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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
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第37話 対立する特殊部隊

 エミーリア視点


 部屋の中央では、捕らえられていたはずの特殊部隊の面々が二手に分かれ、相対している。

 それぞれ、互いに敵を見るような目で、相対する相手を睨みつけている。

 二手に分かれた特殊部隊は、それぞれ4人ずつ。

 灰神楽自治区に侵入した特殊部隊は8人だったので、全員がこの場に揃っていることになる。

 なぜか、部隊内で対立しているようだ。


 片方は、ネズミ系人種の女性隊員が先頭に立っている。

 原始率は低くネズミっぽさは獣耳くらいで、身長は150㎝くらい。

 ヒト型種族としては小柄だが、ネズミ系人種としては大柄だ。

 その女性隊員の名前は、ヴィールだったはずだ。

 もう片方は、アナグマ系人種の男性の、リンガーという名の隊員が先頭に立っている。

 原始率はそこそこで、二足歩行だが顔はアナグマである。

 アナグマ系人種も体系は小柄な者が多く、リンガーも例に漏れず、身長は150㎝より少し低いくらいだ。


 周囲の治安維持部隊だと思われる人々の様子は、めちゃくちゃだ。

 周囲の痕跡を見るに、どうやら、ヴィール側がリンガー側に攻撃を放ったようだ。

 リンガー側はその攻撃を防いだようだが、その余波で、周囲のモノを吹き飛ばしてしまったようだ。

 机は倒れ、椅子は転がり、書類は散らばっている。 

 さらに、治安維持部隊だと思われる人々が周囲におり、意識を失って倒れている者もいれば、机に隠れて震えている者もいるし、怪我をしているようで呻く者や、呆然と立ち尽くす者もいる。

 なかなか混沌とした状況だ。


 そもそも、何故、特殊部隊内で対立しているのだろうか?

 

 そんな様子を見て、作太郎が声を上げる。

「どういった状況ですかな?」

 作太郎の声に、特殊部隊の面々が、こちらを向く。


 二手に分かれた部隊が私を見たときの表情は、対照的だった。

 ヴィール側は、仲間を見たような、嬉しさと安堵が入り混じった表情。

 リンガー側は、唾棄すべきモノを見たような、憎悪と軽蔑が混ざった表情。

 すぐに、ヴィールが、喜色を滲ませた声色で、話しかけてくる。

「ああ、エミーリアさん。先ほどは、暴言を吐いてしまい、申し訳ありませんでした。」

 ・・・?

 暴言?

 訳が分からずに答えられないでいると、別の隊員が言葉をつづけた。

「あの時はエミーリアさんがなんで敵側に付いたのか理解していませんでした。」

 ??

 敵側に付いた?

「事情を話してくれれば・・・、いや、あの状況だと、話す暇もないですからね。」

 ????? 

 さらに別の隊員の言葉を聞き、私の頭の中は混乱するばかりだ。


 そんな混乱した頭に、さらに言葉が投げかけられる。

「この裏切者!恥ずかしくないのか!」

 リンガーからの言葉だ。

 裏切者・・・?

 裏切り・・・?

 今までの行動で、特殊部隊を裏切るような行動は、していないはずだ。

 上手くいっているかは別として、戦略目標を違えてはいないはず。

 

 なにもわからない。

 わからなさすぎるので、作太郎の方を見る。

 しかし、作太郎の表情も、困惑気味だ。

 ・・・だめだ。

 作太郎も、状況を理解できていないようだ。


 と、とりあえず、助けに来たことと、戦力として助けになってほしいことを伝えよう。

「・・・救助に来た。戦力が足りない。可能ならば任務の支援を要請する。」

 私がそう言うと、特殊部隊の面々は、皆、訝しげな表情を浮かべる。

「・・・救助?どういうことです?任務の支援ならば、喜んでしますが・・・。」

 最初に私に声をかけてきたヴィールが、訝しげな表情を浮かべたまま、言う。

「救助・・・救助、か。」

 私に、裏切者、と声を投げかけたリンガーは、何かに気が付いたような表情をしている。

 そして、口を開いた。

「首謀者の捕縛はできたのですか?」

 私は、その問いかけに、首を振る。

「まだ。今から。」

 

 私がそう言った時の、二手に分かれた部隊の表情は、再び対照的だった。

 ヴィール側は、信じていた者に裏切られたような、驚愕と憎悪が混ざった表情。

 リンガー側は、ほっとしたような、どこか安心したような表情。

 先ほどと、浮かべている表情が逆である。

 

 ヴィールが、困惑したような声を上げる。

「エミーリアさん?エミーリアさんは、レピスタ様の高尚な目的を、理解して、レピスタ様側についたんですよね?」

 なに?

 レピスタの高尚な目的?

