第40話 奇襲
メタル視点
覇山が何かに気が付き、口を開こうとした瞬間、俺たちに無数の魔術攻撃が降り注いできた。
速い!
魔術の弾速が、物凄く速い。
開放、50万。
弾速に対処するため、一気に力を引き上げる。
力を引き上げた途端、世界がスローモーションに見えるようになる。
そうなって、初めて、魔術の詳細が見えた。
ジェーンと戦っているときに何度も見た、暗い紫色の棘が中心になっている。
さらに、それだけに留まらず、電撃魔術や火炎魔術、さらに、効果の良くわからない球形の攻撃も混ざっている。
そして、その攻撃は、あまりに広い範囲に散らばっている。
攻撃は、俺たち3人を狙うにしては、広すぎる。
「・・・ギノーサを守れ!」
いち早く状況を把握したブライアンが叫ぶ。
広範囲への攻撃は、ギノーサの排除も目的にしたもの。
裏切り、情報を渡しそうな者は排除する。
そういうことなのだろう。
ギノーサの防御力では、この魔術群に耐えることはできない。
耐えるどころか、良くて粉々、直撃すれば蒸発して肉片すら残らない可能性すらある。
それほどの威力である。
ブライアンの叫びに、覇山が動く。
ギノーサの頭を押さえて身を低くさせ、身体を使ってギノーサを庇う。
一瞬の後、着弾する大量の魔術。
覇山は、ギノーサを庇いながら、第一波をその背に受けた。
ブライアンは、ギノーサまでたどり着けず、魔術の奔流に飲み込まれる。
俺は、その魔術の奔流の中、無理やりギノーサの近くへと突き進む。
全身を魔術がしたたかに叩いてくるが、ダメージは大きくはない。
俺は、覇山、ブライアン、俺の3人の中では一番防御力が高いのだ。
決してノーダメージではないが、この魔術ならば大ダメージにはなり得ない。
だが、ダメージこそ大きくないが、しっかりと痛い。
・・・俺に多少なりともダメージを通すとは、この魔術の主は、並みの相手ではない。
覇山とブライアンがやられる前に、ギノーサの元までたどり着かなければいけない。
無数の魔術を無理やり突破すること、数秒。
本来ならば一瞬の時間だが、この数秒で数百発の魔術が俺に命中している。
それなりに痛い。
痛いが、無理をしたおかげで、どうにか、覇山が防ぎきれているうちに、ギノーサの元に辿り着くことができた。
「カバーする!」
「助かる!」
覇山の様子を見れば、全身血だらけだ。
ギノーサに魔術が到達しないよう、今まで身体ごと盾にして耐えていたようだ。
俺は、覇山が防ぎきれなさそうな方向をカバーするように位置取る。
一方向を俺が担当すれば、覇山の実力ならば余裕をもって防ぎきれるはずである。
ギノーサを挟んで、覇山と背を合わすような方向を向き、目の前に殺到する魔術に蒼硬を振るう。
紫の棘は、威力こそ高いが、魔術としては脆い。
横から斬れば、消え去る。
火炎魔術は、周囲の空間ごと揺らめいて見えるほどの凄まじい熱量だ。
だが、熱が伝わるより早く斬れば、熱ごと霧散して消える。
電撃魔術は、斬ろうとすると体に纏わりついてきて、面倒だ。
しかし、全身に力を巡らせれば消し去ることができる。
最も厄介なのが球形の魔術で、斬ると爆発する。
なので、爆発よりも強い力で殴り飛ばし、こちらに爆風と衝撃が届かないようにする。
・・・よし。
問題ない。
対処はできる。
かなりの勢いと威力だが、対処できないほどではない。
目の前の魔術を、目につく端から消していくと、魔術の隙間から、ブライアンが見えた。
その身体は、覇山と同じく血に濡れている。
致命傷こそ受けていないようだが、傷は多い。
致命傷を避けつつも、こちらに到達する魔術を打ち消し、魔術の密度を低下してくれている。
助かる。
だが、その代償に、決して小さくはないダメージを受けているようだ。
魔術の奔流は、十数秒程度で終わった。
あまりの密度に、かなりの時間続いたように感じたが、せいぜい十数秒。
魔術の奔流は収まったが、周囲は砕けた壁や床が煙になって舞い散り、良く見えない。
その煙の向こうから、声がする。
「やったか?・・・いや、凌がれたな。」
この声は・・・エミーリア・・・いや、ジェーンか?
