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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
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第12話 超越師団

 先に、エミーリアと作太郎が部屋から出ていく。

 それを見届けると、ノノが、口を開いた。

「メタルはこっちに。」

 ノノはそう言い、出口とは反対方向に向かう。

 そちらは、よく説明役の軍人が出てくる入口だ。

 部屋から出ると、要塞らしい飾り気のない廊下が続いている。

「今回の作戦は、第1超越師団とその支援大隊が動員されることになっている。」

 廊下を歩きながら、ノノが説明する。


 超越師団。

 軍属の超人が所属する師団である。

 碧玉連邦では、超人は戦闘力等の能力を総合的に判断され、戦略超人、戦術超人、戦闘超人の3つに分類されている。

 戦略超人は、その能力が戦略的な価値があるとされている超人たちで、第1超越師団に配属されている。

 戦闘力が戦略級の超人の他、精度の非常に高い未来予知等の、戦闘以外の特殊能力が凄まじく強力な超人たちも戦略超人に含まれる。

 戦術超人は、戦略級には届かないものの、非常に強力な超人たちのことを指し、第2超越師団に配属されることになる。

 戦車や戦闘機等に匹敵する戦闘力を、歩兵と同等以上の運用柔軟性を持って投射できるユニットであり、戦略超人ほどではないが選挙区を左右する力を持つと判断される、非常に強力な超人たちである。

 戦闘超人は、歩兵が携行できる小火器で撃破することが困難なレベルの強さを持つ者達のことであり、第3超越師団に配属されている。

 十分に強力な者達だが、戦術級の強さかというと、そこまでではない者たちだ。

 宇宙におけるほかの国では、このクラスの超人を特に区別せずに通常部隊に編成していることも多いが、碧玉連邦では超人として厚遇している。


 今回は、これら超越師団のうち、最も強力な第1超越師団の超人とその支援大隊が動員されているとのことである。


 超越師団の支援大隊とは、超越個体、いわゆる超人が十全な力を発揮できるように編成されている部隊だ。

 超人は軍事的なユニットとして考えた場合、個々人で能力の差があるとはいえ、非常に強力である。

 だが、そんな超人たちでも、一人で何でもできるわけではない。

 あくまで、一人の個人でしかないのだ。

 一口に超人といっても、訓練しなければ軍用の通信機器を操ることはできないし、生まれ育った自治区によっては自動車の運転ができない者などもいる。

 荷物の運搬も、力がある超人ならば常の歩兵より量は持てるが、あまり大量に持つと肝心の戦闘力が失われる。

 さらに、超人の最も重要なことはその能力の維持であるため、人によってはほかの訓練まで手が回らないこともある。

 これらの事情から、超人を支援する部隊が必要なのだ。

 その、超人の支援のために特別に編成されている部隊が、超越師団支援大隊なのである。


 ちなみに、多くの国では、表向きには超人部隊は存在しないことになっており、それは碧玉連邦の超越師団も同じである。

 そのため、超越師団に所属する軍人たちはカモフラージュのため、書類上では通常の部隊に所属していることになっている。

 どの師団も首都防衛を担う師団という扱いになっており、第1超越師団が機甲師団、第2超越師団が砲兵師団、第3超越師団が機械化歩兵師団ということになっている。

 

 閑話休題。


 第1超越師団が動いているということは、戦略超人が来ているのだ。

 さて。

 誰が来ているのだろうか。

 戦略超人として思い浮かぶのは、以前一緒にフローティングアイと戦ったエリザとエルザだが、あの二人では今回は戦力不足だろう。

 合体してリールになり、開放を最大まで引き上げれば、戦うことはできるだろう。

 だが、暗雲からここまで漂ってくる力を鑑みるに、勝つことはできない。

 良くて遅滞戦闘が精いっぱいだろう。

 さて。

 あの暗雲に敵うレベルの超人は、誰がいたかな・・・?


 そんな感じで何人かの顔を思い出しつつ、ノノについて行く。

 5分ほど歩き、ノノが止まる。

「この部屋だ。入ってくれ。」

 そこには、それなりに立派な金属製の扉がある。

 少人数向けの会議室だ。

 俺は、促されるままに、その部屋に入る。


「・・・ほう。メタル殿か。これは、心強い。」

 部屋に入ると、声が聞こえた。

 声がした方を見ると、禿頭の男がいる。


 巌の如き恐ろしい顔つきに、右目周りから頭部の4割ほどを覆う、酷い火傷の跡。

 それ以外にも、無数の大きな傷が、その顔の険しさを一層引き立てている。

 禿頭だが髭はあり、綺麗に整えられたセイウチ髭は、顔の険しさに厳格さをも追加している。

 男の右腕は手首から先が無く、美しく磨き上げられた暗い金色の金属でできた、重厚なフック型義手を装着している。

 さらに、右足は膝から下が失われており、こちらにも腕と同じ素材の棒義足を装着している。

 身長は190㎝ほどはあるだろうか?

