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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
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第48話 召喚陣


 エミーリア視点


 レピスタの顔の一部が砕け、穴が開いた。

 その穴は側頭部から右目の位置まで及んでいる。

 とはいえ、アンデッドの多いこの自治区では、顔に穴が開くくらいならば、時折見ることがある。

 問題は、そこではない。


 レピスタの顔の穴、その奥から、何者かの眼が、私を見つめていたのだ。


「「・・・まさか、ここまで。」」

 レピスタが、感嘆したような声を上げる。

 その声には、太く重厚なレピスタの声の他に、何者かの声が混じっている。

「「ここまで、強くなっているとは。」」

 混じっている声は、女性のモノだ。

 だが、ノイズが多く、混じっている声の詳細は分からない。


「「ここでは場所が悪いな。」」


 レピスタが、言う。

「・・・どういうこと?」

 意味が分からないので、訊き返す。

 すると、レピスタは、小さな動作で手を動かす。


 その瞬間、景色が変わった。


 空間転移。

 魔術の始動を感知できないほど、一瞬の魔術行使だった。

 思わず、周囲を見る。

 広いホール。

 壁は脱出船と同じ、白銀色。

 明かりは、高い位置の窓から差し込んでくる光のみ。

 ホールの中央を横切るように深い赤の絨毯が敷かれ、その先には、大きな四角錐台型の台座がある。

 絨毯の両脇には、太さ1mはありそうな柱が並んでおり、差し込んでくる光と相まって静謐な雰囲気を醸し出している。

 深い赤の絨毯は四角錐台の上に向かって続く階段にも敷かれている。

 四角錐台の最も高い場所に目を向ければ、豪華だがどこか剛健な雰囲気の一人用の椅子が、1基。


 玉座。


 ここは、玉座の間だ。

 だが、何故か不自然な部分もある。

 玉座の反対側。

 本来ならば謁見者が入ってくるであろう扉は、無い。

 後から塞がれたようで、扉があったような痕跡が残るのみだ。

 

 一緒にこの場所に転移してきたのは、作太郎と特殊部隊員に、ナターリア。

 リンガーがいないあたり、あの場所にいた者たちがまとめて転移したのかとも思ったが、なぜか、リンガーに任せたはずのナターリアがいる。

 ナターリアは特別に転移させられたのだろうか。

 一糸まとわぬ姿だったナターリアは、リンガーにもらったのか、だぼっとした服を身に着けている。

 作太郎と特殊部隊員達は急に変わった景色に戸惑っている。

 ナターリアの表情はここからだと伺うことができない。


 そんな中、いつの間にか四角錐台の上に移動しているレピスタが、言う。

「「この部屋を再び使うことになるとはな。」」

 レピスタは、堂々と、玉座の前に立つ。

 そして、言い放つ。

「「改めて言おう。エミーリアよ。」」

 大仰な身振りを併せて、尊大な声色で、言い放つ。

「「よくぞ、戻った。」」


 その瞬間、背中に、強い衝撃。

 それと同時に、何かが砕けるような音がする。


「えっ・・・?」

 思わず、声が出る。

 背後に視線を向ければ、密着するほど近くに、ナターリアがいる。

「貴様あああ!!」

 作太郎が激昂し、ナターリアに斬りかかる。

 だが、ナターリアに作太郎の刃が届くことはなく、作太郎は何かに吹き飛ばされ、玉座の間の端まで吹き飛んで行った。

 作太郎が吹き飛んだ時の力の奔流で、ナターリアが纏っている布が翻り、なぜ、作太郎が激昂したかがわかった。


 ナターリアは、私の背に、鋭い光を放つ短剣を突き立てていたのだ。


 だが、私にダメージはない。

 首から下げていたはずのお守りが、何故か背中側に回っており、その刃を止めていた。


 そして、刃を止める代償に、お守り自体が、歪み、ひしゃげていた。


「「ぬぅ、最後まで、邪魔をするか。」」

 レピスタが吐き捨てるように、言う。

 ナターリアが、お守りで阻まれた一撃を、再び私に向かって放とうとする。

 だが、その刃が届くことはなかった。


 突如、歪んだお守りから、衝撃波が放たれたのだ。


 その衝撃波は、私に影響することはなく、ナターリアを大きく吹き飛ばし、私の身を守った。

 私の身を守ったお守りが、強い光を放ち始める。

 そして、とても複雑な立体魔法陣が、お守りから一瞬にして展開される。

「「なに!?召喚陣だと!?」」

 レピスタが驚きの声を上げる。

 

