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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
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第26話 ブライアンの腕

 メタル視点


 俺は、魔術によってその場に現れた女から、目が離せない。

 そこには、エミーリアに瓜二つな人物が、立っている。


 一瞬、エミーリア本人かと思った。

 だが、ここにエミーリアがいるわけがない。

 無数にいるエミーリアのうちの誰かかとも考える。

 もし無数のエミーリアのうち一人がこの場にいるのならば、それは、エミーリアは以前から暗躍していたことになる。

 その可能性は、否定しきれない。

 だが、ダエダレアが原因で起きている原生生物の大移動について、エミーリアは本気で驚いていた。

 エミーリアは無表情なので、慣れなければその心の内は掴みづらい。

 しかし、エミーリアは演技ができるほど器用ではない。

 あのときの驚きは本物だった。

 無数のエミーリアの内の一人がここにいれば、エミーリアは情報を共有しており、驚くことはなかっただろう。

 よって、無数のエミーリアのうちの一人だという可能性は、低い。

 次に、幻術を疑う。

 こちらの3人の味方にエミーリアがいるという情報は、敵は知らないはずだ。

 なので、幻術ならば、相手の望むものを見せるタイプの幻術ということになる。

 もしそのタイプの幻術ならば、ブライアンには別の者が見えているはずだ。

 だが、俺が隠れている今、それを確かめることはできない。


 ブライアンの足が、地面を踏みしめるように少し動く。

 少し、不自然な動き。

 待機のサインだ。

 今すぐにでもあのエミーリア(?)の前に飛び出していきたかったが、仕方がない。

 

 そのブライアンの動きを見たエミーリア(?)が、声をかける。

「おや?その動きは?」

 口調は、エミーリアとは似ても似つかない。

 その言葉に、ブライアンは、動かした方の足の裾をめくる。

 そこには、ブライアンの棒義足が見える。

「このような脚故、座りが悪くてな。」

 それを見たエミーリア(?)は、少し目を細め、言う。

「ふむぅ・・・?そういうものか?」

 エミーリア(?)の言葉への返答もなく、ブライアンは、構える。

 それに対し、エミーリア(?)から漏れでる魔力も高まっている。

 臨戦態勢だ。

「どれ、そこに隠れている者も、見学でもしたらどうだ?」


 ・・・ばれていたようだ。

 エミーリアに似た人物が出てきて、動揺して気配を漏らしてしまったようだ。

 そこを探られたのだろう。

 ブライアンにアイコンタクトを送れば、頷く。

 その頷きに答え、ブライアンの隣へ、跳ぶ。

「ふむ。なんだ。隠れていた者は切り札かとも思ったが、案外、強そうではないな?」

 俺を見て、エミーリア(?)が言う。

 ますます、あのエミーリア(?)がエミーリア本人である可能性が低くなった。

 俺の強さを知っているエミーリアならば、そんなことは言わない。

 俺に見覚えはないようだ。

「ブライアン、あれ、どう見える?」

 小声で、ブライアンに訊く。

 あの見た目が幻術かどうかを確かめたい。

 ブライアンも意図を察したようで、小声で答える。

「150cmくらいの身長の、紫髪の女だ。」

 ふむ。

 どうやら、見えているものに違いはないようだ。

 となると、幻術の線は、薄い。


 女に向けて、とりあえず、短剣を放つ。

 既に魔力を高めている。

 戦いは始まっているのだ。

 この短剣を放つ攻撃は、エミーリアとの訓練でよく行っていた動きだ。

 エミーリアの回避方法の癖は分かっている。


 俺が放った短剣は、女の前でぴたりと停止した。

 そして、くるりとこちらを向き、射出されてくる。

 俺は、その短剣をキャッチし、短剣ホルダーに戻す。

「返してくれて、ありがとな。」

 俺がそう言うと、女は少しむっとした顔をする。

「ふん。マナーがないな。」

 決闘でもない戦闘に、マナーもくそもあるまい。

 あるのは、命の取り合いだけである。 


 今ので、確信できた。

 エミーリアは、魔力にも優れているが、戦闘は物理的な近接戦闘を好む。

 飛び道具については、盾があれば盾で受け流し、盾がなければ体内から腕を生やして弾いていた。

 決して、魔術で受け止めたりはしない。

 そして、この状況での攻撃に、文句を言ったりもしないだろう。


 確信できた。

 あれは、エミーリアでは、ない。 



 エミーリアに似た、度し難い何者かだ。

「ブライアン、あいつ、俺にやらせてもらえる?」

 俺がそういうと、ブライアンは、首を横に振る。

「・・・何か、ありそうだな。だが、だめだ。」

 ブライアンは、そういう。

 そういえば、ブライアンはエミーリアのことを知らなかった。

 ブライアンは、義手を構える。

「儂の戦いから、相手の戦力を分析するのだ。」

 ・・・そうだ。

 そういう手筈だった。

 ならば、仕方がない。

 エミーリア(?)を張り倒すのは、ブライアンに任せることにする。

 

