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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
130/208

第19話 それぞれの街


 オフロードを走る車に揺られること、1時間。

 基本的に舗装されていない道を通りながらも、途中、いくつかの舗装路を経由したことで、1時間で25㎞程度進むことができた。

 地図で確認すれば、灰神楽自治区まで、あと5㎞。

 周囲は深い森で、灰神楽自治区の様子は確認できない。

 そこで、ハンドルを握る作太郎に、行先の提案をする。

「あの丘なら、いい。」

 作太郎に、言う。


 灰神楽自治区は、碧玉連邦の北東部に位置する、アンデッドが中心の自治区だ。

 位置は内陸で、その周囲を険しい山と、このあたりの地域特有の暗い緑色の葉を茂らせた針葉樹が密に生えている森林に囲まれている。

 そのため、外から様子を伺うのは、本来は難しい。

 だが、周囲の地形が複雑なため、灰神楽自治区を見下ろすことができる高台がいくつも存在するのだ。

 今回私が提案したのは、そのうちの一つ。


「ふむ。あそこですな。」

 伝わったようだ。

 作太郎が、ハンドルを切る。

 灰神楽自治区に近寄らないルートで、指定した高台に向かう。

 私たちが乗った車は、舗装されていない凸凹とした大地を踏みしめ、力強く走っていく。


 20分ほどで、灰神楽自治区から5㎞程度の距離がある、私が示した丘に着いた。

 この丘は、灰神楽自治区の周囲にいくつもある高台の中では、比較的地味な高台だ。

 灰神楽自治区の全景を楽しもうにも若干遠く、舗装された道が無いため交通の便も悪い。

 舗装された道が無いということは、人があまり来ない場所なので、危険な原生生物も多い。

 この星では、文明圏内でも、人の手が入っていない場所には危険な生物は多いのだ。

 だが、裏を返せば、人がおらず、目立たずに灰神楽自治区を偵察するには、非常にいい場所なのである。

 

 丘に登り切らない辺りに、乗ってきた車を停める。

 車の荷物に入れてある望遠鏡と個人用のカモフラージュネットを取り出し、丘に登る。

 そして、灰神楽自治区の方向に目を向ける。


 目を疑った。


 思わず、呆然としてしまう。

「これは、某らが知る灰神楽自治区だとは思わないほうが、いいですな。」

 作太郎が、言う。

 私も、それに頷く。

 

 灰神楽自治区があったはずの場所には、白銀色に輝く、巨大な要塞のような建造物が建っていた。



 私が最後に見た、3か月ほど前の灰神楽自治区は、あんな要塞ではなく、牧歌的な村だったはずだ。

 北方の地域に多い石造りの耐寒性の高い建物や、肉のあるアンデッド向けの乾燥した風通しの良い建物など、伝統的な建物が立ち並んでいたはずなのだ。

 だが、今見えている灰神楽自治区には、そのころの面影は、無い。

 灰神楽自治区の中央付近には、巨大な白銀色の建物がある。

 その形状は、大きさはともかくとして、どことなく軍艦の上部構造物に似ている。

 大きさがどの程度かは判らないが、所々に3連装砲塔が設置されているのも見える。

 要塞のような建造物というか、要塞そのものだ。

 その要塞の周囲には、真新しいビルがいくつも建っている。

 それらの建造物を中心とし、その外周に、昔から灰神楽自治区にある伝統的な建物が建っている。

 だが、よく見ると、それらの伝統的な建物は崩れているものも多く、現在は使っていなさそうだ。


「・・・作太郎が出たときと、変わった?」

 作太郎に尋ねる。

 作太郎は、私よりも半月ほど遅れて灰神楽自治区を出たはずである。

 なにか、今回の変化で知っていることはないのだろうか?

「いや、これは変わりすぎていて、何が起きているやら・・・。」

 どうやら、作太郎もわからないようだ。

「某が灰神楽自治区から出る少し前から、何か建築物資が集まっているのは見ておったが、こうも変わるとは・・・」

 なるほど。

 あの要塞は、2か月半くらいで建造されたのか・・・。


 早すぎないだろうか?