 ・・・知らない。

 私は、首を横に振る。

 すると、リンガーの方からも、声がかかる。

「先ほど私たちを襲ったのは、何か策があってのことでしたか?」

 襲った?

 私が?

 特殊部隊を?

 いや、そんなことした覚えはない。

 そもそも、この要塞を目指してから、レピスタと戦った以外では、まともな戦闘を行っていない。

「襲ってない。」

 私がそう反論すれば、リンガーは、少し思案し、口を開く。

「・・・ならば、あのエミーリアさんは、偽物か幻術の類だったのでしょう。」

 リンガーは、リンガー側の他の3人の方を向き、言う。

「俺はエミーリアさんに協力しようと思う。皆はどうする?協力するか?」

 リンガーの言葉に、他3人も、頷く。

 隊員たちの反応を見て一つ頷いたリンガーは、私達の方を向き、言う。

「では、我々は、エミーリアさんに協力しようと思います。」

 そして、すぐに、戦闘態勢を取り、武器を構える。

 リンガーの武器は、小ぶりな鉈。

 狭い場所での戦闘に合わせた武器だろう。

「そのためには、とりあえず、ヴィールたちをどうにかしなければいけないでしょう。」

 その視線は、ヴィールたち4人の方を向いている。


 リンガーの視線の先には、武器を構え、敵意をむき出しにしたヴィールたちがいた。


 ヴィールが、失望と敵意を隠さない声色で、言う。

「リンガー。お前は賢い奴だと思っていたが・・・。唯一の文明を救う方法だというのに、理解できないか。」

 ヴィールの言葉に、リンガーも言い返す。

「くそ、簡単に洗脳されやがって・・・。戦わずして逃げ出すことが、文明を救う方法?片腹痛いわ!」

 ヴィールとリンガーは、私と作太郎が知らない情報をもとに、言い争っている。


 ・・・とりあえず、ヴィールたちを大人しくさせて、詳しい話を聴かなければいけないだろう。

 だが、ヴィールたちは既に戦う気になっている。

 少々手荒だが、ヴィールたちを大人しくするには、制圧するしかないだろう。

 

 見たところ、ヴィールとリンガーの強さは、あまり大きな差はなさそうだ。

 今、協力してくれそうなリンガー達に怪我をされても困る。

「私が出る。」

 ヴィールたちは、超人。

 だが、戦術クラスの超人だ。

 私ならば、無傷で倒すことができる。

 リンガー達が相手にするより、私が制圧した方がいいだろう。


 一歩前に出たとき、左隣に気配を感じる。

 そちらに目を向ければ、作太郎も踏み出していた。

「某も手伝いますぞ。」

 ・・・心強い。

「お、おい、大丈夫なのか?」

 リンガーが、心配してくる。

「問題ない。」

 私は、その言葉に、頷きながら答える。


 武器も構えずに前に出た私たちを見て、ヴィールの額に青筋が浮かぶ。

「・・・舐めているの?」

 その言葉に、作太郎が言い返す。

「舐めている?はっはっは。面白いことを言いなさる。」

 続けて、作太郎は、自然体のまま、言い放つ。

「レピスタに寝返った貴様ら如き、抜刀する必要もなし。大人しくせい。」

 作太郎の言葉に、ヴィールの表情が歪む。


 もはや言葉は不要、とばかりに、ヴィールたちが斬りかかってくる。

 ヴィールの武器は、潜入任務に使いやすい短剣だ。

 その動きは洗練されており、超人として十分に訓練していることが伝わってくる。

 しかし、作太郎に対しては、足りない。

 作太郎は、避けることもせず、ただ、腕を突き出す。

 ただそれだけの動作が、ヴィールのどの動きよりも、早い。

 突き出された腕は、ヴィールが短剣を振るより早く、彼女の顎に当たり、昏倒させる。

 私の方に襲い掛かってきた隊員は、ショートソードを持っている。

 こちらも、特殊部隊なだけあり、洗練された動きだ。

 だが、残念ながら、いろいろ足りていない。

 ショートソードの腹を叩いて弾き、姿勢を崩した隊員の顎に一撃。

 その隊員は、膝から崩れ落ちた。

 さらに、右手から一人が襲い掛かってくる。

 私が別の隊員を相手にしているうちに倒そうという魂胆だろう。

 だが、甘い。

 死角から攻撃するために姿勢を低くしている相手の顔面を蹴り上げる。

 相手は、縦に2回転し、床に転がる。

 作太郎の方を見れば、作太郎の足元にも、ヴィールを含めて二人、隊員が倒れている。

 制圧完了。


「さ・・・流石ですな。」

 リンガーが、少しの驚きを滲ませ、言う。

 私は、そのリンガーの方を見て、問いかける。

「何があったか、教えて。」

「勿論です。」


 リンガーは、私の言葉に頷き、口を開いたのだった。


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