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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第2章
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第5話 武器を買おう

 屋上市場を抜け、再び下層市街地に向かう階段を下りる。

 階段を降りると、そこは、薄暗い下層都市部だ。

 なんだか、温かい。

「・・・?あったかい。」

 エミーリアも、疑問に思ったようだ。

 

 階段を下り切ると、温かいどころか、暑いくらいになってきた。

 周囲の建物を見ると、扉は大きく開け放たれ、そこから、熱気が溢れ出している。 

 その扉を覗くと、旅客情報局の時と同じく、壁に沿うように伸びる長い通路がある。

 そして、そこに、数多の武具工房が並んでいる。

 いくつもの工房が並び、通路まで金属同士がぶつかる音が響き、それぞれが強い熱気と光を放つ。

 気密性の高いコンクリートの建物には熱気が充満し、その熱気が外まで溢れ出しているのだろう。

 凄まじい熱気だ。

 ここだけ、気温が真夏のようである。

 その熱気の中、意外にも客の姿も多い。

 要塞都市だからか、客の半数以上は軍人だ。

 この星の軍人は、自分の近接武器を持つのが普通なのである。

 エミーリアは、その光景に圧倒されているらしく、そのジト目がいつもより大きく開いている。


 地図のメモに従い、店へと向かう。

 店にはすぐに着いた。

 数多並ぶ武具屋のうちの一軒である。

 大盾市の武具工房の評判は、全国的にみてもかなり良い。

 その大盾市で武具屋を営めているのだから、それなり以上の腕なのだろう。

 店の入り口には『ボリス武具工房』と書かれた札が掲示されている。

 入口は開いている。

「おう!兄さん。来たな!」

 とりあえず入り口を覗いたら、声がかかった。

 そちらを向けば、昼に会った初老の男性と、店員をしていた若い男、小柄な女性がいる。

「悪ぃが、こっちに来てくれ!」

 そう言われたので、工房の奥まで足を進める。

「よく来たな。ここが俺の工房だ。俺は工房主のボリス。よろしくな。」

 そう言い、ボリスは手を差し出す。

 その手を握り、こちらも名乗る。

「戦闘旅客のメタル。メタル=クリスタルだ。よろしく。こっちは、同じく戦闘旅客のエミーリア。」

 ボリスは、握手をしながら、手を少しにぎにぎと動かす。

 その後、エミーリアとも握手をする。

「・・・ふむ。エミーリアの嬢ちゃんは、前衛で、短めの武器を使うな?この感じだと、剣だな?」

 手を握った感触で、使用武器を推測したらしい。

 腕が良く、経験豊富な鍛冶師は、このように使用武器を手から読み取ることも多いのだ。

「おーい、ポーラ。エミーリアの嬢ちゃんに武器を紹介してやれ。」

 すると、小柄な女性が近寄ってくる。

 小柄で色黒であり、髪の毛の色は黒い。人懐っこい笑顔が、愛嬌たっぷりだ。

「おーっす。あたしがポーラだ。エミーリアっつたか?こっちに来な。合った武器を見繕ってやるぜ。」

 さばさばとした話し方である。

 エミーリアは、ポーラに言われるがまま、どこかへと行ってしまった。

 ・・・大丈夫だろうか?

「俺の一番弟子のホクドウジンのポーラだ。もう工房を構えられるくらいの腕になってるからな。安心して任せな。」

 どうやら、不安そうな表情が読まれてしまったらしい。

 ホクドウジンは、北方の『パルグラード』という大蒸気都市の自治区に住む種族だ。

 小柄だが力が強く、地球から来た人々からは「ドワーフのようだ・・・」などどいわれることが多いらしい。

 手先も器用で、パルグラード以外で細工や鍛冶に携わっている者も多い。

「そんな心配そうな表情するなって。そんなに、あの嬢ちゃんのこと、大切にしてるんだな。」

 大切に・・・?

 ・・・まあ、たしかに、思い返してみれば、目を離せない気はする。ふむ?

 ・・・大切に、か。

 少し悩んでいると、ボリスが話を進める。

「次は、兄ちゃんだ。・・・兄ちゃんなんだが・・・。お前さんの手は、不思議だな。」

 はて、どういうことだろうか?