 俺は、ブライアンを残し、10mほど飛び退く。

 ブライアンもエミーリア(?)も、俺のことは止めない。

 二人の視線は、既に、戦う相手のみを見据えている。



 数呼吸の後、ブライアンとエミーリア(?)の戦いが、始まった。


 エミーリア(?)は瞬時に魔力の槍を数十本展開。

 それをブライアンに向けて射出。

 ブライアンは、義手を巧みに変形させ、器用に操りながら、その槍を捌いていく。

 そして、槍の隙間を縫って、エミーリア(?)に向け、光弾を放つ。

 だが、その光弾は、エミーリア(?)の前方1m程度の場所で停止し、ブライアンに向けて撃ち返されてくる。

 ブライアンは、その光弾を躱し、距離を詰める。

 義手をランスのように変形させ、エミーリア(?)に向けて突き込む。

 しかし、その一撃も、エミーリア(?)の前方1mで、止まる。

 ブライアンの動きも、止まってしまった。

 次の瞬間。ブライアンの体が、弾かれたように後方に吹き飛ぶ。

 どうやら、エミーリア(?)の周囲には防御魔術のようなものが展開されているようだ。

 吹き飛ばされたブライアンは、空中で姿勢を整え、着地。

 そこに、数十本の魔力の槍が襲い掛かる。

 ブライアンは、そのすべてを最低限の動きで躱す。

 魔力の槍を躱しつつ、ブライアンが地面を義足で踏み鳴らすと、ブライアンの影が波打つ。

 その波は見る間に数mはあろうかという大波になり、魔力の槍を飲み込み、轟音を響かせながらエミーリア(?)に襲い掛かる。

 暗黒波濤という、影を利用する上位魔術だ。

 威力、範囲共に優秀だが、長い詠唱と巨大な魔法陣が必要になるため発動が遅いのが欠点の魔術である。

 それを一切詠唱もなく、時間もかけずに撃ち出している。

 戦闘超人クラスならばこれだけで決定打になり、戦術超人だとしても決して無事では済まないような魔術だ。

 さらにブライアンは、その黒い波を利用し、勢いを増しつつ身を隠しながらエミーリア(?)に向けて突撃する。

 

 だが、エミーリア(?)には、届かない。

 黒い波はエミーリア(?)の1m前で四散し、ブライアンのランスはまたしても止められてしまった。

 再び、ブライアンの体が吹き飛ぶ。

 ブライアンは、先ほどと同じく、空中で姿勢を整え、着地。

 

 着地したブライアンは、油断なく、エミーリア(?)を見据える。

 ここまでで、どちらにも大きなダメージはない。

「どうした?届いておらんぞ?」

 エミーリア(?)が、言う。

 それに対し、ブライアンは、短く答えた。



「なに。すぐに届く。」


 

 ブライアンが、ぐ、と全身に力を籠める。

 するとブライアンの全身から、外から見てもわかるほど、大きな力が渦巻く。

 その色は、鈍い金色。

 漂う力を反射し、義手と義足も鈍い金色に光っている。

 

 義手と義足の形状が、変わる。


 溶けるような動きで、義手と義足の接合部が、ブライアンと一体化していく。

 そして、1秒もたたぬうちに、そこには、金色の右手右足を持った、ブライアンが立っていた。

 

 ブライアンは、一気にエミーリア(?)に向かって、駆ける。

 途中、魔力の槍がブライアンに命中するが、ブライアンの姿勢は、崩れない。

 エミーリア(?)の前方1mまで到達。

 ブライアンは、鈍い金色に輝く腕を、目の前の空間に突き出す。

 その瞬間、エミーリア(?)の周囲を取り囲むように、鈍い金色に輝く薄い壁が現れた。

 そして、その壁に、駆ける勢いそのままにブライアンはぶつかっていく。

 ブライアンに突っ込まれた鈍い金色の壁は、一瞬にして砕け散り、霧散して消え去った。

「なっ!?」


 壁を粉砕したブライアンの勢いは、一切弱まらない。 

 そして、ブライアンは、そのまま、エミーリア(?)にむけて体当たりをぶちかました。

「がっは!?」

 エミーリア(?)が、吹き飛ぶ。

 吹き飛んだエミーリア(?)は、地面で2度3度と跳ねるうちに、どうにか体勢を立て直し、立ち上がる。

 

 強欲な金腕のブライアン。


 ブライアンの、マイナーな異名だ。

 戦略超人クラスの強さになると、いくつもの異名を持っていることは、普通である。

 この異名は、ブライアンの固有能力を知っている数少ない者達から、畏怖を持って囁かれているものである。

 ブライアンの義手と義足が変形してできた手足は、何者かの支配下にあるモノに触れることで、その支配権を乗っ取ることができるのだ。

 乗っ取ったモノは、そのままにしておくこともできるし、先ほどのように鈍い金色の金属のようなものに変換して機能を喪失させることもできる。

 自身の魔力や呪力、固有能力によって体外のモノを操作する能力を持つ者にとって、ブライアンは天敵なのである。

 乗っ取る力はそれなりに強く、並大抵の超人では抗うことができない。

 相対した者は、そのすべてを乗っ取っていく様から、ブライアンのことを『強欲』と呼んだのだ。

 実際のブライアンは、そんな強欲ではないのだが。

 


 吹き飛ばしたエミーリア(?)を油断なく睨んでいるブライアンの金色の右手足は、ブライアンの戦意を写すかの如く、鈍く、しかし力強く輝いているのだった。



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