第42話 ジェーン達との戦い
メタル視点
奇襲による魔術の絨毯爆撃によって、周囲の壁は吹き飛び、数十mもの直径を持つ、広いホールのようになった。
そのホールの天井付近。
そこに、ジェーンが20人、展開している。
「数に飲まれて、死ね。」
その言葉と共に、空中で陣形を整えたジェーンの目の前に、魔法陣が大量に出現する。
魔法陣は高速で動き、立体魔法陣を組み上げていく。
だが、その魔法陣から魔術が放たれることは、なかった。
「見ているぞ。」
覇山の呟きは、小さな声のはずだが、しかし、崩落によってできたホールの全員に聞こえるほど、響いた。
そして、その瞬間、ジェーン達の前に展開された魔法陣は、先ほどまでの動きを逆再生するかのように動き、最終的に消え去る。
攻撃の手を潰されたことになるが、ジェーン達は動じていない。
「・・・ふむ。巻き戻ったか。」
ジェーンのうち、一人が呟く。
「回帰の魔眼か。厄介だな。」
敵の眼前で、呟く。
あまりにも大きい『隙』である。
その隙を見逃す俺たちでは、ない。
ブライアンはギノーサの護衛に残し、俺と覇山がジェーン達に向けて、跳ぶ。
そして、飛行しているジェーンのうち一人に向け、剣を振るう。
がっつりとした、手応え。
エミーリアの姿をした人物を斬り殺すのは気が引けたため、一応、峰打ちである。
今までの動きや魔術からすると、ジェーンは一応、戦闘ランクで言う、BからAランク程度の超人だと思われる。
なので、この程度の一撃ならば、心構えがあれば防ぐことができると思っていた。
しかし、俺の攻撃を受けたジェーンは、意識を失い落下していった。
俺の攻撃が命中したことに、ジェーン達の表情が驚愕に染まっている。
そこに、俺に一瞬遅れ、覇山の一撃が到達する。
ジェーン達は、大げさなまでに散開し、その攻撃を躱す。
その動きは、ぎこちない。
どうやら、防御魔術か何かが展開しており、俺たちがここまで到達できるとは思っていなかったようだ。
「魔術を視認できる、のか?」
ジェーンの一人が、思わずといった風に呟く。
覇山は、魔力や呪力も視認できるが、ジェーン達もそれに気づいたようだ。
どうやら、覇山は魔力を見て、展開していた魔術を無効化したらしい。
俺は一度、床に降りる。
覇山は魔術により、浮遊を続けている。
俺は、魔力が足りなく魔術が扱えないので、浮遊を続けることは難しい。
できなくはないが、非効率なのだ。
そのため、一度、降りたのである。
俺に向かってジェーンが5人降りてくる。
覇山の魔眼を警戒し、覇山に14人で対処することにしたようだ。
さらに、先ほど俺が叩き落したジェーンも立ち上がり、戦列に加わる。
これで、俺に相対するジェーンは6人になった。
「6人でいいのか?」
俺はそう訊くが、ジェーン達は反応しない。
ただ、警戒心が滲む目でこちらを睨むのみだ。
「なんだ。反応なしか。寂しいね。」
俺は、そう言うと同時にジェーンに向かって、踏み込む。
そして、蒼硬を横薙ぎに一閃。
しかし、蒼硬は、ジェーンに到達する前に、虚空に阻まれて火花を散らしながら止まった。
何か硬いものを引っ搔いたような手応えだ。
先ほど戦ったジェーンが使ったこちらを押し返すような魔術とは、レベルの違う強度の魔術防壁だ。
先ほど覇山が消した魔術は、これだったのだろう。
俺の攻撃を防いだジェーン達は、少し、青い顔をしている。
俺は、さらに蒼硬を振るう。
やはり、ガリガリという音と共に、魔術による防壁を貫徹できず、蒼硬が止まる。
だが、先ほどよりも深くまで蒼硬が食い込んだ手ごたえがあった。
ジェーン達の様子を見れば、あまり余裕のなさそうな表情だ。
エミーリアの動かない表情から、感情が読み取れるのだ。
エミーリアと瓜二つの顔で表情がよく動くのならば、その感情や思考を読み取るのは、容易い。
ジェーン達の表情から読み取れるのは、驚愕と焦燥。
大方、俺が加えた攻撃の威力が思ったより高くて焦っているのだろう。
三度、蒼硬を振るう。
防壁のさらに深くまで刃が食い込んだ感触。
焦ったように、ジェーンのうち3人が、俺に向けて攻撃魔術を放つ。
暗い紫色の棘と青白い電撃、それに効果の良くわからない球体だ。
暗い紫色の棘は蒼硬で切り捨て、電撃は避けても向かってきたので、力を込めた拳で叩く。
俺の力に阻まれた電撃は霧散し、腕が少し痺れたが、ダメージはない。
そして、よくわからない球体は蹴り飛ばす。
蹴った瞬間爆発したが、あまり威力は高くない。
そして、攻撃の合間を縫って、防壁に4回目の攻撃を加える。
先ほどまでとは違う手応え。
蒼硬は、防壁を貫通したようだ。
貫通した途端、何かが砕けるような音と共に、透明な防壁が崩れたのが、肉眼でも見えた。
