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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
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第25話 白銀の要塞

 エミーリア視点


 物陰に隠れたまま、工事現場を経由して要塞に入る道程を探る。

 工事現場の先を見れば、既にある程度完成しているであろう区画まで見える。

 幸いなことに、工事現場から要塞内部へは入り口があるわけではなく、そのままつながっているように見える。

 工事現場を通過することができれば、建材を運ぶフォークリフトやトラックこそ走り回っているが、人は少ない。

 あそこまでたどり着ければ、大きな障害なく内部に入り込めるだろう。

 だが、工事現場を動き回る人々は、多い。

 さらに、それぞれの担当箇所で作業しているため、目線は様々な方向を向き、誰にも見られないようにするのは難しそうに見える。

 その辺を歩いている作業員の服を奪って工事現場に紛れることも考えたが、罪もない人々を巻き込むのは、レピスタと変わらなくなってしまう。

 民間人には極力被害を出さないようにしたい。

 そうなると、どうにか、作業員たちの目線を一か所に集めたい。

 超人としての身体能力を活かせば、数十秒程度目線が外れれば、工事現場を通過することができる。


 都合のいい何かがないかと周囲を見回せば、自分たちがいる場所から離れたところに、資材置き場がある。

 ちょうど、資材置き場には人がいない。

 その資材置き場には、直径30㎝、長さは数mありそうな金属製のパイプが、10本くらいずつ紐でまとめられ束になって置かれている。

 さらに、そのパイプ束はいくつか積みあがっている。

 紐を切って束を崩せば、大きな音が鳴りそうだ。

 さらに、パイプは分厚い金属でできており、重そうである。

 片付けにも、それなりに時間がかかるだろう。

 

 目立たないよう、魔力で不可視の刃を作り出す。

 それを、射出。

 飛ばすのは、5本同時だ。

 5本の透明な刃は、無事、パイプを束ねている紐を切り裂く。


 支えを失ったパイプの山は、ガランガランと、大きな音を響かせて崩れ落ちた。

 工事現場にいる人々の目線が、音の方向を向く。


 その瞬間に、走り出す。

 工事現場の人々は、崩れたパイプに気を取られ、こちらに気づいていない。

 そのまま、超人としての身体能力に任せ、一気に工事現場を駆け抜ける。

 工事現場を抜け、手近な物陰に隠れる。

 様子をうかがう。

 工事現場の作業員たちは、突如起こった建材の崩落への対処で手一杯なようだ。

 よかった。

 無事、工事現場は抜けられたようだ。


 トラックやフォークリフトの合間を縫って、要塞の中へと進む。

 少し進めば、もう、工事現場は見えなくなった。


 改めて、要塞内部を見渡す。

 意外と、明るく、広い。

 そして、要塞にしては、無骨でもない。

 壁はで、目に優しい感じで柔らかく光を反射している。

 人の歩くエリアは、落ち着いたワインレッドのカーペットが敷いてある。

 トラックやフォークリフトが走っているのは、車両用の仮設専用通路だ。

 人通りはそれなりで、皆、忙しそうに通路を歩き回っている。

 意外にも、アンデッド以外の人々も多い。

 灰神楽自治区は、こんなに多種族がいた自治区ではないはずだ。

 アンデッド以外の人々は、私が灰神楽自治区を出てから3か月のうちに集まったのだろう。

 周囲の雰囲気や歩き回る人々を見ていると、ここが要塞の内部だということを忘れてしまう。

 ロンギストリアータ要塞や大盾要塞など、今まで旅してきた中で立ち寄った要塞は、どれも無骨で無機質かつ機能的な雰囲気であった。

 だが、この灰神楽自治区の要塞は、どこか華やかで流麗な、大きな旅客船のような雰囲気をしている。

 外には砲塔が設置されていたが、本来は要塞ではなかったりするのだろうか。


 とりあえず、無事、要塞の内部に侵入することはできた。

 次は、捕らえられているであろう特殊部隊と、魔術によって拉致された人々の捜索である。


 出歩いている人数はそれなりだが、それ以上に要塞は広い。

 歩いている人々の服装は統一されておらず、私たちが歩いていても違和感はない。

 さらに、皆、忙しそうにしており、見ず知らずの人が遠くを歩いている程度ならば気にしないだろう。

 これならば、移動に支障はほとんどない。


 さて。

 特殊部隊と、魔術によって拉致された人々は、どこに囚われているのだろうか?

