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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
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第9話 ヴァシリーサの探し物

 ブリーフィング後に現れたのは、技術作戦軍の元帥、懸木 鈴 技術元帥と、辺境に来てからすぐに戦った、ノノ=アイヴォ=エルイだった。


 鈴は、ブリーフィングを担当した軍人たちの方を向く。

「ブリーフィングの取り仕切り、お疲れ様です。退室を許可します。」

「はっ!」

 退室を許可、といっても、実質は退室命令なのだろう。

 軍人たちは、キリっとした返事をし、敬礼をすると、テキパキと部屋から去っていった。


 軍人たちが全員部屋から出ると、鈴たちが、俺たちの方に向き直る。

「皆さん、アルバトレルスの事件の際の、行方不明者について、覚えていますか?」


 ふむ。

 それは覚えている。 

 なかなか、嫌な事件ではあった。

 アルバトレルスという、宇宙に広く手を広げる巨大複合企業の看板を隠れ蓑にして、マッドサイエンティストが、首都で人を攫って人体実験を行っていたのだ。

 2か月ほど前、いろいろあって、リコラを始めとする何でも屋『裏紅傘』と俺たちで、そのアルバトレルスの碧玉連邦支部を叩き潰したのである。

 巨大になりそうだった犯罪組織を早いうちに潰すことができ、多くの行方不明者を発見・救助することができた。

 結果だけ見れば、それなりに良いモノだったのだろう。

 だが、多くの被害者が体と心の両面に大きな傷を負うことになり、未だ、傷の言えていない者も少なくないという。

 さらに、魔術によって拉致された者の行方は調査中という、完全解決には至らない、なんだかモヤモヤする結果に終わったことも、記憶の片隅に引っかかっていた。

 

「その、魔術で拉致された方々の所在が、わかりました。」

 なるほど?

 それは、重要だ。

 鈴は、言葉を続ける。

「その方々に関係する任務を、メタルさんたちには、頼みたいのです。」

 ・・・ふむ?

 それは、心情的には、やりたい仕事だ。 


 だが、自惚れみたいになってしまうが、今、この要塞には、俺たちの戦力が必要だ。


 青鉄旅客。

 その中でも、さらに上の者達である、超人。

 その超人の中でも、さらに一握り。

 複数の星に跨る大国家ですら数人いるかどうかという、最高峰の戦力、戦略超人。

 メーアから力を得ることで、そのレベルの力を手に入れた、エミーリア。

 そして、戦略超人レベルの力を持つメーアを正面から倒すことができる、俺。

 

 正直、この要塞の現状では喉から手が出るほど欲しい戦力のはずだ。

 

 それなのに、声をかけてくる。

 俺たちでなければできない仕事、ということなのだろう。


 そんなことを考えていると、ヴァシリーサが、声を上げた。

「その、所在が分かった人たちの名簿とかは、あるっすか?」

 少し、声が震えている。

 

 そういえば、ヴァシリーサは、アルバトレルス関係の何かを追いかけていたとのことを、裏紅傘の一件の際に、言っていた。

 俺たちと合流するまでの数年間、戦闘旅客としてアルバトレルス関係の組織と戦い続けてきたとのことである。

 この反応。

 どうやら、人探しだったようだ。


 鈴は、淡々と言葉を続ける。

「ヴァシリーサさん、あなたが探していた人についての情報も、見つかりました。」

 ヴァシリーサがその言葉に、ガタリ、と、腰を浮かせる。

 いつの間にか、鈴はヴァシリーサの探し人が誰かを知っていたようだ。

「あ・・・あたしの妹は・・・!みっ、見つかったっすか!?」

 ヴァシリーサの表情は、喜びと怖れが混じった、壮絶なモノになっている。

 探し人は、妹だったのだか。

 ヴァシリーサは、どんな経緯かは知らないが、アルバトレルスに拉致されるか何かした妹を、探し続けていたようだ。

 どうやら、妹が見つかった嬉しさと、妹の状態がどういう状態なのかわからない恐怖で、感情がめちゃくちゃになっているようだ。

「落ち着いてください。」

 鈴が、ヴァシリーサを宥める。

 ヴァシリーサは、少し冷静さを取り戻し、浮かした腰を下ろす。

「・・・妹は、無事っすか?」

 その言葉に、鈴は、何とも言えない表情をする。

「うーん・・・。生きては、います。無事と言えば、無事ですが・・・」

 何とも煮え切らない感じだ。

 どういうことなのだろうか?

