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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
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第11話 作戦

「というわけで、灰神楽自治区出身で、我々よりも同自治区にお詳しいであろうお二方に、軍への協力をお願いしたいのです。」 


 その鈴の言葉に、エミーリアは、迷わず鈴の手を取った。

 手を取った時のエミーリアの眼は、決意に満ちていた。



 エミーリアは、灰神楽自治区出身のレギオンである。

 その親は、灰神楽自治区の現統治者であるレピスタと、その妻であるナターリア。

 レピスタは王を名乗り、灰神楽自治区を支配しているという。

 エミーリアはレギオンであるため複数の自己を持ち、現在の人数は101人。

 しかし、実際はもっと多い。

 作太郎と初めて遭遇した時、エミーリアは言っていた。

 自身の6割は、父親であるレピスタにより拘束されており、それを取り戻さなければならないと。

 当時のエミーリアは40人ほどだったため、6割ということは60人ほどが拘束されていることになる。

 エミーリアは群体レギオンであり、複数いるエミーリアの一人一人は、個別の人格を持つ、別々の個だ。

 そのため、一人一人の『重さ』は一つの人格で複数の身体を操る個体レギオンの比ではない。

 自身の一部を拘束されるということは、非常に重い意味を持っているのだ。

 さらに、レピスタはエミーリアの母であるナターリアをも支配下に置いているとのこと。

 エミーリアは、自身と母親を救うことを目標に、今まで己を高めてきたのである。


 そして今。

 エミーリアは、メーアの力を引き継いだため、とても強くなっている。

 その強さは、戦略超人クラスと言っても過言ではないほどで、最初のころと比べれば、天と地ほどの差がある。

 

 今なら、いける。


 エミーリアがそう思うのも、不思議ではない。

 そこに、これまで関わった事件の話も絡んできたのだ。

 軍の支援も得られそうなこの機会に決着を付けようと考えたのだろう。

 

「・・・なんだか、事情がありそうですね?」

 鈴が、言う。

 エミーリアの表情が、あまりにも決意に満ちていたためだろう。

「あまり、作戦に影響のない事情ならいいのですが・・・。」

 鈴は少し心配そうである。

 まあ、作戦に支障が出るのは、軍としては避けたいことなのだろう。

「・・・大丈夫。軍の邪魔はしない。」

 鈴の表情を見たエミーリアが言う。

 エミーリアの言葉に、鈴は諦めたような表情をする。

「・・・話す気はないということですかね?まあ、仕方がありません。今は時間が無いので、移動時間にでも聞かせてもらいます。」

 ・・・エミーリアの態度は、話す気が無いというよりも、ただ言葉足らずなだけのようだが。

 付き合いの浅い鈴では、無表情なエミーリアの機微は読み取れなかったのだろう。

 鈴は、エミーリアの事情を聞くことを諦め、タブレット端末を操作する。

 すると、プロジェクターから映像が投影される。

 無線でデータを飛ばしたのだろうか?

「少し不安もありますが、作戦の検討に移りますね。」

 鈴がそう言いながら映像を操作する。

 すると、ざっくりとした作戦計画が表示される。

 どうやら、俺たちが協力する前提で、既にある程度方針を立てていたようだ。


 今後の方針は、こうだ。

 まず、第1作戦として、原生生物の襲撃を止めるため、その原因となっている暗雲を止める。

 俺の役割は、暗雲の原因の特定と暗雲の動きを遅らせるための戦闘。

 そして、できるならば暗雲の原因の撃滅。

 エミーリアと作太郎の役割は、軍の特殊部隊と共に灰神楽自治区へ潜入し、暗雲を操作している術式を停止する。

 これらにより、暗雲が短期間で再出現することを防ぐ。

 第2作戦として、今回の首謀者の確保を行う。

 状況から、首謀者は灰神楽自治区政府かそれに属する者の可能性が高い。

 首謀者を確保することで、今回の首謀者による文明を脅かす事態の再発を恒久的に防ぐ。

 この作戦は、エミーリアと作太郎、それに同行した強襲部隊によって行われることになる。

 その頃には暗雲との戦闘を終えているはずの俺は、後詰として灰神楽自治区に向かう。

 第3作戦として、拉致された人々の救出が行われる。

 ここまで来たら俺たちに協力できることは少ない。

 一応、俺たちは軍部隊と協働して救出を行うことになる。


「ざっくりですが以上となります。」

 鈴がそう言い、説明を終える。

 すると、いつもは特に何も言わないエミーリアが、真っ先に声を上げる。

「レピスタは、私が倒す。」

 エミーリアの言葉に、鈴が、きょとんとした顔をする。

「レピスタ王ですか?今回の騒動の首謀者という証拠が?」

 鈴が、鋭い表情で、エミーリアに問う。

 エミーリアは頷く。

 ・・・頷くだけで、言葉は出てこない。

 まあ、エミーリアの説明が不足することはいつものことである。

 作太郎がエミーリアを引き継ぐように言葉を続ける。

「そうですな。レピスタ王は、某が灰神楽自治区から出てくる直前、部下を使って何か大きなことの準備を進めておりました故。」

 ふむ?