魔法陣に接するように防壁を展開する術式だったようだ。
そう言った術式は強力な防壁を作ることができるが、貫通されると今みたいに崩れてしまうのである。
防壁が崩れた瞬間に身体を前に蹴りだし、ジェーンに迫る。
そして、手近な一人の側頭部に、蒼硬を叩きつける。
近接戦闘慣れしていないジェーンは、反応できずに昏倒する。
一人目。
一人が昏倒するのを見て、3人のジェーンが距離を取り、二人のジェーンが魔術の剣を作って襲い掛かってくる。
どうやら、二人は前衛として、距離を取った3人が魔術の用意をする時間を稼ぐつもりのようだ。
だが、二人とも、その動きはもたもたとしており、ぎこちない。
近接戦闘慣れしていなさすぎる。
エミーリアならば、もっと鋭く、無駄のない動きをする。
二人が振るう魔術剣は大振りで、簡単に隙間を抜けることができる。
隙間を抜け、魔術の準備をしている3人に向かう。
BからAランクだと思われる魔術師だ。
3人にしっかり準備されては、相応の強大な魔術を放たれるかもしれない。
前衛をすり抜けてきた俺を見て、魔術の準備を始めていたジェーンが、目を丸くする。
そのジェーンの腹部に拳を叩き込む。
「がぁ・・・はっ・・・!?」
喰らったジェーンは顔をゆがめ、膝をつく。
そして、そのまま意識を失った。
二人目。
背後から殺気を感じ、体を曲げて頭を下げる。
下げた頭の上、首があった位置を、魔力の剣が二振り、横薙ぎに通り過ぎていく。
二人して首を狙っても、意味がない。
一人は高さを変えるなり、振りの角度を変えるなりしなければ、このように1回で躱されてしまう。
近接戦闘の経験があまりにも足りていない。
振り向きながら曲げた体を伸ばしつつ、剣を振るってきた一人の顎に掌を突き上げる。
クリーンヒットの手応え。
突き上げられて真上を向いたジェーンが、ゆっくりと後ろ向きに倒れる。
三人目。
その姿を見た、もう一人の魔力剣を持ったジェーンは、バックステップで距離を取る。
ああ・・・。
前衛が敵から離れすぎてはいけない。
前衛が離れた隙をついて、魔術の準備をしているジェーンまで跳び込み、側頭部に拳を一撃。
喰らったジェーンは、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。
四人目。
そのシーンを見た魔力剣を持ったジェーンが、慌てて俺に剣を振るってくる。
慌てすぎて、剣が大振りだ。
その剣を蒼硬で軽く弾けば、魔力剣を持ったジェーンは姿勢を崩す。
姿勢を崩したジェーンに向けて、蒼硬を横薙ぎに振るう。
側頭部を峰打ち。
意識を失ったジェーンは、叩かれた衝撃で横倒しに倒れる。
五人目。
最後の一人のジェーンは、しかし、全く慌てていない。
その背後には、暗い紫色のリングが6つ。
魔術の準備が終わってしまったようだ。
その6つのリングは、俺に向かって射出される。
速い!
だが、躱せないほどではない。
俺は、そのリングを躱し、隙間を縫ってジェーンに向かう。
向かっている最中、リングのうち一つがブライアンに向かって飛んでいくのが見えた。
このリングは、ブライアンでは厳しいだろう。
ブライアン自身はどうにか助かっても、ギノーサが危ない。
ジェーンに近づくのをやめ、ブライアンのいる方向へと、跳ぶ。
そして、リングに己の身体を叩きつける。
リングは砕け、霧散していった。
い・・・痛い。
リングの威力は、相当に高いようだ。
俺とブライアンのいる位置が近くなったので、残る5つのリング全てが俺たちに向かって飛んでくる。
・・・躱すと、ブライアンとギノーサが危ない。
飛んできたリングに拳を叩きつけて砕き、蒼硬で斬り伏せる。
別のリングは蹴り飛ばして叩き割り、また別のリングは腹筋に力を入れて腹で受け止め崩壊させる。
5つ目のリングをタックルで粉砕しつつ、その勢いで最後のジェーンへと突撃。
そのままジェーンの顎を肩でカチ上げながらぶつかる。
俺のタックルを喰らったジェーンは、壁まで吹き飛び、崩れ落ちる。
6人目。
俺の方に向かってきたジェーンは、全て倒した。
「メタルも終わったか。」
声のした方を見れば、覇山が降りてきていた。
ホールのようになった空間を見渡せば、そこかしこにジェーンが転がっている。
俺が6人倒すうちに、覇山は15人を倒しきったようだ。
ジェーンを排除した俺たちに、覇山が指示を出す。
「私でジェーン達を捕縛する。ブライアンとメタルはギノーサと協力して術式を破壊しろ。」
「了解。」
「はっ。」
「わかったわ。」
俺は頷き、ブライアンは敬礼しつつ短い返事をしている。
ギノーサも協力的なようだ。
そうして、俺は、ブライアン、ギノーサと共に、のっぺりとした材質の灰色の直方体の前に立つのだった。