 私は、作太郎とともに、要塞の奥に向けて、足を進めるのだった。


*****


 メタル視点


 白銀の鎧が、全長3mほどの大剣を振るう。

 大剣の切っ先は軽々と音速を超え、それによって発生する衝撃波の爆音を響かせながらブライアンに襲い掛かる。

 ブライアンは、その剣鉤型義手で受け止める。

 普通ならば真っ二つに両断されるか叩き潰されて挽肉になるような勢いの一撃だが、ブライアンは微動だにしない。

 さらに、白銀の鎧は2撃、3撃と攻撃を繰り出す。

 ブライアンは1回目と同じく鉤型義手でその攻撃を受け止める。

 一撃ごとに大きな鐘を鳴らしたかのような金属音が響き渡る。

 だが、動かない。

 すさまじい音は響くが、白銀の鎧はブライアンに有効な攻撃を全く行うことができていない。

 20回ほど攻撃を攻撃を受けたところで、ブライアンが動く。

 攻撃を受け止めた瞬間、その腕1本で、いかにも軽い感じで大剣を押し返す。

 だが、軽そうな動きに反して強い力が伝わったようで、白銀の鎧は大きく体制を崩す。

 ブライアンは義手の形状を一瞬にしてランスのように変え、白銀の鎧に突き込む。

 早い。

 白銀の鎧の剣撃と比べても、圧倒的に早い。

 だが、白銀の鎧も意地を見せる。

 体制を崩しながらも剣を跳ね上げ、ランスを弾こうとしたのだ。

 これだけの速度差で、反応できただけでもすごいだろう。

 実際、ブライアンが突き出されたランスに大剣を当てることには成功した。

 だが、3mもの大きさの剣をぶつけられたランスは、全く軌道を変えない。


 白銀の鎧は、その動きを見るに、戦術超人としてみれば、かなり強い。

 軍の戦術超人たちと比べても上位に食い込むレベルだ。

 だが、ブライアンは、戦略超人。

 実力には、どうしようもないほど開きがある。


 義手ランスを剣で弾くことができなかった白銀の鎧は、そのまま貫かれるかに思えた。

 実際、白銀の鎧は躱すことができる体勢ではない。


 だが、次の瞬間、白銀の鎧は、今までの動きが噓のような勢いで、ブライアンから離れる方向に飛んで行った。


 その動きを見たブライアンは、即座にランスを突き出すのをやめ、義手の形を戻す。

 そして、油断なく飛んで行った白銀の鎧を見つめる。

 飛んで行った白銀の鎧は、10mほど離れた場所で着地する。

「あれはお前では倒せない。私が出よう。」



 聞いたことがある、声がした。

 今、一番聞きたい声に、似ている。


 白銀の鎧の前に、魔法陣が出現する。

 空間魔術。

 この魔術の術式と雰囲気は、知っている。

 2か月と少し前。

 リコラたちと、アルバトレルスによる住民誘拐事件を追っていた時。

 その時に、見た。

 その時に見た、魔術により人が失踪した跡に残っていた痕跡に、そっくりだ。

 

 魔法陣から、ヒト型の者が、一人、現れる。

 150cmを少し超えた程度の身長の、女だ。

 ブライアンが驚いているようで、息を飲んだ雰囲気が伝わってくる。

 だが、俺にはその時、ブライアンを気にする余裕がなかった。


 俺は、その出てきた女から、目が離せなくなっていたのだ。


 そこには、エミーリアに瓜二つな人物が、立っていたのだから。


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