 大きなことの準備?

「それが国家転覆の策略だとしても、野心の大きいレピスタ王のこと。何もおかしくはありますまい。」

 作太郎の証言に、鈴の表情が険しくなる。

 鈴は作太郎を見据え、口を開く。

「・・・作太郎さん。貴方はいろいろ知っていそうですね。」

 鈴は、作太郎に詳しい話を訊きたそうである。

 だが、残念そうな表情をして、首を振る。

「しかし、残念ながら、今は時間がありません。原生生物がこの要塞に到達すれば、大きな被害が出ます。」

 鈴は、タブレット端末を片付けながら、言う。

「詳しい話は移動中に聞くとして、早速作戦を始めましょう。エミーリアさんと作太郎さんはこちらへ。メタルさんは、ノノ大佐について行ってください。」

 鈴の言葉に従い、俺たちは立ち上がる。


 ふと、思う。

 エミーリアと本格的に別れて行動するのは、エミーリアと旅をし始めてから、初めてか。

 ・・・これを渡しておこう。

 俺は、腰につけているポーチを探り、エミーリアに渡そうと思っていた物を、取り出す。


 ネックレス型のお守り。

 俺の自作だ。

 ・・・デザインがどこか野暮ったいのは、許してほしい。

 明るい青色の宝石が3個、円形の台座にくっついている。

 エミーリアと付き合うことを決めてから、時間を見つけて作っていたのだ。 


「エミーリア。」

 俺は、エミーリアを呼び止める。

 振り向くエミーリア。

「こっちに。」

 エミーリアは、俺の下に小走りで近寄ってくる。

「お守りをあげる。」

 俺の目の前に着たエミーリアの首に、ネックレス型のお守りをかける。

 エミーリアは頬を赤らめ、嬉しそうだ。

「このお守りを、戦闘中も含めて、肌身離さず持ち歩いてね。」

 俺の言葉に、エミーリアは首をかしげる。

「このお守りは、4回まで、エミーリアの命を救ってくれるから。」


 そう。

 このネックレス型のお守りには、とある呪術が込められている。

 それは、身代わりの術。

 4回まで、持ち主が命を失うタイミングでお守りが身代わりになり、防いでくれるのだ。

 1回発動するごとに1個の宝石が割れていく。

 さらに、最後の1回は、お守り自体が崩壊し、身代わりになるのだ。

 最後の1回、お守りが崩壊するときには、エミーリアの命を救うため、もう一つ別の術式も仕込んである。


 今回の戦いは、今までの戦いとは、違う。

 おそらく、この旅でエミーリアが経験する、最大の戦いになるだろう。

 エミーリアの旅の目的。

 それを達成するには、大きな困難がエミーリアに襲い掛かるに違いない。

 それに合わせて、作っておいたのだ。

 流石に、エミーリアがいくら強くなったとはいえ、想い人が強大な敵と戦いに行くのは、心配なのである。

 作成が間に合って、よかった。


 俺からお守りを受け取ったエミーリアは、そのお守りをぎゅっと握り、頬を赤らめて、言う。

「・・・ありがと。頑張る。」

 ・・・可愛い。

 

 そんな俺たちの様子を見ていた作太郎が、おどけたように、言う。

「おや?メタル殿。某には何もないのですかな?」

 それに俺は、笑って返す。

「はは、そんな柄でもないだろうに。」

 それに作太郎も、からからと笑う。

「はっはっは。それもそうですな。死ぬも生きるも己次第でござる故、受け取っていたとしてもお返ししたでしょうなぁ。」

 作太郎は、己に強い矜持を持っている。 

 俺がエミーリアにあげたようなお守りは、いらないだろう。


 俺たち3人は、それぞれを見据え、頷く。

 そして、誰ともなく、言う。

「「「武運を。」」」


 戦いが、始まる。


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