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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
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第24話 実力差

 覇山視点


 爬虫類人の女は、魔力が渦巻いている杖を、天井に突き立てる。

 次の瞬間、洞窟の壁と天井が、紫色の強い光を放つ。

 天井と壁面には、びっしりと魔法陣が描かれている。

 

 ふむ。

 この広間に入った時点で、敵の術中に嵌った、ということなのだろう。


 魔法陣から感じる魔力は、強い。

 これを個人で用意したのならば、相当な労力がかかっただろう。

 もし、この魔法陣を大した労力もかけずに用意できるのならば、相当な人物だ。

 この術式から放たれる魔術は、強力だろう。

 だが、それでも、私を倒すことは、できない。


 紫色の光がひときわ強くなるのを、魔眼で見つめる。

 ドーム状の空間の全周囲から、こちらに向けて、巨大な光線魔術が照射されてくる。

 全周囲からの魔術を1点に収束させることで、通常ならば実現しえない威力を実現可能にしているのだろう。

 よく考えられた魔術だ。

 魔法陣などの下準備の手間こそかかるが、待ち伏せするには、いい手である。

 ほとんどの者ならば、この空間に誘い込まれた時点で、敗北は確定。

 迸る魔力から察するに、最終的な威力は、現代戦車くらいならば軽く圧し潰せるレベル。

 さらに、気配から察するに、光に隠れて爬虫類人の女は動いているようだ。

 女の気配が、急に消えたのだ。

 この魔術で私を仕留められるなど、考えていない動きをしている。

 用心深いのは、戦闘者として、必要な資質だ。

 さらに紫の光には、透視防止の効果があるようで、女の動きの詳細も分からない。

 用意周到だ。

  

 とりあえず、女の見通しは正しい。

 この魔術では、私は倒せない。

 魔術を無防備に受けるのもよくないので、魔眼で魔術を発動時点まで巻き戻す。

 とはいえ、巻き戻したはいいが、女は見失った。


 再び、全周囲から紫の光が迸る。

 それと同時に、足元から槍が突き出してくる。


 紫の光を巻き戻しつつ、槍はあえて巻き戻さない。

 巻き戻す、必要がない。

 槍の速度で、わかる。

 この女は、脅威にはならない。


 双紅蓮を鞘に納める。

 そして、突き出してきた槍の穂先をつまみ、引っ張る。

 女は槍を離すのが遅れたようで、一瞬、魔法陣から腕が飛び出す。

 その腕が引く前に掴み、魔法陣から女を引き上げる。

 10mの長さを持つ全身を引き出すことはできなかったが、上半身は魔法陣から引きずり出すことができた。

 そして、脇差を抜き、女の首筋に突き付ける。

 爬虫類人の女は、ぎろり、と私を睨む。

「・・・無粋な男ね。」

 その目は、まだ諦めてはいない。

「この戦いに、粋もなにもあったものではあるまい。」

 私がそういうと、女は、縦長の瞳を持つ目を細め、笑う。

「違いないわ。」

 

 次の瞬間、周囲の魔法陣が、再び紫色の光を発する。

 目をくらませて、逃げようというのだろう。


 その光を、あえて巻き戻さず、受ける。


 轟音。

 洞窟内に積もっていた塵や埃が舞い上がる。

 全身に、魔術の着弾を感じる。

 威力は、想定通りといったところ。

 戦術超人クラスならば、一撃だっただろう。

 だが、想定通り、ダメージはない。

 私の目の前では、女が、目を丸くしている。

「き・・・効いていない・・・?」

 魔術で仕留められない想定はしていたようだが、効かないとまでは思っていなかったようだ。

「ああ。効かんよ。」

 女に、言葉を返す。

「降伏しろ。さすれば、命までは取らん。」


 この者では、どれだけ時間をかけても、この場で私を倒すことは不可能。

 なぜならば、この女の戦闘力では、私を傷つけることができないのだから。


 女は諦めたようで、うなだれながら降伏勧告に頷いたのだった。

 

