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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
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第44話 灰色の立方体


 メタル視点


 

 俺は、ブライアン、ギノーサと共に、のっぺりとした材質の灰色の立方体の前に立つ。

 視界の端では、俺たちに倒されて意識を失い転がっているジェーン達を、覇山が拾い集め、魔術で捕縛している。


 改めて、立方体を見る。

 一辺は4mほど。

 ジェーンの攻撃により大きなホールのようになったこの場所でも、それなりの存在感を発している。

 戦略級の超人だと思われるジェーンの攻撃に巻き込まれても傷一つつかないあたり、相当頑丈だ。

 色は灰色をしており、触ってみれば意外とつるりとした感触で、ひんやりしている。

 何かの金属だろうか?

 軽く叩いても、音が響かない。

 もし金属だとしたら、相当な厚さがあるだろう。

 100㎜ほどはあるだろうか?

 継ぎ目はなく、リベットや釘の跡も見えない。

 そもそも、この大きさの箱を狭い洞窟の奥底まで運ぶのは、至難の業だ。

 魔術により生成されたものかもしれない。


 俺が立方体を観察していると、ブライアンがギノーサに術式について質問をする。

「内部へのアクセス方法はあるのか?」

 ブライアンの問いかけに、しかし、ギノーサは首を振った。

「わからないわ。私は術式の一部構築にかかわっただけだもの。」

「ふぅむ。」

 ギノーサの答えに、ブライアンは一声唸ると、顎を左手で一撫でし、頷く。

「うむ。ならば。」

 ブライアンは短く声を発して、鈍い金色の鉤型義手に戻った右手を、前に突き出した。

 すると、その鉤型義手が、眩い金色の光を放つ。

 ブライアンは、光を放つ鉤型義手で灰色の立方体に触れる。

 すると、金色の光は灰色の立方体へと移る。

 金色の光はラインとなり、無数に分岐しながら、灰色の立方体の上を走り回る。


 走査型の解析魔術だ。

 ラインは細かく直角に曲がり、無数に分岐し、線の集まった帯となって立方体の上を縦横無尽に動き回る。

 時々、直角に曲がった直線のみで構成されたラインの一部に、円形の部位が発生する。

 円形の部位は一瞬だけ形成された後、すぐにラインに戻ってまた走り出す。

 走り回る線の形状や動きからすると、表面を解析するだけでなく、内部まで侵入して解析する術式のようだ。

 時折形成されている円形部分は、術式が内部に侵入しようとしている部分だろう。


「・・・うむ、ぬぅ・・・。」

 術式を制御しているブライアンが呻く。

 どうやら、うまく内部に侵入できていないようだ。

 数十秒ほどで、金色の光が霧散し、ブライアンが立方体に触れさせていた鉤型義手を下ろす。

「この術式では、解析はできんな。」

 ブライアンが、言う。

 そんなブライアンに、俺は、灰色の立方体を軽く叩きながら提案する。

「俺が壊そうか?」

 この立方体は、ジェーンの攻撃で傷一つつかないほど頑丈である。

 戦略超人クラスでも壊せない者はいるだろう。

 軽く触ってみてわかったが、それほどの力を内包している。

 とはいえ、俺の力に耐えられるほどではない。

 俺ならば、数秒とかからず破壊することが可能だろう。

 