 巌のような恐ろしい顔つきと大柄な体格、それに右手足の義肢が合わさることで、気弱な者ならばその外見だけで気絶してしまいそうな雰囲気を醸し出している。

 戦略作戦軍第1超越師団所属、ブライアン=モルタルだ。

 第1超越師団に所属している戦略超人の中でも、1,2位の強さを争う強大な超人であるブライアンは、その強大さから、軍の切り札的な扱いをされている超人である。

 その強さは、全力を出した時のメーアよりも強いと言えば、その強大さが伝わるだろうか?

 

 部屋には、ブライアンの他に、支援大隊の幹部も揃っている。

 今回は、俺とブライアンが暗雲と対峙し、それを支援大隊が支える形になるようだ。

「私も解析役で参加する。」

 そう言い、ノノは椅子に腰かける。

 ノノも今回は支援大隊の一員として、作戦に参加する様だ。

 しかし、支援大隊の幹部の人数が、多い。

 部屋にいるのは、俺とブライアン、ノノを除いて9人。

 部隊章を見るに、3個大隊が動いているようだ。

 3個支援大隊・・・?

 いくら戦略級の超人二人とはいえ、ちょっと多すぎないだろうか?

 

 そんなことを考えていると、部屋にもう一人、誰かが入ってきた。

「む・・・。揃っているか。遅くなった。」

 声をした方を見ると、そこには、隻眼の男が一人。


 左目に十字に傷が走っており、眼帯で目を隠している。

 少し頬が痩けているものの精悍な顔立ちであり、左頬には頬の半ばから顎にかけて傷がある。

 髪は黒く、腰まで届くほどの長さで、それを後頭部で縛って流している。

 目は切れ長で眦は高く、その精悍な顔立ちと相まって、まさに道を究めた武人といった雰囲気だ。

 身長は高くはないものの、その達人然とした雰囲気から、実際よりも大きく見える。

 以前、大盾要塞でも会った、戦略作戦軍元帥にして『覇王』の二つ名を持つ男、覇山 健仁だ。

 ブライアンに勝るとも劣らない、碧玉連邦軍最強の超人が、来た。

 覇山とブライアン。

 碧玉連邦軍でトップ3に入る実力者が、二人も動員されている。

 それに、俺にも声がかかったとなれば・・・。


 ・・・今回の任務を、いかに軍が重く見ているかが、ここにきてようやくわかった。

 今回の敵は、それほどまでに強大だと、軍は想定しているのだろう。


 戦力が揃った俺たちは、作戦会議を始めるのだった。



*****


 エミーリア視点


 メタルたちと別れた後、一度、準備のために作太郎と部屋まで戻ることになった。

 私たちは、軍の特殊部隊と共に、空路で灰神楽自治区に向かうことになる。

 準備時間は、30分。

 急いで用意しなければいけない。


 部屋に戻る道のりを、作太郎と歩く。

 私が先を歩き、作太郎が続く形だ。

 互いに無言。

 元々、二人ともそこまで饒舌ではない。

 会話が無くとも、苦痛ではない。

 さらに、灰神楽自治区に戻るとなっては、作太郎も、思うところがあるのだろう。



 部屋に入り、荷物に向かう。

 背後で、扉を閉めた音がする。


「・・・エミーリア殿。」

 作太郎の、声がする。

 その声色は、いつも通りだ。


 だが、どこか、冷たさが、潜んでいる。


「メタル殿から、いいものを、貰いましたな。」

 作太郎が言うのは、私の首にかかっている、ネックレス型のお守りのことだろう。

 作太郎の言葉に、思わず、お守りを握る。

 メタルの顔を思い浮かべれば、この戦いへの戦意が、心の奥底から、湧き上がってくるように感じる。


 すらり。


 背後から、抜刀の音。

 刀身の手入れだろうか?


「貴女に、恨みは、ありませぬ。」

 その言葉に、嫌な予感がして、振り向く


「某に、大義は、ありませぬ。」

 そう言う作太郎の姿勢は、自然体。

 その左手には、鞘から解放された刀身が、妖しく輝いている。


「しかし、王への忠義は、果たさねば。」

 すぅ、と、刀を構える。

 その瞬間、怜悧な殺意が、部屋を満たす。




「御命、頂戴仕る。」

 


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