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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
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第17話 ダエダレア

「ダエダレア殿と停止の交渉を行い、停止後、第6前進都市の状況確認に向かう!」

 覇山が、歩くダエダレアを見つめながら、言う。

 昔、少し話した時は、ダエダレアは温厚な性格をしていた。

 当時のダエダレアの、背中に旅客を乗せ、その話を楽しそうに聴く姿からは、今の姿は想像もつかない。


 足を踏み込むように、動かす。

 高速で動かした足の下で空気は圧縮され、蹴ることができる。

 それにより、降下の方向を大きく変える。

 これで、降下の方向は大丈夫だろう。

 覇山とブライアンを見れば、それぞれ、各々の方法で落下方向を変えている。

 覇山は、火炎を纏って、その炎の力により姿勢を制御しているようだ。

 覇山は炎系の魔術が得意なのだ。

 ブライアンは、淡い光を纏った瞬間、降下の向きが変わっている。

 あの光りかたは、呪術か何かだろうか?

 とりあえず、全員問題なくダエダレアの頭部の方向に向かうことができている。


 降下すること、数十秒。

 風が吹き荒れているためか、降下が遅い。

 だが、ついに、ダエダレアの頭部の真上まで来た。


「ブライアン、頼む!」

 覇山が、ブライアンに向けて、叫ぶ。

 

 ブライアンが、すぅっと、息を吸う。

 その瞬間、ブライアンの首筋に青白い紋様が一瞬だけ浮かぶ。

 首に拡声の呪いをかけたのだ。

 ブライアンは、この3人の中で最も呪術に長けている。

 

 ブライアンが、叫ぶ。


「ダエダレア殿!聴こえるか!」

 

 その声は、呪術により増幅され、風が吹き荒れる中でも、大きく大気を震わせた。

 そして、ブライアンが叫ぶと同時に、動いていたダエダレアの足が、ぴたりと止まる。

 ダエダレアの頭が、ゆっくりと動く。


「おぉ。来てくれたか。」

 ダエダレアが、反応した。

 低めの女性の声が響く。

 ダエダレアは、メスだ。

「そんなに叫ばなくとも、聞こえてるよ。」

 昔と比べるとだいぶ声が大人っぽくなったが、温厚そうな声色はそのままだ。

 どうやら、ダエダレア自身は、話ができる状態のようである。

「どれ。上に乗ると言い。」

 ダエダレアはそう言い、降下する俺たちの下に、頭を差し出す。

 俺たちは、そのまま、ダエダレアの頭部を目指す。

 ダエダレアの頭部には、巨大な岩のようなものがごろごろとしており、所々に背の低い草や灌木が生えている。

 あの岩のようなものは、長い年月のうちに積もった塵が固まった岩だったり、ダエダレアの角や鱗だったりするのだろう。

 頭部と言っても、その幅は数百mはあり、近くで見れば巨大な岩の丘に見える。

 基本的にごつごつしているが、平らな部分も所々に見える。

 俺たちは、その平らな部分目掛けて着地した。

 硬い感触。

 着地した部分は岩だろうか?それとも鱗か何かなのだろうか?

