第38話 ダエダレアの洞窟
メタル視点
ギノーサの後に続き、ダエダレアの洞窟の奥へと進む。
ダエダレアの背にある洞窟は、生き物の上にあるモノとは思えぬほど広大だ。
とはいえ、考えてみれば、ダエダレアは甲羅の長軸の直径が10㎞ほどもある巨大な亀である。
10㎞の大きさの島の上にある山にできた洞窟だと思えば、この広さも妥当なのかもしれない。
内部を歩いてみてわかったが、ダエダレアの洞窟の特徴は、下方に進み続けるわけではなく、登ったり降りたりが複雑に組み合わさっていることである。
洞窟ができているのは、甲羅の表面の既に死んでいる組織や堆積物の部分であり、甲羅の生きている部分に洞窟はない。
そのため、一定以上は降ることはなく、高低差の激しい迷いやすい構造になっている。
そのダエダレアの洞窟を進むこと30分程。
その間、様々な地形を超えた。
通路のような細い道や、100m以上ありそうな巨大な裂け目、地表から染み込んだ水が溜まった地底(?)湖。
非常に複雑な道だ。
「なあ、ダエダレア。お前の背中、すごいな。」
思わず、ダエダレアの端末である小亀に話しかける。
「あたしも、自分の背中にこんな洞窟があるなんて、知らなかったよ。自分自身の背中で洞窟探索をした奴なんて、なかなかいないんじゃないかい?」
そう言い、ダエダレアは、からからと笑う。
自身の上で洞窟探索・・・。
俺で言うならば、髪の毛の隙間とかを探索している感じだろうか?
俺が、そんな益体もないことを考えている中、ブライアンと覇山は、先導しているギノーサに、様々な質問を投げかけている。
呪いの及ばない範囲内で情報収集を行っているのだ。
新たな情報が手に入り次第、俺にも共有してくれている。
とはいえ、その情報収集は、あまり上手くいっていない。
覇山とブライアンの尋問技術が足りていないのだ。
決して、覇山とブライアンの能力が低いわけではない。
覇山もブライアンも、階級相応に頭はいい。
覇山は元帥という軍人の最高位であり、過去、碧玉連邦が危機に直面した際、数多くの勝利をもたらしている。
ブライアンは、超人部隊の最高クラスの戦力であり、階級は中将。
ブライアン自身の強さが求められる超人部隊員であるため、中将といえど部隊の指揮を執るわけではないが、魔術と呪術の双方に精通しているその頭脳は伊達ではない。
だが、覇山は、部下が尋問して得た情報を元に作戦の指揮をする立場であり、自身が直接尋問に携わることはない。
ブライアンも、その強さにより叩き上げでこの地位に就いたため、尋問などの高い専門性が必要な仕事には触れてきてはいない。
尋問は、心理的なテクニックを頼りに行う、非常に専門性の高い、高度かつ特殊な技能である。
純粋に経験がないのだ。
残念ながら、今回ここにいる3人では、呪いによって話すことが制限されている相手から有用な情報を引き出すのは、かなり難しいと言わざるを得なかった。
「ごめんなさいね。私ももっと話せればいいのだけれど・・・。」
ギノーサまで、なんだか申し訳なさそうな表情をしている。
しかし、何もわからなかったわけではない。
ギノーサが協力的だったおかげで、いくつか、有用な情報を得ることはできている。
特に、今回、第6前進都市の人々を捕えたのは空間魔術によるものであることや、その空間魔術を行使した者と周囲に暗雲を展開する術を行使した者は同一人物であることがわかったのは、それなりの成果だろう。
少なくとも、一人は非常に強力な術師がいることが分かったのだから。
さらに、歩くこと数分。
ギノーサが、立ち止まる。
「ここよ。この先に、術式があるわ。」
そう言い、ギノーサが示すのは、何もない岩肌。
パッと見、何もないように見える。
しかし、ブライアンの目つきが、少し、鋭くなる。
「ふむ・・・。確かに、何かあるな。」
岩肌に、ブライアンが手を触れる。
そして、何かを呟く。
ブライアンが呟いたものは詠唱だったようで、その瞬間、ただの岩肌に見えた壁が、音を立てて崩れる。
岩肌の後ろからは、のっぺりとした材質の壁が現れた。
「魔術?」
俺がブライアンに訊けば、ブライアンは頷く。
「魔術で土を吹き付け、幻術で違和感を消したものですな。簡単ですが、効果の高い魔術です。」
なるほど。
ブライアンの言葉になんとなく納得しながら、のっぺりとした材質の壁に触れる。
触れた瞬間、非常に強い魔力を感じた。
のっぺりとした材質は、魔力によって編み上げられた魔力板だったようだ。
「扉はないようだな。」
覇山が魔力板の壁を確認しながら、言う。
その言葉に、ギノーサが反応する。
「ええ。一度発動したら、開く必要がない、と言って、塞いでいたわ。」
ギノーサの言葉に、ブライアンが少し首をかしげる。
「開く必要がない・・・?術式のメンテナンスをしないということか?」
魔術や呪術の術式陣は、魔力や呪力を通すと、次第に劣化していく。
適したメンテナンスを行わない限り、いずれ効力を失い、術式は停止するのだ。
そのため、使い捨てでない限り、メンテナンスが必要である。
今回は、壁で塞いでしまっているところを見るに、メンテナンスをする気はなさそうである。
「よほど高強度な陣を敷いたか。」
ブライアンが言う。
その言葉に、覇山が、返す。
「いや。もしや、こちらは、何かの陽動なのかもしれん。」
覇山の言葉に、ブライアンが、はっとした顔をする。
・・・どういうことだ?
俺だけ、話についていけていない。
「これだけ大規模な事案で、陽動?どういうこと?」
あまりによくわからないので、覇山に訊ねる。
「それは・・・。」
覇山は、律儀に説明しようと口を開く。
しかし、その言葉がそれ以上続くことは、なかった。
覇山が口を開いた瞬間、俺たちに向けて、無数の魔術攻撃が降り注いだのだ。




