第30話 エミーリア(?)との戦い
「体から離れれば、効果はないのかな?」
そう言い、エミーリア(?)は、その手に持った”鈍い金色に輝く右掌”をくるくると弄ぶ。
ブライアンの鈍い金色に輝く腕は、手首から先をエミーリア(?)に折り取られた。
鈍い金色に輝く腕は義手が変形した部分だとはいえ、固有能力の一部だ。
決してノーダメージでは済まない。
「次の相手は、貴様か?」
ブライアンを庇うように前に出た俺に、エミーリア(?)が話しかけてくる。
「ああ。ちょっと相手してくれよ。」
俺も、それに言葉を返す。
ブライアンの復帰までは、1分。
相手の手の内は、よくわかっていない。
唐突に、暗い紫色の棘が、俺の顔に向かって襲い掛かってきた。
速い。
だが、対応できないほどではない。
それを、首をひねって躱す。
躱しつつ、エミーリア(?)に向かって踏み込む。
エミーリア(?)の眼前、1m程まで近づいたとき、俺の体は、止まった。
そのまま、エミーリア(?)から離れる方向に向かって、俺の体は押し出されるように吹き飛ばされる。
なるほど。
ブライアンが最初に止められたのは、これか。
「なんだ。そこの禿といい、お前といい。突っ込んでくるだけか?」
エミーリア(?)が、呆れたような声を上げる。
ふむ、単調だったか。
だが、エミーリア(?)に言われたからといって、別に攻め方を工夫する必要性も感じない。
とはいえ、今の状態では、あの術は突破できない。
開放、10万。
悟られないよう、呟かずに力を開放する。
声に出した方が気合は入るが、今回は悟られないために仕方がない。
12眼のフローティングアイのメーアの全力と戦った時と同じレベルで開放する。
メーアの時と同じく、力は外に漏らさないよう、隠す。
だが、俺が力を解放した瞬間、エミーリア(?)の表情が、変わる。
「ほう?思ったよりも、強いな?」
・・・なに?
力の開放が、ばれた?
・・・エミーリア(?)は、思っていたよりも強いようだ。
俺が力を隠しながら開放したとき、その力を感じ取れる者は、ほとんどいない。
大抵の解析魔術や計測機器では、俺が隠して開放した力は、感知できないのだ。
たとえ、複数人で行う儀式級の大魔術でも、隠して開放した俺の力は感知できないように隠している。
そうなるように鍛えてきたし、実際に感知できないことも確認済みだ。
だが、相手の力が俺の開放した時点の力を上回っている場合、隠しきれないで見破られることがある。
今回は、あのエミーリア(?)の力が、開放10万の俺の力に勝っている、と考えた方がいいだろう。
開放、20万。
メーアの時の倍に、力を引き上げる。
力を引き上げ、エミーリア(?)の反応をうかがう。
「どうした?攻撃してこないのか?」
どうやら、ここまで開放すれば、隠しきれるようだ。
エミーリア(?)の強さは、俺の開放10万以上、20万未満のようである。
「ふむ。様子見ばかりとは。」
そう言いながら、エミーリア(?)は、少し、足を動かす。
俺は、一歩、横に体をずらす。
すると、俺が立っていた場所に、暗い紫色の棘が地面から飛び出してきた。
「ほう。躱すか。」
俺が躱したことに、エミーリア(?)から関心の声が上がる。
俺は、再び、エミーリア(?)に向かって前進する。
途中、何本か紫色の棘が襲い掛かってくるので、それを躱しながら進む。
威力は高そうだが、単調な攻撃である。
先ほどと同じく、エミーリア(?)の1mほど前まで到達したとき、俺の体を吹き飛ばそうと、強い力が加わってくる。
先ほど、この術を受けて、わかった。
かなり強力な術だ。
ブライアンは固有能力で破ったが、そうでなければ、ブライアンの力で破るのは難しかったかもしれない。
エミーリア(?)がこの術に信頼を置いているのも、よくわかる。
俺の体を吹き飛ばそうとする力に対し、足を強く踏み込み、耐える。