 わからない。

 覇山とブライアンも近くに降り立ち、周囲を見渡している。



 すると、一匹の小亀が、こちらに向けて駆けてくる。

 その亀は砂色で、甲長は20㎝ほど。

 亀としては別に小さくはないが、ダエダレアを見た後だと、どうしても小亀に見えてしまう。

 その小亀は、亀らしくない結構なスピードで走ってくる。

 小亀は、俺たちの前で止まり、口を開く。

「無事に着地できたようだね。よかったよ。」

 小亀から、先ほど聞いたダエダレアの声と同じ声がする。

「ワタシは大きくなりすぎたからねぇ。この小亀は端末さ。」

 どうやら、この小亀は魔力で編み上げて造られているようだ。

 ダエダレアの意思疎通用の端末らしい。

「少々、失礼。」

 そう言い、ブライアンが小亀と地面(ダエダレアの頭部)に触れる。

 一瞬、ブライアンの身体が光る。

「・・・確かに、この小亀は、ダエダレア殿の端末のようですな。」

 どうやら、ブライアンは小亀がダエダレアを名乗る別人(別亀?)の可能性を考えたようだ。

 確かに、この異様な状況。

 そういったことを警戒するのは、当然だろう。

 とはいえ、この小亀は、問題なくダエダレアの端末だったようだ。

 覇山が、小亀の前に膝をつき、問いかける。

「ダエダレア殿。なぜ、要塞に向けて歩んでいるのです?」

 覇山の問いを聞いた小亀は、ダエダレアの声で、答える。



「それはな、ワタシの背の街から、いい声が、聞こえなくなったからさ。」


 ダエダレアから聞いた経緯は、こうだ。

 ダエダレアの背には、第6前進都市がある。

 その都市からは、いつも、喜怒哀楽全ての感情が乗った声が響いていた。

 環境の厳しい辺境の都市であるため、悲しみや怒りの感情も、当然多い。

 だが、それよりも、厳しい辺境の中で生き抜く、圧倒的な生命力と、そこから放たれる喜びや楽しみの声が多かった。

 ダエダレアはそれらの声を聴くことを楽しみに、自身の端末たる小亀を都市に送り込み、人々と共に生きていたのだという。

 喜ぶ者を祝福し。

 怒る者の話を聴き。

 哀しみには寄り添い。

 楽しむ者を喜びをもって見つめ。

 そうやって、甲羅の上に響く声を聴きながら、ダエダレアは過ごしていた。

「いやあ、そういう毎日は、楽しいもんさ。」

 小亀はそう言って、目を細める。

 第6前進都市の話をするダエダレアの声には慈愛が充ちており、本当に第6前進都市が好きだったことが伝わってくる。


 そんな中、1週間ほど前、背中に、大きな力を持った者が乗ったのを感じた。

 ダエダレアの背には、多くの者が行き来しているため、最初は何も気にしていなかった。

 そもそも、辺境の都市なのだ。

 力を持った者は、多い。

 だが、今回の大きな力を持った者は、大いに問題であった。

 ダエダレアの周囲で暗雲を巻き起こし、ダエダレアを隔離。

 さらに、その者が来てしばらくしてから、第6前進都市からは、怒りと悲しみの声しか聞こえなくなってしまった。

 やはり、喜びや楽しみの声が、聴いていて幸せになる。

 怒りと悲しみの声は、ダエダレアも悲しくなるのだ。

 状況を確認しようと小亀を送り込んでも、都市に近づこうとすると都市周辺に暗雲が発生し、小亀ではその暗雲を突破できない。

 大きな力を持つ者を排除するために自身の背中に攻撃することはできるが、そうすると、威力が高すぎて第6前進都市をも消滅させてしまう。

 さらに、大きな力を持つ者は、どうやら、甲羅の上の山脈のどこかに潜んでしまったようで、ダエダレア自身も、大きな力を持つ者がどこにいるかわからない。


 ダエダレアは、途方に暮れた。


 第6前進都市を救いたいが、自身では救うことはできない。

 第6前進都市の旅客たちでは、解決できそうにはない。

 さらに、周囲は暗雲で塞がれ、外部と連絡もできそうにない。

 八方ふさがりだと、思ったのだ。 


 ダエダレアは、どうにもならないと思い、都市の中の声に、耳を傾けた。

 端末を送らずとも、なんとなくは聞き取れるのだ。

 何か、状況打開のヒントが無いかと思ったのだ。

 そこで、ある声が、聴こえた。

「街ごと動いて、助けを求めればいい。」

 衝撃だった。

 そうだ。

 自分自身で動き、助けを求めればいいのだ。

 ダエダレアのエネルギーの多くは、背中に共生している植物の光合成で得られているため、自身に迫った脅威を打ち倒す時にしか、動いていなかった。

 自身が歩き、長い距離を動くこと自体、盲点だったのだ。

 そこで、ダエダレアは、動くことにしたのだ。

 

 背中に再び、喜びや楽しみの声を響かせるために。



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