 しかし、俺の提案に、ブライアンが首を横に振る。

「無理に破壊して内部の術式が暴走するといけない。無理な破壊はやめた方が無難でしょうな。」

 ブライアンの言うことも、もっともだ。

 魔術には、破壊されそうになった時のセーフティーとして反撃術式が仕込まれていることも多い。

 だが、ここには術式構築に関わったギノーサがいる。

 ギノーサならば、反撃が仕込まれているか、分かるかもしれない。

「ギノーサ。この術式が入った立方体は、破壊したらマズいかい?」

 俺がそう訊くと、ギノーサは頷く。

「ええ。無理な破壊はやめた方がいいわ。私が構築した部分には反撃は組み込んでなかったけれど、その後に、必ず組み込まれているはずだから。」

 ふむ。

 術式を組んだ者がそう言うのならば、そうなのだろう。

 なかなか上手くいかないものである。

「反撃術式も解析できればと思ったのですがな。」

 そう言いつつも、ブライアンは、先ほどとはまた別の分析魔術を立方体に走らせる。


 次は、薄い緑色をした半透明の板が、灰色の立方体を透過しながらに動いている。

 懸木 鈴元帥がノノの船を分析するときに使用した魔術に似ている。

 内部構造をスキャンする術式のようだ。 

 数秒でスキャンが終わる。

 しかし、ブライアンは首をかしげる。

「・・・何も見えませんな。」

 上手く分析できないようだ。

「この立方体を作った術師は、儂より遥かに魔術に優れているようですな。全く歯が立ちませぬ。」

 ブライアンは、悔しそうに言う。

 俺は、ギノーサに問う。

「ギノーサ、どうにかできない?」

 俺がそう訊くと、ギノーサは呆れたような表情をする。

「あのね。私は一応、敵なのよ?」

 呆れつつも、ギノーサ答える。

「まあ、できることなら、協力したいわ。さっきは、命を助けられたものね。」

 しかし、ギノーサは首を横に振る。

「でも、無理よ。私は術式の補助部分を手伝っただけの。この術式は私のレベルの遥か上。手が出せないわ。」

 ギノーサでも無理か。


 ギノーサの言葉を聞くとほぼ同時に、ブライアンから強大な力が漏れ出てくる。

 思わずブライアンの方を見れば、ブライアンの鉤型義手は、再び腕と一体化し、金色の腕となっっていた。

「消耗が激しいので、あまり使いたくはないんですがな。」

 

 固有能力の消耗の激しさは、個々人の能力による。

 消耗が非常に軽いモノもあれば、一回使うだけでしばらくは使用できないレベルのモノまで様々だ。

 ブライアンの固有能力は、多くのモノを問答無用で自身の制御下に置くことができる、極めて強力なものである。

 本来ならば、1回使用すれば数日は使えなくなるほど消耗が激しい能力のはずだ。

 しかし、ブライアンは、不断の努力により、一日に何度も使えるほどに能力を高めている。

 とはいえ、任務の終わりがまだ見えていない現在、あまり乱用したくないはずだ。


 ここにいるメンバーで最も魔術に優れているのは、ブライアンとギノーサである。 

 しかし、ブライアンの術式は歯が立たず、ギノーサはどうにもできないと言っていた。

 覇山は決して魔術に疎いわけではないが、戦闘用に特化しており、ブライアンほど魔術に優れてはいない。

 覇山の魔眼は物凄く強力だが、起点を見ていなければ巻き戻すことはできない。

 起点を見ていない立方体は、無かったことにはできないのだ。

 俺は、力で解決しかできない。

 しかし、反撃術式がありうるならば、力で解決するのは難しい。

 反撃に、俺が耐えることができても、余波でギノーサやブライアン、覇山を巻き込みかねないからだ。

 今の状況では、ブライアンの固有能力に頼るくらいしか、手段がないのも事実である。


 ブライアンは金色の腕で灰色の立方体に掴みかかる。

 ブライアンの腕の、鈍い金色の輝きが、ゆっくりと、灰色の立方体を侵食していく。

「・・・っ。」

 ブライアンの表情が歪み、額に玉のような汗が浮かぶ。


 たっぷりと数分かけ、灰色の立方体は、鈍い金色の立方体に変わった。

「・・・うむ。上手くいきましたな。」

 遥かに実力が上の相手が構築した魔術を、軽々とはいえないまでも、乗っ取る。

 やはり、ブライアンの能力は強力だ。

 能力を使い終えたブライアンが、一息ついてから、言う。

「では、開きますぞ。」

 ブライアンがそう言うと、鈍い金色の立方体はゆっくりと浮かび上がり、サイコロを展開するように開いていった。

 

 ゆっくりと開く立方体を観察する。

 立方体を構成する板の厚みは、100㎜を超えていそうだ。

 開いてきた隙間から見える板の内側には、びっしりと魔術と呪術のための文様が書き込まれ、刻まれている。

 さらに、立方体は開いていく。



 ある程度開いたときに見えたものに、俺は、一瞬、目を疑った。



 人が、いる。

 乱雑に切りそろえられた濃紫色の髪を肩口くらいまで伸ばしている色白の少女が、立方体の中央に浮遊しながら収められていた。

 膝を折りたたんで、いわゆる体育座りのような体勢になっているため正確には分からないが、身長は一五〇cmを少し超えた程度。

 その少女は、全身に術式を書き込まれ、術式が光ることで、全身が淡く光っているように見える。

 意識はないのか、目を閉じて微動だにしない。

 

 俺は、その少女を、知っている。

 先ほどまで、この少女と瓜二つの敵と戦っていた。

 だが、その敵ではないと、断言できる。

 その少女が纏う雰囲気か、それとも、他の何かか。

 わからないが、俺は、確信を持って言える。


 この少女は、エミーリアだ。


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