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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
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第31話 レピスタ

 エミーリア視点


 私の父親であり、最大の敵。

 灰神楽自治区の王、レピスタ。

 

 レピスタは、ゆっくりと、口を開く。

「・・・作太郎、戻ったか。」

 先ほどの作太郎の一撃など、何もなかったかのように、語り掛ける。

「貴様の首を貰い受けに来た。」

 作太郎がそう答えると、レピスタは、表情一つ変えず、言う。

「ふむ。まじないは、解けたか。」

 そう呟いた後、レピスタの視線は、私の方を向いた。

「我が娘、エミーリアよ。よくぞ、戻った。」

 怖気が走る。


 よくぞ?

 言うに事欠いて、よくぞ戻った?


 母に取り入って灰神楽自治区を支配し。

 数十人の『私』を捕らえ。

 そして、作太郎の精神を呪ってまで私を殺そうとしてきた。


 そんなことをしてきた上で、よくぞ戻った、だって?

 よくもまあ、そんなことを言える。


 だが、不思議と、怒りは湧いてこない。

 頭の中では、自分でもびっくりするくらい冷静に、レピスタと自分の戦力を比較している。 

「・・・惑わされぬよう。」

 作太郎が、小さくつぶやく。

 私は、作太郎に小さく頷く。

 作太郎は、私が冷静であることを理解したようで、それ以上何も言ってこない。


 冷静に戦力を比較すると少し、いや、かなり厳しい。

 レピスタは、私を殺し切るほどの一撃を、全く造作ない様子で放ってきた。


 私の、戦闘者としての長所は、耐久力だ。

 複数の自己を持つという、冗長性。

 私には、数十人分の個々に独立した人格を持つ『私達』がいる。

 メタルは個々の人格を尊重してくれているが、すべての私を合わせて一人というのも事実。

 数十人いる私のうち、誰か一人が生き残っていれば、私は死なない。

 全員が纏まっているときにダメージを受けると、全ての私がある程度のダメージを受けてしまうとはいえ、少しはダメージは分散される。

 その耐久性と冗長性こそが、私の強みなのだ。 

 さらに、メーアから力を引き継いでいるため、身体能力や内包しているエネルギー量も、それなり以上のもののはずだ。


 だが、レピスタは、そんな私を一撃で殺しきることができる攻撃を、いとも簡単に放ってきた。

 私は、自分と戦った場合、自分を殺しきることができるほどの威力の攻撃を放つことはできない。

 となると、レピスタの攻撃力は、私よりも高いことになる。

 さらに、先ほど放たれた作太郎の一撃は、レピスタに通用していないようだった。

 作太郎の一撃は、呪いにかかった作太郎から斬りかかられたときにわかっているが、私を殺しきれる一撃だ。

 そのため、レピスタは攻撃力のみならず、防御力も私を上回っていることになる。


 ということは、私は、攻防どちらもレピスタに劣っていることになる。

 そこまで考えたうえで、剣を硬く握り、盾をしっかりと構えなおす。

 ・・・元より不利は想定していた。

 これくらいなら、想定内。

 さらに、私は近距離物理戦が中心の戦士だ。

 攻防で劣っていても、速度と戦闘技能が勝っていれば、勝機はある。


 剣を構えた私を見たレピスタの目が、少し開かれる。

「なんと。実の父に剣を向けるか。悲しいな。」

 よく言う。

 その程度の言葉では、私は動揺しない。



 今までは、潜入中に見つかりづらいように一人に纏まっていた。

 だが、ここまできたら、纏まっている意味はない。

 私がレギオンであることは、レピスタはわかっているはずなので、レギオンであることを活用した奇襲は通用しない。

 分かれれば、一撃で全員が殺されることはなくなる。