「むぅ?まさか、力のみで耐えるか?」
強大な力だが、耐えられないほどではない。
さらに一歩、踏み込む。
そして、手の届く距離になったエミーリア(?)に、拳を振るう。
「おっと!?危ない危ない・・・。」
俺の拳は術に阻まれて遅くなり、エミーリア(?)は、それを悠々と躱した。
だが、それが狙いだ。
開放、30万。
一気に、体が軽くなる。
俺を押し返そうとしている力は、まだ、かかっている。
だが、開放によって高まった俺の力なら、この程度の妨害ならば、無視して突っ込める。
俺の拳を躱して油断しているエミーリア(?)に向かって踏み込み、その顔面に向かって、コンパクトに左拳を突き込む。
「なっ!?がっ!!」
俺の左拳は、一瞬驚いた顔をしたエミーリア(?)の鼻面に命中。
さらに、追撃。
もう一歩踏み込み、右のフック。
側頭部に命中。
だが、エミーリア(?)も、決して弱いわけではない。
体勢を崩しながらも、バックステップで距離を取ろうとする。
甘い。
そのバックステップについていくように踏み込み、左拳を再び繰り出す。
エミーリア(?)はそれを躱そうとする。
「がっ!?」
だが、躱させない。
躱すであろう方向に放っておいたのだ。
逃げられないと悟ったのか、エミーリア(?)も、拳を突き出して応戦してくる。
エミーリア(?)自身の身体能力が高いため、それなりに速い。
しかし、エミーリア(?)自身は、魔術戦がメインなのだろう。
その動きは、素人に毛が生えた程度のモノでしかない。
さらに、その拳に合わせ、紫色の棘も無数に出現し、俺に襲い掛かってくる。
体を捻り紫色の棘を躱しつつ、拳に合わせて、カウンター。
「がぁっ!」
綺麗に入った。
エミーリア(?)は、たたらを踏んで後退する。
そこに踏み込めば、顔を守ろうと、エミーリア(?)は両腕を交差し、さらに魔術の盾を発現させる。
まずは、魔術の盾に、一発。
盾は砕け、エミーリア(?)は無防備になった。
そして、顔を守っているガードを避け、腹部にミドルキック。
「ぐぅううっ!」
お?
呻きつつも、意外なことに、ガードを下げない。
さらに追加でミドルキック。
「うぐぅ!?」
エミーリア(?)の身体がくの字に折れ、ガードが、思わずといった感じで下がる。
下がった顎に向けて、右でアッパー。
エミーリア(?)は腕を上げて防ごうとするが、遅い。
俺の拳は、綺麗にエミーリア(?)の顎を捉えた。
その小柄な体は、数m吹き飛び、地面に転がる。
俺は、ゆっくりとそれに近づく。
「く・・・来るなあ!!」
エミーリア(?)は、口から血を流しつつ、叫ぶ。
アッパーで口の中が切れたのだろうか?
さらに近づけば、俺を近づけないよう、紫色の棘が放たれる。
その棘は、横から殴り、折り飛ばす。
「ひ、ひいい!!」
エミーリア(?)は逃げようとするが、足が言うことを聞いていないようで、立ち上がれない。
そんなエミーリア(?)を見据えつつ、愛剣『蒼硬』を抜く。
命の危機を感じたのか、エミーリア(?)は、息を飲む。
俺は、倒れているエミーリア(?)の頭の近くに、蒼硬を突き立てる。
「ひっ・・・!?」
ブライアンの復帰まで1分とのことだったが、1分もかからず倒すことができた。
「流石だ。」
ブライアンの声がする。
声がした方を見れば、ブライアンは、エミーリア(?)が投げ捨てた鈍い金色の掌を拾い上げている。
「無事、腕も取り返すことができた。」
ブライアンは、そう言いつつ、拾い上げた掌を右腕の手首部分に押し付ける。
メキメキという音がして、手首と掌が繋がっていく。
「メタル殿。如何しますかな?」
ブライアンが、エミーリア(?)を見下ろしながら、言う。
「そうだな。いろいろ、教えてもらおうか?」
俺も、エミーリア(?)を見下ろしながら、言う。
俺の目線の先では、エミーリア(?)が、青い顔をしながら、ガタガタと震えていた。




