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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
133/208

第22話 洞窟を行く

 メタル視点


 白銀の鎧に連れられて洞窟に入っていったブライアンを追いかけ、覇山と共に洞窟に向かう。

 洞窟の入り口脇には、元々立てられていたであろう、旅客以外立ち入り禁止の札が転がっている。

 ダエダレアの甲羅上だとはいえ、ここは辺境。

 洞窟内部は、危険なエリアだったのだろう。

 その洞窟に踏み込む。

 洞窟内の気温は、思ったよりも低くない。

 ダエダレアの背の上だからか、一定の温度はあるようだ。

 所々に大岩のようなものがあり、隠れて進むにはうってつけである。

 ブライアンは、白銀の鎧に連れられ、入ってすぐの角を曲がる。

 俺たちも、白銀の鎧にばれないよう、少しタイミングをずらして、角を曲がる。

 入り口近くの角を曲がった先は、複雑な形状の大きな柱が立ち並んだ、広大な空間になっていた。

 床面にも複雑に大小の段差があり、さらに、いくつもの側道への入り口や穴が壁面や天井に見える。

 所々に明かりが設置されているが、基本的に、暗い。

 むしろ、明かりがあるせいで、複雑な形状の柱や床の段差の影が大きく深くなり、死角を増やしている。

 幸い、白銀の鎧とブライアンは設置されている明かりの近くを歩いており、見失わずに済んだ。


 柱の陰や凹凸を利用して隠れつつ、ブライアンを追う。

 柱の質感は岩っぽい感じだが、軽く叩いてみれば、岩とは少し違う質感がする。

 その質感は、亀系の原生生物の甲羅を叩いた時に似ている。

 岩っぽいとはいえ、ダエダレアの甲羅の一部なのだろう。

 柱には、この洞窟に住んでいたであろう生物の痕跡がいくつもある。

 だが、今、この空間に大きな生物はいないようだ。

 時折小さな蝙蝠や虫が飛んでいる程度である。

 異常な事態を察して、どこかに隠れているのだろう。

 そんなことを考えながら、ブライアンを追う。

 ブライアンは、先ほどから変わらず、白銀の鎧について行っている。

 白銀の鎧は、明かりに沿うように歩いていく。

 明かりは、白銀の鎧か、もしくは白銀の鎧が所属する組織が設置したのだろうか。

 覇山も、俺とは違うルートでブライアンを追っている。

 こうすれば、俺と覇山の片方が見つかったとしても、もう片方でリカバリーできる。

 

 視界の端で、覇山が急に動く。

 覇山は、背後に急に裏拳を繰り出した。

 俺は、覇山にハンドサインを送る。

『助けは要るか?』

 俺のハンドサインを見た覇山は、首を振る。

 まあ、覇山ならば大丈夫だろう。

 

 俺は、ブライアンを見失わないよう、急いで追いかけるのだった。


*****


 覇山視点



 背後に、気配を感じた。

 今、付近にいる味方は、メタルとブライアンのみ。

 二人の位置は、把握している。


 ならば、今背後にいるのは、敵だ。

 気配に向けて、裏拳を放つ。


 それなりに威力を乗せた裏拳は、何か、硬質なモノに止められた。

 敵の気配は、一気に遠ざかっていく。

 裏拳を当てたことで、警戒したのだろう。

 メタルが私の動きに気が付いたようで、ハンドサインを送ってくる。

『助けは要るか?』

 それに、首を振る。

 メタルまでここで戦っては、任務に支障が出る。

 メタルにはブライアンを追ってもらう必要があるのだ。

 

 障害物は多いとはいえ、かなり広いこの空間ならば、愛刀を使うことができる。

 脇差を鞘に戻し、愛刀『双紅蓮』を抜く。


 双紅蓮は、ほんのりと赤い刀身をした、同じ形の2振1対の刀である。

 辺境で採取できる素材をいくつも用いて造られた、紅蓮合金という合金で作成されている。

 魔力を込めると性能が向上するとともに刀身の温度が上がり、真赤に色づくのが特徴だ。

 素材を自分で集め、メタルに制作を依頼した刀だ。

 自慢の愛刀である。


 愛刀を構え、周囲を見回し、敵の位置を探る。

 ・・・見えない。

 敵は周囲の暗がりに隠れているようで、魔眼を眼帯で封じている状態では見つけることができない。

 魔眼は、透視能力などを制御しきれないことがあるため、眼帯で力を封じることで通常の目と同程度の性能まで能力を抑えているのだ。 


 迷わずに、眼帯を取る。

 眼帯を取った瞬間、全身に力が漲るのを感じる。

 日常生活で使わない分の力は魔眼に格納しているため、眼帯を取ると全身に力を回すことができる。

 その出力調整も、魔眼で行う。


 とりあえず、半分ほどの力を身体に巡らせる。

 そして、すぐに魔眼で周囲を確認する。

 ・・・見えた。


 天井に、いる。

 所々にある明かりのせいでできた、濃い暗がりの中に潜んでいた。

 

