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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
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第39話 レピスタの計画

 エミーリア視点


 私は、リンガーの方を見て、問いかける。

「何があったか、教えて。」

「勿論です。」


 リンガーは、私の言葉に頷き、口を開く。


 灰神楽自治区に侵入した特殊部隊の前に、私と瓜二つな人物が現れたのだという。

 その時、リンガー達は、作戦の中では合流する予定はなかったため、何かトラブルが起きたのかと思ったのだそうだ。

 そのため、特に警戒はせず、話しかけた。

 だが、それがいけなかった。

 話しかけられた私と瓜二つな人物は、攻撃魔術によって瞬く間に特殊部隊の半分を制圧。

 私と瓜二つな人物のあまりの強さに、リンガー達は作戦の失敗を悟ったのだという。

 無線で作戦の失敗を伝達しつつ、残ったメンバーで離脱を試みたが、私と瓜二つな人物の攻撃はあまりに苛烈だった。

 次々に放たれる高威力な魔法攻撃に、あえなく離脱は失敗。

 通信機を切る余裕すらなく、最後の悪あがきの如く悪態をつきながら捕縛されたのだそうだ。


 リンガーの意識は一度そこで途絶え、目を覚ました時は牢の中にいたらしい。

 部隊員はそれぞれ独立した牢に入れられたそうだ。

 目を覚ますとほぼ同時に、リンガーの元にレピスタが現れたらしい。

 

 レピスタは、リンガー達に言ったのだそうだ。

「この宇宙は、狙われている。」

 その言葉を聞いたリンガーは、最初、何もわからなかった。

 疑問に思うリンガーを前に、説明を続けるレピスタ。

 