 いくら、アンデッドが頑強だとはいえ、そんなに早く建造できるサイズではない。

 

 一体、灰神楽自治区に何が起きているのだろうか?



*****


 メタル視点


 双眼鏡を覗く。

 視線の先には、第6前進都市がある。

 ダエダレアの背の上に建造された、比較的大きめな前進都市だ。

 人口は6,000人ほどいたはずだという。

 

 俺と覇山とブライアンは、ダエダレアの背の中央に走る山脈の上から、第6前進都市を見下ろしている。

 山脈にへばりつくように家々が建造されているため、細部は良く見えないが、それでもわかることがある。

 人が、いない。

 本来ならば活気に満ちているはずのその街は、今はとても静かだ。

「少し見てみよう。」

 そう言い、覇山が眼帯をずらす。


 そこには、魔眼がある。

 覇山の魔眼は、『巻き戻しの魔眼』と呼ばれている、覇山が起点を知覚できた全ての事象を、その起点に向けて巻き戻すことができる、凄まじい魔眼だ。

 さらに、その巻き戻し能力に加えて、千里眼に透視、複数視線、360度視界、幽体視認に超動体視力を持っている。

 とはいえ、その千里眼や透視能力はあくまでメインではない能力であるため、そこまで力は強くない。

 実際に、今回は千里眼や透視を用いても、暗雲の中を外から見ることはできなかったのだ。

 とはいえ、既に見えている建物の壁の向こうくらいは問題なく見ることができる。

 今回は有効に使用できるだろう。


 覇山は、しばらく無言で第6前進都市を見つめている。

 俺は、そんな覇山の魔眼に目を向ける。


 いつ見ても、なかなかに禍々しい見た目をしている。

 本来ならば白目の部分は朱色に染まり、瞳を囲むように黒い紋様のようなものがある。

 紋様のようなものは常に形を変えながら瞳を囲んでいる。

 形が変わっていても、どのタイミングで見ても紋様として成立しており、なんだか不思議な感じだ。

 瞳孔は黒く、蛇の目のように縦に細く長い。

 角膜部分は薄い金色で、虹彩が深い金色。

 虹彩は瞳孔部分から放出されるような様子で放射状に常に動いている。

 禍々しい見た目だが、正直、ちょっと格好いい。


 第6前進都市を見つめていた覇山が、口を開いた。


「・・・住民が、いないな。」

 その言葉を聴き、この異様な環境下で、全滅してしまったのかとも思ったが、覇山は言葉を続けた。

「多少、争った形跡はあるが、死体もない。」

 ふむ?

 どういうことだろうか?

 疑問に思っていると、覇山は、さらに言葉を続ける。

「少なくとも、この暗雲の中に死体は無い。」

 千里眼と複数視線で、周囲の様子を伺ったのだろう。

 覇山の言葉を聴いたダエダレアの端末たる小亀が、口を開く。

「周りに暗雲が出てから、私の甲羅の上からたくさん人が降りたことは、なかったよ。」

 ダエダレア曰く、数人程度の乗り降りならば気が付かないが、流石に、6,000人が降りれば、その重さで気が付く、とのことである。

 となると、6,000人は、第6前進都市以外の場所で、かつダエダレアの甲羅の上にいることになる。


 そこまで考えたとことで、覇山が、言う。

「だが、一人だけ、第6前進都市の中央にいるな。」

 

 覇山曰く、人のいなくなった第6前進都市の中央に、一人だけ、動いている者がいるという。


 明らかに、怪しい。

「怪しいな。」

 俺がそう言うと、覇山もブライアンも頷く。

 そして、ブライアンが口を開く。

「とはいえ、手掛かりはありませぬ。」

 そのとおり。

 ブライアンの言うように、手掛かりは何もない。

「・・・ふむ。では、1名で接触し、残り2名は周辺監視だ。」

 覇山が、言う。

 確かに、それならば危険は少なく済むだろう。

「接触は、ブライアン。私が周辺監視で、メタルは遊撃だ。」

 魔眼のある覇山が周辺監視し、その指示を受けて俺が動く形か。

 悪くない。


 俺たちは、その一人だけ残った人物に接触するため、第6前進都市に進むこととしたのだ。


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