 黒い鱗の爬虫類系人種の、おそらく女だ。

 原始率は高く、ヘビを大きくしたような雰囲気だ。

 だが、ヘビとは異なり、8本の手足がある。

 カナヘビの胴体を伸ばして手足を増やしたような外見だ。

 全長は10m程度だろうか。

 上体を起こし、2本の腕に長めの杖と大きめの丸盾を持っている。

 体勢から察するに、8本の手足のうち、前の2本が腕で、他の6本は足なのだろう。

 杖にはいくつもの魔石が取り付けられており、魔力が渦巻いているのが見える。

 裏拳がどこかに当たっているはずだが、ダメージは無いようだ。

 

 女は、魔力が渦巻いている杖を、天井に突き立てる。

 次の瞬間、洞窟の壁と天井が、紫色の強い光を放つ。

 天井と壁面には、びっしりと魔法陣が描かれている。

 

 ふむ。

 この広間に入った時点で、敵の術中に嵌っていたということだったのだろう。



 私は、紫色の光がひときわ強くなるのを、魔眼で、見つめていた。



*****


 メタル視点



 ブライアンを引き連れた白銀の鎧は、設置されている明かりに従うように歩き、側道の一本に入った。

 俺も、二人を追い、その側道に入る。

 少し進んだところで、先ほどまでいた広間から紫色の光が迸り、薄暗い洞窟に充満した。

 続けて、轟音。

 だが、その轟音は、余韻など一切なく、すぐに収まった。


「・・・今のは?」

 ブライアンが、白銀の鎧に話しかけているのが聞こえる。

 白銀の鎧は、機械的な太い声で答える。

「同行要請に従わない侵入者を排除中。貴公には関係はない。」

 白銀の鎧の回答は、いかにも最低限、といった感じのものだ。

「ふむ。そうか。」

 だがブライアンも、気にした様子を見せない。

 白銀の鎧に無駄に怪しまれても仕方がない、下手に言及して怪しまれるのを避けたのだろう。

 先ほどの紫の光と轟音は、まず間違いなく覇山が戦っている敵の攻撃だ。

 覇山が紫色の光を放つ魔術や呪術を使うことは少ない。

 あの光は敵の攻撃だと考えていいだろう。

 とはいえ、迸ってきた光の様子からすると、思ったより強大な敵を相手にしているようだ。

 覇山は大丈夫だろうか?

 少し、心配だ。


 だが、覇山を助けに戻ることもできない。

 ブライアンを追い続けなければいけない。

 ここで見失うわけにはいかないのだ。



 ブライアンを追うこと、さらに数分。

 いくつもの分かれ道を経過した後、目の前が開けた。

 最初の柱がたくさんあった空間と同程度か、それよりもさらに広い空間が広がっている。

 

 そして、そこには、数百人もの人々が、捕らえられていた。


 消えた第6前進都市の住民だろうか?

 数百人いるとはいえ、都市の人口と比較すれば人数が少ないようにも見える。

 一応、皆、物理的に拘束されているわけではない。

 怪我もしていなければ、健康状態も良好そうだ。

 だが、部屋の壁面や床面には魔法陣が描かれて白色に発光しており、何かしらの魔術が発動しているようだ。

 よく見ると、各住民の首の部分は、壁面の魔法陣と同じ白色に輝いている。

 どうやら、この魔法陣が描かれた広間から出ることができないような魔術が掛かっているようである。


「ここは?この人々は?」

 ブライアンが、洞窟に捕らえている人々を見て、白銀の鎧に話しかけている。

「ここは第6前進都市の住民退避所。」

 白銀の鎧は、簡単に答えた。

「我らの作戦完遂まで、この部屋で待機している。」

 その回答に、ブライアンが言葉を返す。

「ふむ。わしもここで待機した方がよいか?」

 ブライアンの言葉に、白銀の鎧は首を振る。

「否。貴殿はこちらへ。」

 そう言い、白銀の鎧は、ブライアンを引き連れ、さらに奥に進んでいく。

 一瞬、追うかどうか迷ってしまった。

 捕まっている住民を助けることを優先した方がいいか、と考えてしまったのだ。

 とはいえ、ここで住民を助けても、この騒動の真相には近づくことはできない。

 今のところ、捕らえられている住民の健康状態は問題なさそうである。

 ならば、今すぐ助けなくとも、死人が出ることはないだろう。

 今回に限って言えば、捕らえられている人々を助け出すよりも任務の完遂を考えた方がいい。

 

 ブライアンを追うことに決め、移動を始める。

 移動しつつ、腰のポーチから圧縮エネルギーバーを取り出し、齧る。

 栄養補給は逐次やっておく必要がある。

 ここから先、栄養補給ができるタイミングがあまりないかもしれない。

 いざという時にカロリー切れで動けないのは避けなければいけない。

 食べることができるときに食べておくことは、重要なのだ。

 


 そんなことを考えながら、圧縮エネルギーバーをもう一口齧る。

 ほんのり甘いが、どこか味気ない風味がした。


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