 レピスタは、この宇宙は別の宇宙に捕食される運命にあり、その運命から逃れるために準備を行っている、と語ったそうだ。

 さらに、超人たるリンガーたちにも協力を要請したらしい。

 リンガーは、最初、何も信じなかった。

 まあ、いきなり宇宙が滅びの危機にある、と言われて信じる者の方が少ないだろう。

 そんなリンガーだったが、レピスタが、掌の上に、紡錘形の赤い『何か』を発生させて見せたとき、考えが変わった。

 その赤い『何か』は、空間の亀裂であった。

 それを見たとき、リンガーは言いようのない不安に襲われ、宇宙の危機は、あながち嘘ではないと考えるようになったのだという。

 リンガーがその亀裂から目を離せないでいると、亀裂の奥に、黒い球体のようなものが横切った。

 紡錘形の赤い亀裂の中に、黒い球体。

 リンガーには、それが、捕食者の眼に見えた。

 リンガーの表情を見たレピスタはすぐに赤い亀裂を隠し、再び、リンガーの説得を行ったそうだ。

 この、赤い捕食者から文明を逃がすために、協力してほしい、と。


 だが、リンガーには、その説得の中で、納得できないモノがあった。

 赤い『何か』から逃げることができるのは、逃亡用の脱出船に乗ることができる、およそ1~2万人。

「我が国の人口は、100億人を超えています。脱出船に乗ることができない人々は、どうなるのですか?」

 リンガーは、感じていた疑問を、レピスタに問いかけた。

「・・・心苦しいのだが。」

 レピスタはそう言い、首を横に振ったという。


 脱出船に乗り込むことができるのは、およそ1万人。

 それ以外の人々は、赤い『何か』の犠牲になるというのだ。

「その赤い空間の主と戦い退け、全ての人々を守ることは、できないのですか?」

 リンガーは、問いをつづけた。

 だが、レピスタは首を振る。

「宇宙を喰らうような怪物だ。勝ち目はない。」

 宇宙規模の脅威に、抗うことを考えるのは無駄だと、レピスタは言った。

 続いて、リンガーは問いかけた。

「ここで小さく作るより、軍に、国にその事実を言い、協力した方が、逃げられる人々は多くなるはずでは。」

 こんな小さな自治区で脱出船を作るより、国の総力を挙げて脱出船を作った方が、逃げ出せる人数は増えるに違いない。

 だが、レピスタは、ここでも首を振った。

「国に協力を仰げば、それだけで時間を取られるだろう。全てが間に合わなくなる。」

 リンガーには、疑問が多くあった。

 さらに、問いかけは続く。

「なぜ、要塞に原生生物を嗾けたのです?」

 脱出船を作るだけならば、ロンギストリアータ第6要塞に原生生物を嗾ける意味はないはずだ。

 レピスタは、悪びれもせず答える。

「我らの計画から目を反らすため。既に目を付けられ、妨害されているのだ。助からぬ者達に、これ以上邪魔をされてはかなわぬ。」

 リンガーは、レピスタの言葉に、唖然とする。

 そのリンガーを差し置いて、レピスタは言葉を続ける。

「そもそも、宇宙ごと喰われて消え去るのだ。今死んでも、変わらぬ。」

 リンガーの心に、カッと、怒りが沸き上がる。


 宇宙を喰らうという事象への恐れから、相手の戦力をまともに測らずに、戦うことを捨て。

 国は動きが遅い、ただそれだけの印象で、国への協力を仰がず、より多く逃がす努力をせず。

 極めつけは、自分たちが助かるために、他の者がどうなってもいいという姿勢。


 その二つの怠慢と、あまりにも傲慢な姿勢により、99億9999万人は、死ぬのだ。

 このレピスタという男に、独断と偏見で選ばれた者以外、助からないのだ。

 1万人を超える人々を救おうとする精神は、たしかに、気高いものかもしれない。

 だが、それ以外の99億9999万人を見捨てるその選択は、リンガーは支持できなかった。

 

 そんなバカなことがあってたまるか。


 リンガーは、戦わずに逃げる、その性根が気に食わなかった。

 リンガーは、勝手な推測で、より多く逃がす努力をしないその姿勢が、気に食わなかった。

 そして、逃げるために、それ以外の人々がどうなってもいいという考えが、気に食わなかった。


「戦わず、妄信的に、他の者を虐げて逃げ出す、これのどこが正しいというのだ!」

 エミーリアと作太郎が見ている前で、リンガーが叫ぶ。

 これまで起きたことの解説は、途中から、リンガーの心の叫びになりつつあった。

 叫んだことで少し冷静になったリンガーが、少し、落ち込んだような声で言う。

「俺のこの考えは。間違っているのかもしれません。」

 リンガーはそう言い、両手で顔を覆う。

「でも、今この船にいる者達以外が助からないのは、俺には、容認できないんです。」

 リンガーは、顔を覆っていた手を下ろす。

 その表情は、叫んだためか、少し、すっきりしていた。

「ですが・・・。」


 リンガーは、最初、協力を断わろうと思ったのだという。


 最初、レピスタへの協力を拒否しようと考えたリンガーだったが、冷静になって考えると、協力すると偽れば、牢からの脱出につながるかもしれない。

 兎にも角にも、牢から脱出しなければ何もできない。

 リンガーは、レピスタの思想は気に食わなかったが、脱出のために、協力することを装うことにした。

 すると、あっさりと解放され、治安維持部隊に編入されたのだという。

 そして、治安維持部隊の控室に案内され、他の特殊部隊員と合流することができたそうだ。


 部隊員8人で合流し、情報を共有する。

 すると、8人のうち、レピスタの考えに賛同できない者が、リンガーを含めて4人、レピスタに賛同する者が4人と、意見が割れたのだそうだ。

 レピスタに賛同する者達の筆頭はヴィールであり、その考えは、文明を守り、人々の想いを後世に繋ぐには、レピスタの計画によって脱出・逃亡するべきであるというものだった。

 リンガーを始めとするレピスタに賛同できない者達の考えは、より多くの人々を逃がすべく動くべきというものであった。

 レピスタに賛同できない者達は、リンガーと同じく、脱出するためにレピスタを欺いて牢から解放されたのだという。

 情報共有するうちに、部隊の意見が二つに割れていることに気が付いた部隊員たちは、当然の如く対立した。


 本来、正規の軍人、特に特殊部隊員であるならば、任務達成に向け、懐柔策への対策も行っている。

 だが、リンガー達は、通常の特殊部隊のような特別な訓練は受けていない。

 超人として、あくまで個人の強さ、能力を元に集められている者達なのだ。

 そのため、レピスタの説得に乗ってしまう者が出てきたのだろう。


 対立した特殊部隊は、しばらく互いの意見を戦わせていたが、ついに、レピスタに賛同する者達が、痺れを切らした。

 リンガー達をこの宇宙からの脱出の障害になると判断し、排除しようと攻撃したらしい。

 ヴィールが魔法攻撃を放ったが、そこは、お互いに超人である。

 リンガー達はその攻撃を受け流し、ダメージを受けることはなかった。

 しかし、その余波で治安維持部隊の控室は滅茶苦茶になったのだという。


 そこに、私と作太郎が現れたのだそうだ。

 最初、リンガーが私に当たりが強かったのは、私のことを裏切った者だと思っていたためだという。

 逆に、私に好意的だったヴィール達は、私がレピスタに賛同して活動し始めているのだと思ったのだろう。


 なるほど。

 状況は分かった。


 状況が判ったので、改めてリンガーに協力を依頼しようと、口を開く。

 しかし、私が話す前に、それを遮るように、男の声が響いた。


「説明ありがとう、リンガー君。君の考えも、よくわかった。」


 急に聞こえた男の声に、皆、部屋の一角に目を向ける。

 


 先ほどまで誰もいなかったはずの場所に、いつの間にか、レピスタが立っていた。



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