 その召喚陣は、青く、強く輝いている。

 今まで見てきた、精密で緻密な魔法陣とは違う、力強く、雄々しい雰囲気の魔法陣だ。

 だが、それでいて、その構造は複雑で、その動きは正確無比。


 これだけ高度な魔法陣から召喚されるのだ。

 さぞ、恐ろしいほどの強さの者なのだろう。

 そして、現れる者が誰なのか、私には、分かる。


 レピスタは、新たに現れるであろう敵に身構え。

 私は、現れるであろう者への期待に胸を高鳴らし。

 召喚を、待つ。


 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・。


 出てこない。

 待っているが、何も召喚されてこない。

 魔法陣自体は稼働しているようで、力強い光を放ちながら、動いている。

 だが、召喚されてくるはずの者は、来ない。


 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・。


 そして。

 そして、ついに。

 青い魔法陣は、何も召喚することなく、消えてしまった。


 どういう、こと?

 どういうこと?

 なんで、来ないの?

 なんで・・・?

 まさか・・・?

 私が困惑していると、レピスタの呆れたような声が響く。

「「なんだ・・・。驚かしおって。」」

 玉座から私を見下ろし、言う。

「「エミーリアよ。お前が何に期待していたかはわからん。」」

 そして、私が一番聞きたくない言葉を、言い放つ。

「「だが、召喚されるはずの者は、既にこの世に居ないのだろう。」」


 レピスタが言い放った瞬間、物凄い衝撃が、私の心を打ち据えた。


 メタル・・・。

 メタルが・・・死んでいる?

 今の召喚陣は、十中八九、メタルの召喚陣だった。

 メタルが死ぬ姿は、想像ができない。

 想像したくない。

 でも、メタルは、来なかった。

 では、本当に・・・?


「「そも、お前も、悪いのだ。」」

 心に暗雲が立ち込めつつある私に、レピスタは、言葉を投げつけてくる。

「「大方、召喚されるはずの者が死んだのも、お前が原因なのだろうよ。」」

 再び、心に大きな衝撃が走る。

 理性では、そんなことはないと、考えている。

 ただのレピスタの根拠ない暴言であると、わかる。

 だが、感情は、そうではない。

 私のせいで、メタルが・・・?

 レピスタが起こしているであろう暗雲へ、メタルは向かっているはずだ。

 となると、メタルはその中で、命を落とした・・・?

 私が巻き込まなければ、暗雲に向かうこともなかった・・・?

 でも、そんなはず・・・。


 思考が、理性と感情の狭間で、堂々巡りを始める。


 わからない。

 何が起きているのか、わからなくなってきた。


 私は、そんな私を見て満足げな表情を浮かべているレピスタに、気が付かなかった。

「「さて。この外装も、もう、いらんな。」」

 その言葉に、私は、無意識のうちに、レピスタを見る。


 私が見ている前で、レピスタが“レピスタ”を、脱ぐ。


 バキバキという、何かが砕ける音と共に、レピスタは、自身を脱ぎ捨てる。

 脱ぎ捨てた後、そこに立っていた者は、私に向かって、口を開く。


「さて。外殻を脱いでお前に会うのは、いつ以来だ?」

 

 その姿を見て、私の思考は、さらにぐちゃぐちゃになり、深みへと落ちていく。

 なんで?

 なんで、あなたが、そこに?

 もう、なにもわからない。

 

「久しいな。我が娘、エミーリアよ。」


 レピスタが、己を脱ぎ捨てた姿。

 それは、私が助けに来たはずの母、ナターリアであった。



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