

 それを、自身の力を纏わせた盾で防ごうとする。

 

 嫌な予感がして、防ぐのではなく、バックステップで飛び退く。


「ほう。お前は、察するか。」

 ナターリアが、言う。

 次の瞬間、私達のうち、20人分ほど意識を失ったのを感じた。

「!?」

 驚いて、周囲を確認する。

 確かに、私達50人のうち、20人程が地に伏している。

「そら、驚いている暇はないぞ。」

 ナターリアが、斬りかかってくる。

 その動きは、レピスタの殻を纏っていたころとは比較にならないほど鋭く、的確だ。

 ナターリアの袈裟懸け斬りを、盾で受け流す。

 あまりの威力に、盾が歪む。

 反撃に転じれば、私が振るった剣は、なんと、切っ先を斬り飛ばされてしまった。

 反撃される前に、距離を取る。

 すると、ナターリアは、倒れている私達の一人から盾を拾い上げ、盾を前面に出して間合いを詰めてくる。

 私も、構える。 


 私とナターリアの構えは、鏡で映したかのようにそっくりだ。


 ・・・そうか。

 私の戦い方は、ナターリアのモノだったのか。

「魔術師だとでも思っていたか?」

 そう言うナターリアの構えは、堂に入っている。

「元々は、近接戦闘の方が得意なのだ。」

 今まで、魔術しか使用してこなかったため魔術師だと思っていた。

 

 ナターリアは、私と同じく、近接戦闘がメインだったのだ。


 ナターリアが距離を詰めてくる。

 それに対し、盾を突き出し、牽制。

 ナターリアは、私の盾を弾くようにシールドバッシュを繰り出す。

 シールドバッシュによって空いた防御の間隙に、剣を振るう。

 本来ならば突きを放ちたいところだが、切っ先がなくなっているので突きでは威力不足。

 だが、突きでないと、隙が大きい。

 そのせいで、ナターリアの対処が間に合い、受け流される。

 反撃に、ナターリアも剣を振るう。

 私は、それを受け流し、こちらも反撃。

 そのまま、切り結ぶこと、十数合。

 ・・・強い。

 メーアの力を得たというのに、力も速度も、ナターリアの方が上回っている。

 メタルとの訓練で身に着けた、ナターリアのモノではない戦い方や技でどうにか凌いでいるが、こちらから反撃に出れない。 


 なかなか攻められずに歯噛みしていると、ナターリアが、すっと、引いた。

「私のモノではない技を使うか。ふむ、良い師がいたようだな。」

 ナターリアが引いたことで、周囲の状況を見ることができた。

「だが、終わりだ。」

 ・・・残っているのは、私だけ。

 私以外の私達と作太郎は、皆、地に伏せている。

  

「作太郎っ!」

 思わず、叫ぶ。

 私達に関しては、意識を失っているだけで殺されてはいない感覚がある。

 しかし、作太郎は、殺されているかもしれない。

「・・・死んでは、おりませぬ。」

 作太郎から、返事がある。

「殺してはおらんよ。」

 ナターリアも、言う。

「ああ、ああ、情けなし。」

 心の底から悔しそうに、作太郎が、嘆く。

 その嘆く作太郎を無視し、ナターリアが、呟く。


「これ以上手間がかかるのは、面倒だな。」 

 ナターリアがそう言った途端、急に、四肢が動かなくなる。

 手足に目をやれば、リング状の魔法陣で、拘束されている。

 私が抵抗しないように、だろう。

「うっ。」

 衝撃に、思わず声を漏らす。

 手足を拘束されたことで、床に倒れたのだ。

「しかし、先ほどの作太郎の言葉は、尤もだな。」

 先ほどの言葉?

「お前は、既に独立した一つの命だ。」


 ナターリアは、地に伏した私を睥睨し、言う。

「選ばせてやろう。お前の力の使い道を。」


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