「兄ちゃんの手は、すごい癖があるようで、癖のない素直な感じもする。そして、どんな武器でも使いこなせる感じもすれば、一つの武器を極めた感じもする。ふむ、とりあえず前衛ではあるな。」

 どうやら、かなり悩んでいるようだ。

 俺の手から、戦い方を読み切れないらしい。

 俺も、様々な戦い方をしてきた。手から読み取れる情報量が多すぎるのだろう。

 ボリスの視線が、俺の背後に動く。

「・・・盾を持ってるな。片手武器がいいか?」

 ボリスがそう訊いてくる。

「大型武器でも、ある程度は片手で扱えるよ。もし剣か何かがあるなら、試し切りとかしてもいい?」

 そう言うと、ボリスの目が鋭くなる。

「・・・ああ、そうだな。それがいい。おい、アラン!試し切りの準備だ!一番いいやつを用意しろ!」

「はいよ!」 

 ボリスがそう叫ぶと、アランと呼ばれた、屋台の店員をしていた青年が元気よく返事をして、どこかへと走り去っていく。

 試し切りの準備に行ったのだろう。

「じゃあ、試し切りには、この剣を使ってもらえるか?」

 そう言い、ボリスが剣を一振り、差し出してくる。

 その剣は、様々なパーツのついた、不思議な剣だ。

 どうやら、パーツの付け外しで重心調整などができるらしい。

 この剣を調整しながら振って、使い易い形などを判断するのだろう。

 刀身を見れば、屋台で見た高価格帯の剣と同じ雰囲気をしているが、性能自体は数段上のようである。

 銘を見れば、刀身部分はボリスの作だ。

「よし。ついてきてくれ。」

 ボリスに案内され、試斬場に向かう。



 試斬場は、かなり広かった。

 どうやら、いくつかの工房で共有らしく、多くの軍人や工房関係者が試斬や武具の調整に励んでいる。

 片隅を見れば、エミーリアとポーラもおり、試斬用樹脂ポール相手に剣を振るっている。

「こっちっす!」

 アランの声が聞こえる。

 そちらを見れば、高さ1.5m、幅50㎝、厚み5mmくらいの鉄板が立っている。

 ・・・試し切りに鉄板とは、なかなか思い切ったことをする。

「・・・おい、アラン!一番いいのとは言ったが、こりゃ、対物ライフル用の的じゃねぇか。流石にこれは・・・。すまねぇ、メタルさん。すぐ、ちゃんとした奴を用意させる。」

 ふむ。

 あの鋼板は、軍の試験用規格のRHAだろう。

 それなら、この試し斬り用の剣ならば、行ける。

「そのままでいいよ。この剣なら、斬れるぜ。」

 そう言うと、ボリスはぎょっとした顔をする。

 しかし、すぐ真顔に戻ると、叫ぶ。

「おーい、アラン、やっぱり変えんでいい。そのままにしとけ。」

 鉄板を片づけようとしていたアランは、片づけをやめ、こちらに戻ってくる。

「・・・じゃあ、見せてもらっても、いいか?」

 それに頷き、試斬を開始する。

 