*****


 メタル視点


 ブライアンを追い続け、十数分。

 ブライアンは、白銀の鎧に連れられ、頑丈そうな鉄の扉の前まで来ていた。


 数分ほど前に、覇山が残った方向から、轟音が響いてきた。

 そろそろ、覇山もけりをつけた頃だろう。

 だが、ここまでの道のりは、かなり複雑であった。

 一応、目印は残してきたが、覇山がここまで来るにはそれなりの時間がかかるだろう。

 

 ブライアンと白銀の鎧が、何かを話している。

「貴公の待機場所は、この先だ。」

 そう言い、白銀の鎧が、鉄の扉を開ける。

 ブライアンは、部屋には入らず、扉の先を確認している。

 俺のいる場所からでは、鉄の扉の先は見えない。

「ふむ。それなりに快適そうだな。」

 ブライアンの反応的に、無機質な牢屋みたいな感じではないようだ。

 それなりの待遇が期待できるようである。

 ブライアンは、白銀の鎧に振り返り、言葉を続ける。

「ところで、貴殿らのリーダーは近くにいるのだろうか?先の者達と違い、特別待遇なのだ。挨拶ぐらいはしたい。」

 

 すると、白銀の鎧の動きが、ぴたりと、止まった。

 そして、背中に背負っていた剣を、抜く。


「ケース3-7。この者を敵と認定。排除する。」


 白銀の鎧から、硬質な声が響く。

 先ほどの言葉の何かがトリガーだったのだろう。

 白銀の鎧は、今までのある程度友好的な態度から一変し、ブライアンに立ちはだかった。


 ハンドサインを送る。

 ブライアンは、首を一定のリズムで横に振る。

『助力はいらず。任務を遂行せよ。』

 このサインが意味するのは、ブライアンの勝ち負けにかかわらず任務遂行に適した動きをしろ、ということだ。

 今回の場合、ブライアンに助力せずに隠れ続け、ブライアンが負けた場合は白銀の鎧の尾行を続け、ブライアンが勝った場合は協力して白銀の鎧から情報を聞き出すことになる。


 俺は、ブライアンの勝利を信じ、二人の戦いを見つめるのだった。



*****


 エミーリア視点


 白銀色の要塞の壁面までたどり着いた。

 ここまではうまく見つからずに来ることができた。

 上空では軽戦闘攻撃機がひっきりなしに飛び交っている。

 侵入者がいることは完全にばれているのだ。

 この場所にたどり着くとほぼ同時に、陽動として灰神楽自治区政府を引き付けていた軍の部隊が撤退していくのが見えた。

 撤退時刻は17時。

 作戦通りの、時間ぴったりな撤退である。

 正直、もう少し陽動していてほしかったが、贅沢は言えない。

 潜入していた特殊部隊が捕らえられているのだから、灰神楽自治区の政府がいつ陽動部隊に攻撃するかわからないのだ。

 あの陽動を行っていた中隊は、軍の正規の対害獣部隊であり、裏で潜入任務が行われていることを知っているのは中隊上層部のみである。

 中隊規模の戦力では潜入部隊を助けることもできないので、下手に攻撃されないうちに時間通りに撤退する必要があったのだ。

 陽動部隊が撤退した今、これ以上時間をかけては、警備は厳しくなるのみだろう。

 急いで内部に潜入する必要がある。


 周囲を確認すれば、幸いにして、白銀色の要塞は、未だ建造途中のようだ。

 遠くからではよく見えなかったが、まだ外板がない部分が所々にある。

 そこから、内部に潜入できそうだ。


 外板のない部分へと、移動する。

 外板の途切れた部分を見れば、外板の厚みは100㎜ほどもある。

 一体、何を想定して要塞など建設しているのだろうか?

 物陰に隠れて周囲を確認すれば、アンデッドを始めとする様々な種の人々が、要塞の建設工事に従事している。

 工事現場としてみれば、おかしな部分はない。

 黙々と作業を続ける者もいれば、休憩中の者もいる。

 しかし、アンデッドやら人やらが多すぎる。

 この中を突っ切っていけば、確実に見つかるだろう。


 さて。

 どうやって潜入すればいいだろうか?

 

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