 さらに、一人一人の強さが低下するわけではないため、多少の能力差ならば数の暴力でひっくり返すことができる。

 最初から、全員を展開するべきだ。


 そう思い、自分の中から、自分達を出そうとした。



 ・・・出てこない。

 いや、出すことができない。



「対策ぐらい、するとも。」

 私が自分達を展開しようとしたことを察知したのか、レピスタが、言う。

 自分達を展開しようとしたとき、強い魔力を感じた。

 魔術的な、展開阻害だ。

 しかも、かなり強力なものである。

「何を、言っている?」

 展開阻害自体は作太郎には関係ないため、作太郎自身は何が起きているかわからないようだ。

「・・・分かれられない。」

 作太郎に状況を伝える。

「厄介な。」

 作太郎は、小さな声で毒づくが、その視線はレピスタを見据えたまま動かない。

 

 分かれられないのは、とてもよろしくない。

 とはいえ、戦わなければ、殺されるだけだ。

 剣を抜き、構える。

「ふむ、諦めんか。正しい反応ではあるが、忌々しいな。」

 私の反応を見て、レピスタが、少し、手を動かす。


 その瞬間、先ほど私の胸に突き立った、暗い紫色の棘が、私に向かって襲い掛かってきた。


 だが、その棘は、私に届く前に、その中間部分を作太郎によって斬り飛ばされる。

 切り離された棘の先端は、しかし、勢いを失わずに私に向かって迫ってくる。

 それを、盾で弾く。

「!?」

 弾いた瞬間、凄まじい重さが伝わってきて、数歩たたらを踏んで交代する。

 もの凄い威力。

 訓練で受けた、メタルの拳並みの威力だ。

 盾を見れば、槍を受けた部分を中心に歪んでいる。

 衝撃を受け流しきれなかった。


 さらに、暗い紫色の棘が、襲い掛かってくる。

 数は、5。

 多い。

 2本は作太郎に、3本は私に迫ってくる。

 一本を躱し、一本は斬り飛ばす。

 作太郎は2本とも斬り捨てている。

 最後の1本は、躱す。

 流石に、二度も見た技を易々と受けはしない。 


 躱しつつ、前進。

 私の前進に合わせて、作太郎も踏み出す。 

 暗い紫色の棘が迎撃してくるが、棘の速度はあまり速くはない。

 十分躱すことができる。

 そのまま肉薄し、レピスタに向けて剣を振るう。

 さらに、私の攻撃と同時に、作太郎も刀を一閃。


 レピスタに当たった瞬間、刃が、止まる。


 なんだか、剣の勢いが吸収され、消え去るような感覚がした。

 嫌な予感がしたので、レピスタから離れる方向に、跳ぶ。

 すると、一瞬前まで立っていた場所に、無数の暗い紫色の棘が生えてきた。

 その棘を躱し、再度、攻撃を仕掛ける。

 だが、再び、剣の勢いが吸収され、消え去るような感覚がして、効かない。

 三度攻撃を仕掛けるも、暗い紫色の棘に阻まれる。

 どうにかかいくぐって攻撃しても、攻撃が効かない。

 さらに、暗い紫色の棘の迎撃精度が上がっていく。

 レピスタは、最初に少し手を動かした以降、一切動いていない。

 作太郎が斬りかかるのに合わせ、魔力弾を撃ち込んでみる。

 しかし、魔力弾はレピスタに当たった瞬間に掻き消え、作太郎の斬撃も効いていない。

 

 ・・・これは、どうしようもない。


「勝てない。」 

 私が小さくそう言うと、作太郎が、頷く。

「三十六計逃げるに如かず、でござるな?」

 ・・・その言葉の意味はわからないが、とりあえず、逃げてほかの目標を優先すべきなのはわかる。


 私は、こちらを油断なく見据えているレピスタに背を向けると、全力で駆け出した。

「なっ!?」

 後ろで、レピスタの困惑した声が聞こえる。

「待て!止まれ!」

 止まってやる義理はない。


 何発か暗い紫色の棘が飛んできたが、距離が離れているうえにあまり速くないので、躱すのは容易い。

 


 私と作太郎は、レピスタをその場に残し、球体中央の円筒形構造から逃げ出したのだった。



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