第28話 固有能力
メタル視点
ブライアンの右腕と右足が、鈍い金色に輝いている。
エミーリアと瓜二つな外見の敵は、吹き飛ばされてからすぐに体勢を立て直し、ブライアンを睨んでいる。
「・・・固有能力か。」
エミーリア(?)が、つぶやく。
固有能力。
それは、個々の生命体がそれぞれ保有している、その個体固有の特殊な能力のことである。
その個人の体組織の配置や体内での魔力や体力、呪力などのエネルギーの流れが一つの回路となり、固有の能力が発動するのだ。
その発動原理から、全く同じ生命体が存在しないように、固有能力も全く同じものは存在しない。
今まで見てきた能力だと、覇山の魔眼やブライアンの鈍い金色の手足が固有能力にあたる。
エミーリアの何人もの人数に分かれられる能力や、鈴の大きな木になる能力(正確には、木が本体なので、ヒト型の分体を作る能力)は固有能力ではなく、生物種としての能力であるため、固有能力ではない。
固有能力が発現する切っ掛けは個々人で異なるが、多くの場合、己の力を鍛え高めていく中で発現する。
そのため、超人は固有能力が発現している場合が多いのだ。
ブライアンも、その例に漏れず固有能力が発現している。
その能力は、触れたものを侵食する者かの支配下にあるモノに触れることで、その支配権を強奪するものだ。
元々、ブライアンは別の能力を発現していた。
その時の能力は、大きなエネルギーを内包した金色の柱を生成し、自在に操るモノであった。
だが、先の大戦において、右手足を失う大きな怪我をしたため、体組織の配置や体内での魔力や体力、呪力などのエネルギーの流れが大きく変化し、固有能力も変質したのである。
閑話休題
鈍い金色に輝く腕を構えながら、じりじりと、ブライアンが距離を詰める。
そこに、エミーリア(?)は、無数の魔力の槍を生成し、投射する。
ブライアンは、その槍を躱したり、能力を発動していないほうの腕で弾いたりしながら、エミーリア(?)へ距離を詰める。
能力を発動している腕を使わないのは、相手に固有能力の内容を悟られないようにするためだろう。
実際、エミーリア(?)はブライアンの固有能力がどういった能力なのか掴めていないようで、ブライアンの動きを警戒しつつ、距離を保つように動いている。
エミーリア(?)は攻め辛そうだ。
ブライアンは、膠着している状況を動かそうと思ったのか、前進を始める。
エミーリア(?)がそれに反応して腕を振るうと、紫色の炎が扇状に吹き出し、ブライアンに襲い掛かる。
ブライアンは、鈍い金色に輝く腕で、紫色の炎を一薙ぎ。
腕の触れた部分から、紫色の炎は鈍い金色の光になり、消えていく。
能力を隠そうとするのも大切だが、それでダメージを受けては本末転倒だ。
使うべき時は迷わずに能力を使う。
ブライアンは固有能力を使った戦闘経験が豊富なため、そのあたりのバランス感覚は優れている。
間髪入れず、エミーリア(?)は、背後に魔法陣を出現させ、そこから、太さ2mはありそうな光線を放つ。
その光線に、ブライアンは鈍い金色に輝く腕を突き出す。
ブライアンが光線に触れた途端、触れた部分から光線は鈍い金色に変化していき、ついには魔法陣まで鈍い金色に変えてしまった。
次の瞬間、魔法陣は鈍い金色の光線を放ち続けたまま、エミーリア(?)に向けて向きを変えた。
「っち!厄介な。」
エミーリア(?)は、腕を振るって魔法陣を一瞬にしてかき消す。
その隙を見逃さず、ブライアンが大きく踏み込む。
そして、エミーリア(?)に向けて、拳を振るう。
触れてはいけないと思ったようで、エミーリア(?)は、大きく上体を反らせて躱す。
あまりいい避け方ではない。
近接戦闘には慣れていなさそうな動きだ。
そして、今振るわれたブライアンの拳は”左腕”。
上体を反らせて避けたエミーリア(?)の頭を、鈍く金色の輝く”右腕”が、掴む。
「ぐぁ!?」
エミーリア(?)が、衝撃に声を上げる。
「救助する。」
旗色が悪くなったエミーリア(?)を助けようと、これまで俺と同じように戦いを見ていた白銀の鎧が、ブライアンに襲い掛かる。
だが、ブライアンは、エミーリア(?)を掴んでいない左腕から衝撃魔術を放ち、白銀の鎧を吹き飛ばす。
さらに、白く光る魔力の杭を作り出し、白銀の鎧に向けて手首の動きだけで投擲。
白銀の鎧は、その杭によって地面に縫い付けられてしまった。
「うぅ・・・?ぐぅううう!!?」
エミーリア(?)が、苦悶の声を上げる。
見れば、エミーリア(?)の頭部、ブライアンの右腕の小指と親指が触れているこめかみのあたりが、薄っすらと金色を帯びている。
「があああ!?」
エミーリア(?)が、叫ぶ。
なんだか、本物のエミーリアが苦しんでいるように見える。
・・・これは。
俺は、戦闘の心構えをして、エミーリア(?)に悟られないように体重を軸足に乗せる。
「がああっ!・・・なんてな?」
案の定。
その瞬間、ブライアンが高速で後方に跳ぶ。
流石。
判断が早い。
素早く後方に跳んだブライアンに追撃を仕掛けようと、エミーリア(?)が腕に紫の光を迸らせながら踏み出す。
俺は、ブライアンとエミーリア(?)の間に割り込むように踏み込みつつ、蒼硬を振るう。
俺の放った一撃に、エミーリア(?)は反応し、踏み出しを止め、バックステップして退く。
「ふむ。次の相手は貴様か?」
咄嗟に横槍を入れたが、エミーリア(?)は余裕そうな雰囲気だ。
その腹部からは、紫の光を纏った腕が突き出している。
レギオン。
エミーリア(?)は、本物のエミーリアと同じく、レギオンだったのだ。
エミーリアがレギオンであることは、ブライアンは知らないはずだ。
ということは、勝ちを確信できるような状況下で、完全な意識の外からの攻撃に一瞬で反応して回避したのだ。
高い実力が成せる業だ。
だが、問題は、そこではない。
俺はエミーリア(?)に向けて追撃はせず、ブライアンの方に向かう。
ブライアンの野戦服の腹のあたりが裂けており、少し露出している腹部に赤い傷が見える。
「傷は?」
「ダメージはほぼ無い。だが、戦闘はできん。」
ブライアンの声に動揺はない。
確かに腹部の出血は小さく、傷は浅そうだ。
ダメージはほぼなさそうに見える。
とはいえ・・・。
「その状態じゃ厳しいだろう。俺が出る。立て直せるか?」
俺がそう言うと、ブライアンは浅く頷く。
「助かる。1分あれば立て直せる。」
ブライアンはそう言うと、俺がさっきまでいた場所へと下がる。
俺は先程、傷自体は浅いブライアンに、下がれと言った。
その理由は、エミーリア(?)の手の上にある。
「体から離れれば、効果はないのかな?」
そう言い、エミーリア(?)は、その手に持った”鈍い金色に輝く右掌”をくるくると弄ぶ。
ブライアンの鈍い金色に輝く腕は、手首から先をエミーリア(?)に折り取られていたのだ。




