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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
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第43話 不安


エミーリア視点


「エミーリア、行け!」

 その叫びを聞き、私は作太郎たちに背を向けて走り出す。

 背後からは、激しい剣撃音や爆発音が響き、その度に床が震えている。


 いかな作太郎といえど、長くは持たないだろう。


 急がなきゃ。

 急いで私の展開を阻止している術式を破壊し、戦うことができる状態になって加勢しなければ。

 今までは、なるべく活動を阻止されないよう、侵入を悟られないように動いてきた。

 だが、ここまで“こと”が大きくなれば、その必要もない。

 探していた特殊部隊員も、もう探す必要はない。

 拉致されたであろう人々を探す任務はあるが、隠れながら探す必要は、もう、ない。


 急がなければいけない一心で、角を曲がり、吹き抜けを飛び越える。

 だが、手がかりはない。

 階段を飛び降り、梯子を駆け上る。

 しかし、何も見つからない


 術式の場所の見当がつかない。

 この要塞もとい脱出船は、船とはいえ、巨大だ。

 闇雲に探すのは、あまり現実的ではない。

 しかし、手がかりはなく、闇雲に探す以外、できることはない。

 

 ・・・果たして、間に合うのだろうか?


 そう思ってしまった瞬間、思わず、足が止まる。

 未だに戦闘音は遠くから響き、床が振動しているので、作太郎が戦い続けているのは分かる。

 だが、少し戦闘から離れて冷静になった途端、急激に不安が押し寄せてきた。


 ここまで、何も上手くいっていない。

 灰神楽自治区に侵入してから、何かを見つけられただろうか?

 レピスタには、傷一つ負わせていない。

 術式は見つからず、特殊部隊員たちも仲間割れをしている。

 ・・・こんな調子で、ここから先、上手くいくことがあるだろうか。

 今からでも、作太郎のところに戻り、レピスタと戦ったほうが、まだ、状況が打開できるのではないだろうか?

 だが、今の状態では、レピスタに、勝てない。

 しかし、私の展開を阻止している術式の手がかりは、無い。


 焦っている。

 思考が無限ループしている。

 焦って思考が硬直しているのが、自分でもわかる。

 だが、分かっているのに、そのループを止めることができない。

 

 周囲を見れば、灰神楽自治区の人々は避難でもしたのか、だれもいない。

 凄まじい孤独感に襲われる。

 思わず、メタルがくれたお守りを握る。

 ちくり、と、宝石がなくなったことで鋭利になった部分が、私の指を刺激する。


 ・・・そうだ。

 メタルだ。

 メタルなら、こんな時、どうしていただろうか?

 決して、こんな風に不安で止まることなど、ないだろう。

 メタルは、多くの敵を、多くの問題を、私の目の前で解決していた。

 どうやっていた?


 そこまで考えたとき、唐突に、私に声が投げかけられた。

「エミーリアさん!こっちへ!」

 その声の方を見れば、リンガーがいる。

 

 リンガーの元へ走り寄る。

「大丈夫?」

 私がそう問いかければ、リンガーは答える。

「私は、どうにか。」

 リンガー曰く、作太郎とレピスタは、未だ激しく戦っているそうだ。

 そして、リンガー以外のリンガー側の特殊部隊員は、目を覚ましたヴィール側の部隊員に捕縛されてしまったらしい。

 ヴィールたちは、レピスタから力を与えられたようで、紫色のオーラを体に纏いつつ、明らかに実力以上の動きでリンガー達に襲い掛かったらしい。

「どうやって逃げた?」

 そんな状況でリンガーだけどうやって逃げたのかを訊く。

「俺は、魔力の流れに敏感だったので。」

 リンガーの種族であるアナグマ系の種は、光の入らない地中で生活してきたため、魔力の流れに敏感なの場合が多い。

 リンガーも魔力の流れに敏感な種だったのだ。

 そのため、リンガーは、レピスタからヴィールたちに魔力が流れていくのを感じ取り、危険を感じて早い段階で逃走を試みることができたそうだ。

 リンガー以外の隊員たちもその動きには気づいたそうだが、リンガーが最も早く気付いたため、逃走することができたとのことである。


 ・・・魔力の流れに敏感?

 ならば、私達の展開を阻害している魔術の場所も判るのではないだろうか?


「私に働きかけている魔力は、わかる?」

 私がそう問うと、リンガーは、目を細めて私を見る。

「何かあるのですか?」

 私は、リンガーの問いかけに、状況の説明を試みる。

「私はレギオン。展開が阻害されている。」

 ・・・上手く説明できただろうか?

「・・・?・・・あぁ。なるほど。」

 リンガーは一瞬キョトンとしていたが、少し考えると、なにか納得したような表情をした。

 流石、私達のなかでも最もコミュニケーション能力が高い私。

 説明は上手くいったようだ。


 リンガーは、目を細め、私を見る。

 そして、しばらく見つめた後、口を開く。

「僅かですが、エミーリアさんに纏わりついている魔力があります。」

 !!

 見えた!

「どことなく、エミーリアさんを阻害しているような、そんな、雰囲気があります。」

 まさに。

 まさにそれだろう。

「どこから来ているか、わかる?」

 私の問いかけに、リンガーは頷く。

「ええ。わかります。そちらの方向ですね。」

 そう言い、リンガーは斜め下方向を示す。

 方向としては、この要塞の中央方向。

 最初にレピスタと遭遇した、球体の方向だ。

 そして、角度的に、球体の下部、もしくはそのさらに下あたりだろう。


「わかった。破壊しに行く。」

 私がそう言うと、リンガーは頷き、歩き出す。

「では、向かいましょう。こちらです。」


 ここで私は、再びメタルを思い出した。

 メタルは、こんな時、どうしていただろうか?

 簡単だ。


 抜剣。

 剣を抜いた私に、リンガーが訝しげな顔をする。

 剣に力を通し、斜め下の床に向かって、振るう。

 私の力を纏い薄紫色に輝いている剣は、何の抵抗もなく床を斬り開く。

 リンガーを見れば、驚いた表情をしている。

「戦術超人の俺でも破れなかった床が・・・。」

 どうやら、床や壁の強度は高く、戦術超人クラスでは破ることができなかったようだ。

 だが、私にとっては、破れないようなモノではない。

 メタルも、状況が同じならば、同じように床や壁を破り、進んでいただろう。

「道ができた。進む。」


 私がそう言うと、リンガーも気を取り直して動き出すのだった。


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