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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
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第15話 降下

 離陸して、どれほど経っただろうか?

 あまり長い時間は経っていないが、機体はそれなりの高度まで上昇している。

 正面に設置された計器に目をやる。

 C-F/C-3ステルス戦闘輸送機の超人用キャビンには、現在の機体の情報がわかる計器がいくつか設置されている。

 表示されているのは、速度、高度、機体のピッチ角とロール角、機体が向いている方角である。

 現在の速度は時速約800㎞で、高度はおよそ8,000m、ぴったり40度の角度で上昇している。

 4発ものエンジンを搭載しているためパワーは十二分で、機体は上昇しつつも加速している。

 床面ハッチの窓から下を見れば、5,000mの高さからでもわかるほど、大量の原生生物が蠢いている。

 まだ、要塞からそれほど離れていない。

 移動している原生生物の群れの先端、移動の速い原生生物たちだ。

 原生生物の群れには、無数の砲弾が襲い掛かっている。

 この距離ならば、口径30㎝以上のクラスの砲弾だ。

 だが、原生生物の群れは止まらず、うまく勢いが削がれていない部分が、突出し始める。

 突如、突出している範囲に、無数の爆発が起きる。

 ロンギストリアータ第6要塞の50口径150cm汎用魔導火薬複合方式滑腔砲が放った砲弾だ。

 突出部を止めるため、最も強力な砲弾で攻撃したのだ。

 より広い範囲を攻撃できるようにクラスター砲弾を使用しているようで、飛来した砲弾は空中で分裂し、子弾をまき散らしている。

 150㎝砲弾という巨大な砲弾に内蔵された子弾はそれ自体も巨大で、無数の巨大な爆風が上空から視認できる。

 しかし、猛烈な爆発が起きても、原生生物の群れの勢いは弱まらない。

 さらに、俺たちと同じくらいの高度を飛んでいる無数の爆撃機から、大量の爆弾が投下されている。

 巻き起こる猛烈な爆発。

 だが、やはり、原生生物は止まらない。

 原生生物たちにとって文明圏とは、侵入しようとすれば命の危険がある、危険な生物の縄張りということになる。

 その危険な生物の縄張りに向かう方が生存率が高いと判断するほど、切羽詰まった状況なのだ。

 原生生物たちも、生き残るために必死なのである。

 ・・・このままでは、文明圏にも、原生生物にも悲劇しか訪れない。


 早く、暗雲を止めなければならない。

 

 

「底部ハッチ開放まで残り120秒。」

 降下までの時間がアナウンスされる。

 あと2分後に、降下。

 10分くらいかかると思ったが、5分程度で到達するようだ。

 荷物は既に背負っている。

 武器の用意も、万全。

 いつでも降下可能だ。

「・・・事前情報より暗雲が大きいため、降下高度を変更します。」

 パイロットから報告が入り、床が傾く。

 機体が機首を上げたのだ。

 45度程度の角度で上昇していく。

 傾いた床に立ちつつ、床面ハッチの窓から、斜め前を見る。

 前方下方向の離れた位置に、目標の暗雲が見える。

 ・・・でかい。

 直径は10,000m程度と聞いていたが、それよりもはるかに大きい。

 倍以上あるのではないだろうか?

 この数時間で、巨大化したのだろう。

 さらに、暗雲は不規則に蛇行移動しており、その蛇行移動に原生生物は追われ、要塞の方向へ移動してきているようだ。

 

「底部ハッチ開放まで60秒!」

 再びパイロットから通信が入る。

 気が付けば、機体は水平に近い姿勢になっている。

「姿勢保持棒展開!各員、姿勢保持棒掴め!」

 通信が響く。

 姿勢保持棒は、天井の窓じゃない部分に取り付けてある、コの字型の取っ手だ。

 戦略超人を降下させる際、この取っ手に掴まらせた状態で、床を開くのである。

「底部ハッチ開放まで30秒!椅子、格納します!」

 さっきまで座っていた椅子が、自動で折りたたまれて床に格納される。

「底部ハッチ開放まで10秒!各員、姿勢保持!」

 腕に力を入れ、身体を持ち上げる。

 床から足が浮く。

「底部ハッチ、開放!」

 パイロットの声と共に、床が開く。

 俺は、腕の力のみで姿勢保持棒にぶら下がっている形になる。

「超人下ろせ!」

 掴んでいるコの字型の取っ手の基部が伸び、俺の身体が機体の外に押し出される。

 機体の下面が目に入る。

 正面からの風は、機体の下面から飛び出した透明な風防が防いでいる。

 後ろを確認すれば、覇山とブライアンが全く同じ態勢で機体にぶら下がっている。

「降下まで5秒!4・・・」

 カウントダウンが始まった。

「3、2、降下、今!」

 今、の声と共に、手を離す。

 正面の風防の範囲から出た瞬間、猛烈な風が全身を叩く。

 だが、俺も覇山もブライアンも、この程度で姿勢を崩すような超人ではない。

「総員、自由戦闘に移れ!」

 覇山の声が響く。

 ここからは、各々が自己判断で任務達成に向けて動くことになる。

 覇山が、抜刀した。

 両手に、薄い朱に染まった刀身をもつ2m近い大きな刀を持ち、頭を下にして降下している。

 二振りの刀は、体側にぴったりと付け、空気抵抗を減らしているようだ。

 ブライアンも頭を下にして降下している。

 義手を胸の前に構え、油断なく暗雲を見つめている。


 俺も、愛剣『蒼硬』を、抜く。


「・・・仕事?」

 今回は、眠そうな声ではない。 

 蒼硬も、今回の相手の巨大なエネルギーを感じ取っているのだろう。

 真面目な声色だ。

「そうだ。頼りにしてるぜ?」

 そう返せば、蒼硬は、一瞬、小さく震える。

 そのまま、特に喋りはしない。

 武者震いだろうか。


 俺は、頭を下に向け、剣を腰だめに構えつつ、降下を続ける。

 降下しながら暗雲を見る。

 暗雲は、事前に言われていた通り、奥に何も見えないほどの密度だ。

 だが、時折雲が赤く光り、そこから赤い稲妻が飛び出してくる。

 内部では、赤い稲妻が猛り狂っているのだろう。

 さらに、木々や岩塊など、地面から巻き上げたであろうものが、渦巻く暴風で飛び交っている。

 飛び交っている岩塊には、数トンはありそうな巨大なモノすらある。


「開放、10万。」

 とりあえず、メーアと戦った時と同じくらいまで、力を引き上げる。

 これくらいの力があれば、すぐに力負けするということは、そうそう無いはずだ。


 覇山が、暴風に乗って飛んできた岩塊を切り飛ばしたのが見える。

 暗雲に近くなるにつれて、周囲で渦巻く風が強くなってきている。

 それに伴い、周囲を飛ぶ岩塊や樹木が大きなものになってきた。

 俺の方目掛けて大きな木の幹が飛んできたので、蹴って軌道を反らす。

 さらに、複数の岩塊が飛んでくる。

 いくつかは斬り飛ばし、いくつかは蹴って軌道を反らす。

 拳で砕くことも可能だが、あまり粉塵をまき散らしてしまうと、覇山とブライアンが見えなくなってしまう。

 はぐれないためにも、砕くのは控えた方がいい。


 飛び交っている木々や岩塊に対処しながら降下していれば、暗雲はすでに目の前に迫っている。


 蒼硬を、正面に構える。

 覇山とブライアンも、己の武器を正面に構えたようだ。


 俺たち三人は、その態勢のまま、暗雲の中に突入した。

 

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