「なんと。防ぎきるか。」
エミーリアの話し方ではない。ジェーンだ。
「私達では、足りなかったか?」
ほぼ同じ声色だが、少し、違うような声がした。
「否。ダメージはある。このまま倒せるであろう。」
さらに、少し違う声色。
煙が晴れる。
煙が晴れて真っ先に目に入ったのは、攻撃の余波で広がり、ホールのようになった洞窟だ。
凄まじい攻撃により、周囲の壁は吹き飛び、数十mもの直径を持つ、広いホールのようになってしまっている。
次に目に入ったのは、のっぺりした材質の立方体である。
先ほどの攻撃で周囲の壁は吹き飛んだようだが、のっぺりとした材質の壁は壊れなかったようだ
のっぺりとした材質の、魔力で作られた壁は直方体型の部屋だったようで、その全貌をさらしていた。
そして、最後に目に入ったのは、俺たちを取り囲むように宙に浮く、ジェーン達である。
その人数は、20人。
ジェーンがレギオンであるとわかった時点で、別のジェーンが出てくる警戒はしていた。
だが、一気にこれだけの人数を出してくるとは思わなかった。
ジェーン達は、何かしらの目的に向けて動いているのだろう。
ならば、その組織人員が大きく減るような真似は避けたいはずだ。
意識を共有し連携が取れるレギオンは、組織運営上大きな戦力になる。
さらに、先ほどまでのジェーンの態度からするに、それなりに重要な地位にいるはずである。
そんなレギオンが、20体も先頭の矢面に出てくるとは思わなかった。
一人のジェーンが、俺たちを見て、言う。
「ギノーサに届かなかったか。」
そのジェーンが言うように、ギノーサは無傷だ。
ギノーサは、凄まじい魔術の奔流に怯え、頭を抱えてうずくまっている。
しかし、全ての攻撃魔術は俺たち3人に阻まれ、ギノーサには届いていない。
別のジェーンが、口を開く。
「だが、そちらの二人は満身創痍のようだ。」
そのジェーンが言う通り、ブライアンと覇山は、大きなダメージを受けている。
二人とも、致命傷こそ受けていないが、全身が血で赤く染まるくらいには傷が多い。
「警戒すべきは、あいつだ。」
さらに別のジェーンが、俺を指さす。
「うむ。まさか、攻撃の矢面に立っていたにもかかわらず無傷とは。」
・・・無傷、まあ、無傷か。
確かに、痛いと言えば痛かったが、傷が残るほどのダメージは受けていない。
リーダー格らしき、包囲から少し外れた位置にいるジェーンが、言う。
「まあいい。半分は手負いの二人にとどめを刺せ。もう半分で、無傷の奴を倒す。」
その声に従い、ジェーン達は二手に分かれる。
だが、そのジェーン達が襲い掛かってくる前に、覇山が、呟いた。
「・・・見ていたぞ。」
覇山がそう言った瞬間、覇山とブライアンの傷が、映像の巻き戻しのように消えていく。
瞬きほどの時間の後、覇山とブライアンは無傷になっていた。
それを見ていたリーダー格のジェーンは、全く狼狽えることなく、冷静に呟く。
「ふむ。魔眼か。」
そして、ハンドサイン。
そのサインにより、ジェーン達は陣形を変える。
どうやら、3人まとめて相手をするつもりのようだ。
まあ、普通に見れば、20対3である。
さらに、こちらは、ギノーサという足手纏いを抱えている。
まとめて相手しようと考えるのは、当然の帰結だろう。
覇山の魔眼を見て狼狽えないあたり、自分たちの実力に自信もあるのだろう。
空中で陣形を整えたジェーンが、こちらを睥睨し、言う。
「数に飲まれて、死ね。」
戦いは、続く。