 鉄板に近寄りながら、試斬用の剣を素振りする。

 重心は、手元寄り。先端が軽めで、振りやすい。

 鉄板に歩み寄り、とりあえず、袈裟懸けに振るう。

 少しの抵抗と共に、鉄板は斬れ、切り離された鉄片が宙を舞う。

 返す刀で、未だ宙にある鉄片に一太刀。

 鉄片は切断されたが、少し抵抗があり、弾けるように吹き飛ぶ。

 ふむ。

 悪くない。

 最後に、血振りをして、試斬は終わりだ。


「・・・すげぇな。流石、青鉄ってとこか?」

 ボリスが近づいてきたので、試斬用の剣を手渡す。

「いや、剣が良いんだ。」

 そう言うと、ボリスが豪快に笑う。

「はっはっは。世辞でもそう言ってもらえりゃあ、うれしいぜ。」

 お世辞ではないのだが・・・。

 そんなことを思っていると、ボリスは手早く試斬用の剣のパーツの位置を変える。

「少し、重心を変えてみた。少し使ってみてくれ。」

 ほう。


 受け取って、数回振ってみる。

 重心が、刀身の中央付近に移っている。

 試斬用の的を見れば、鉄板は撤去されており、一般的な試斬用樹脂ポールが置いてある。

 試斬用の樹脂ポールは、太さ20cmほどのやわらかめな樹脂の棒である。

 樹脂ポールに向けて、袈裟懸けに一振り。

 そこから、返す刀で二振り。

 ふむ。悪くないが、どことなく先ほどの方がいい気がする。

「次は、これはどうだ?」

 そう言われて手渡されたのは、また別の武器。

 大ぶりなバトルハンマーである。

 全長が150cmくらいある。

 というか、このサイズは両手武器だ。

「片手で扱えないか?」

 そう言うので、片手で樹脂ポールに向けて鎚を振るう。

 垂直に一撃。

 樹脂ポールは叩き割られ、地面に散らばる。

「ふむ。次に、これはどうだ?」

 次は、かなり小型の剣だ。

 さて。斬ってみるか。


 その後も、ボリスの言うままに、多くの武器を使って、樹脂ポールをなぎ倒した。

「・・・よし。わかった。最後にこれを使ってみてくれ。」

 そう言い、ボリスはかなり大柄な剣を手渡してくる。

 片刃の直刀。全長は170㎝程。刀身は分厚く、峰の部分には、補強が施されている。

 手に取ってみれば、なかなか重い。

 正直、このままではバランスの良い剣ではない。

 ・・・良くはないが、ボリスの意図も、わかった。

 何も言わずに、買ったばかりの盾、『レッドワイン』を片手に持つ。

 すると、ボリスは、にやりと笑う。

「・・・わかってるじゃねぇか。」

 この剣は、盾の重さとのバランスが絶妙だ。

 

 剣を素振りする。

 その慣性任せ、盾を振り回す。

 盾の重さを活かし、剣を翻して樹脂ポールを斬る。

 斬り飛ばされ、宙に浮いたポールに盾を叩きつける。

 吹き飛び、壁に跳ね返ってきた樹脂ポールを切り上げるように両断。それと同時に盾の旋回に巻き込み、地面に叩きつける。 

 ・・・これは、いい!

 素晴らしい!

「これはいいな!いやはや、素晴らしい!」

 思わず言う。

 そう言いながら振り返ると、ボリスが満足げな顔をしている。

「はっはっは。気に入ったようで、何よりだ。・・・ここまで見極めるのが難しかったのは、初めてだ。」

 ボリス曰く、どんな武器を持たせても十分に使うため、いまいち判断できなかったそうだ。

 その中で判断しきったボリスの目は、本物だろう。


 工房に戻る。

「どうする?さっきの剣をそのまま買っていくか?それとも、しっかり合わせたやつを打つか?」

 ふむ。

 確かに、先ほどの剣はいい剣ではある。

 だが、ただの鋼鉄製の剣でもあり、若干物足りないのも事実だ。

 それを素直に伝える。

「・・・そうか。素材は何がいい?岩鉄がんてつか?それとも軽鋼かるはがねあたりか?」

 岩鉄も軽鋼も、武具用のそこそこいい素材である。

 だが、せっかく買うなら、もっといい素材の武器がいい。

「灰鉄はある?」

 灰鉄は、濃い灰色の金属である。

 かなり硬い金属だが粘り強さもある程度あり、鋼の一段上の素材として扱われている。

「灰鉄?相当高くつくぜ?」

 うむむ・・・。

 金を稼ぎに来て、高額出費は・・・痛い。

「ちなみに、いくら?」

 とりあえず、値段を聞く。

「まぁ、500万印ってとこか。」

 うぐぐ・・・持ち出してきた金と、ツルギガミネセンジュの討伐報酬を足しても、100万印ほど足りない。

 だが、灰鉄の剣は、正直、欲しい。

「さっきの、鋼鉄製のやつは、いくら?」

 そう訊くと、20万印とのこと。

「灰鉄の剣を作ってもらうのにかかる時間は、どれくらい?」

「まあ、一週間ってとこだな。」

 ・・・よし、稼ぐか。

「よし。じゃあ、その鋼鉄の剣を買うよ。そして、1週間後に金を稼いで戻ってくるから、灰鉄の剣を作っておいてくれ。」

 そう言うと、ボリスは、にやりと笑う。

「ああ、いいぜ。流石、青鉄旅客は言うことが違うな。」

 


 さて、一週間、忙しくなる。

 稼ぐぞー!

 

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