第23話 不穏な通信
読者の皆様、明けましておめでとうございます。今年も、拙作をよろしくお願いいたします。
エミーリア視点
待ち始めて、およそ1時間ほど。
作太郎は、軍から渡された折り畳み式の大型通信機を展開し、特殊部隊からの連絡を待っている。
私は、数人の私を出し、周辺警戒を行っている。
今のところ、私達の存在は感づかれていないようで、索敵できる範囲に変化はない。
気を張りつつも体を休めていたところに、軍から持たされていた通信機が、鳴る。
『ザザ・・・こちら、第2作戦班、第2作戦班!第3作戦班、聴こえるか!?』
第2作戦班。
先行して灰神楽自治区に侵入していた特殊部隊である。
なんだか、慌てている様子だ。
作太郎が、通信に応える。
「こちら、第3作戦班、第3作戦班。通信感度、良好也。」
こちらの答えを確認した第2作戦班が、言葉を続ける。
『こちら第2作戦班、作戦は失敗した!撤退する!』
・・・なに?
「こちら第3作戦班、どういうことか?」
作太郎が、詳細を尋ねる。
『被害者はいな・・・ザリッ・・・貴様!エミー・・・・ザザ・・・裏ぎ・・・。』
雑音が急に混じる。
何と言っているか、良く聞こえない。
『このっ・・・ザザ・がっ・・・ザ・・・。』
雑音が多いが、通信機の向こうで何かまずいことが起こっていることだけわかる。
『ザザザ・・・ザーーー』
ついに、通信は雑音のみになってしまった。
しばらく雑音が流れた後、ブツ、と、音がして、通信は途切れた。
「これは・・・。」
作太郎が、思わずといった感じで、通信機を見つめながら、呟く。
今の通信から察するに、先行していた特殊部隊は、灰神楽自治区の戦力に捕捉されるか何かしたようで、危険な状況にあるようだ。
特殊部隊は、秘密裏に侵入する作戦に特化した超人で編成されたていたはずである。
侵入に特化しているとはいえ、超人であり、ある程度の直接戦闘力もあったはずだ。
その超人部隊が、危険な状況になっている。
「・・・。」
少し、悩む。
超人の部隊が撤退を決断するような、状況。
相応の敵戦力がいると考えた方がいい。
引いた方がいいかな・・・?
「如何に?」
作太郎が、訊いてくる。
こんな時、メタルなら、どうしていただろうか・・・?
・・・メタルならば、助けに向かっていた。
彼は、私の好いた彼は、こんな状況でも己を通せるほど、強かった。
思わず、作太郎の方を見る。
作太郎の眼窩には、昏く、赤い光が、灯っている。
少し、気が立っているようだ。
いや、作太郎を見ていても仕方がない。
私は、レピスタを倒したい。
ならば、レピスタさえ倒せれば、先行した特殊部隊は、殺されてもいいのだろうか?
ほとんど会話をしたこともない、特殊部隊員だ。
さっきの通信からして、既に死んでいるかもしれない。
ならば、無視していいのか?
・・・・・・そんなことは、ない。
仲間を見捨てて目的を達成するのでは、レピスタと、何も変わらない。
仲間を見捨てて目的を達成したのでは、胸を張って、メタルの隣に立つことなど、できない。
ならば、答えは、一つ。
「・・・私は、行く。彼らを助けて、全てを、終わらせる。」
私は、作太郎に、そう答える。
すると、作太郎は、カラリ、と骨を鳴らし、少しだけ笑う。
「流石に、ござるな。」
作太郎は、静かに、しかし、満足げに、言う。
「某も、御供いたそう。」
私は、作太郎のその言葉に、頷く。
助けに行くことを決めたのならば、迅速に動く必要がある。
地面に置かれた通信機を、踏み抜く。
軍用の頑丈な通信機も、超人の力に耐えることはできず、壊れてバラバラになった。
通信機は、破壊したうえで廃屋に置いていくことにした。
状況から考えると、通信を探知されている可能性が高い。
通信機が手元にあることで、こちらの所在が割れかねない。
ここに置いて行けば、少なくとも、これ以降の足取りは判らなくなるはずだ。
破壊したのは、念のためである。
荷物を纏め、時刻を確認する。
現在の時刻は16時半過ぎ。
日は少し傾いてきたが、まだまだ明るい。
灰神楽自治区に近づくには、問題ないだろう。
周囲を警戒しつつ、廃屋から出る。
廃屋の周囲に、変化はない。
今は使われていない灰神楽自治区の伝統的な建物が、寂しさを漂わせながら立ち並んでいるだけである。
周辺警戒を続けつつ、白銀色の要塞の周辺に築かれたビル群に向かう。
ビル群までは、30分ほどで到着した。
結局、今まで住民は一人も見かけなかった。
ここからは、真新しいビルが立ち並ぶ区画である。
立ち並ぶビルは画一的な構造で、要塞と同じ白銀色をしている。
ビルは真新しいが、周囲の整備は十分ではないようで、道は舗装されていないし、草や低木が無秩序に生い茂っている。
とはいえ、住民がいつも歩いているであろう場所だけは、踏み固められて道ができている。
見える場所に人影はないが、一応、住民はいるのだろう。
住民に見つからぬよう、ビルの陰や草むらを利用し、移動する。
ビルの上を跳び走れば、住民には見つからないかもしれないが、要塞から見つかる可能性が上がる。
進行速度は遅くなるが、地上を進むのがベストだろう。
しばらく進んだあたりで、上空を4機の航空機が通過した。
プロペラのついた、単発単葉の機体である。
あれは、灰神楽自治区が独自に開発して配備していた軽戦闘攻撃機だ。
乗員は任務によって1人ないし2人で、最高速度は約600㎞。
固定武装に20㎜機関砲2門。
爆弾など、合計500㎏まで積載可能。
碧玉連邦軍の戦闘機に比べれば足元にも及ばないような性能の機体だが、周辺の害獣処理には役に立つ機体だったことを覚えている。
財政に余裕が無く専用の偵察機を用意できない灰神楽自治区では、偵察任務も担っていた。
その機体の行方を目で追えば、私達が通ってきた進んできた方角へ向かって飛んでいく。
先ほどまで休んでいた廃屋のあたりで、数回旋回。
その後、自治区の外側の地雷原を超え、私達が最初に偵察した丘まで飛んでいった。
そして、その丘の上で、再び旋回している。
どうやら、灰神楽自治区側は、私と作太郎が潜入していることを察したようだ。
あの戦闘攻撃機は、私達を探しているのだろう。
だが、見つけることはできていない。
今の私なら、あの機体を撃墜することも可能だが、そうすれば流石に居場所はばれてしまう。
やらないほうがいい。
私と作太郎は逸る気持ちを抑えつつ、低木や草むらを移動しながら、白銀色の要塞へと向かうのだった。