「ど・・・どういうことっすか?」

 ヴァシリーサの声には、焦りが見える。

 その様子に、鈴も、端的に伝える必要性を感じたらしく、表情を真面目なモノにし、言葉を返す。

「では、結論から言います。」

 ヴァシリーサの喉が、ゴクリ、と音を鳴らす。

「ヴァシリーサさんの妹さんは、今、何でも屋『裏紅傘』で、クロアという名前で、働いています。」


 ・・・なに!?

 クロア?

「え・・・?クロア・・・?」

 ヴァシリーサも、うまく理解できていないようだ。


 クロアとヴァシリーサは、似ても似つかない。

 ヴァシリーサは、短めで太い黒角と黒いうろこに覆われた尻尾を持つ、竜人である。

 身長はあまり高い方ではなく、肌の色は褐色で髪の色は黒。

 眼は大きなアーモンド形でくりくりしており、その瞳は小さく、四白眼だ。

 一方で何でも屋『裏紅傘』のクロアは、身長2mを超えていそうな身長にがっちりとした体形で、角や尻尾は無い、アルバトレルスによって作られた人造人間である。

 髪の色こそ黒で同じだが、肌は透き通るような白。

 目じりの高めな切れ長の瞳に、スッと通った鼻筋と、顔立ちも似ていない。

 

 共通点は、あまりにも少ない。

 狼狽えるヴァシリーサを前に、鈴は続ける。

「正確には、クロアさんは、ヴァシリーサさんの妹であるヴァレーリアさんの脳を使って、造られた人造人間なのです。」

 ヴァシリーサは、呆然としている。

「改造前の記憶は思い出せないようになっていたようですが、消えてはいなかったようです。断片的ですが、以前の記憶が戻りつつあるようです。」

 鈴の言葉を聴いたヴァシリーサは、すっと、立ち上がる。

 そして、こちらに、身体を向け、頭を下げる。

「・・・メタルさん、作太郎さん、エミーリアさん。お願いがあるっす。」

 ・・・何を言いたいかは、わかっている。

 これは、仕方がないだろう。


 エミーリアの方を見る。

 エミーリアは、小さく頷く。

 作太郎の方を見る。

 作太郎は、ニヤリと笑う。

 ・・・いつも思うが、本来ならば表情が変わらない骨の頭で、どうやって笑っているのだろうか?


 ヴァシリーサが何かを言おうとする。

 それを制するように、おれは、口を開く。

「いいよ。ここは俺たちがどうにかするから。」

 俺の言葉に、ヴァシリーサの目に、涙が浮かぶ。

「行っておいで。」

 

 俺がそう言った瞬間、ヴァシリーサは、弾かれるように駆け出した。

「このお礼は、必ず!」

 最後に、その一言だけを言い放ち、ブリーフィングルームから、いなくなる。


 俺は、鈴の方を見る。

「・・・で、ヴァシリーサは行っちゃったけど、それでいいんでしょ?」

 鈴は、それに、頷く。

「ええ。ここから先は、彼女には関係ない話も、多いですから。」

 冷たい言い方だ。

 だが、鈴なり優しさでもある。

 ヴァシリーサは、優しく、正義感に溢れ、それでいて、自制心も非常に強い。

 これからの話を聴いてから妹の話を聴けば、ヴァシリーサは、俺たちを優先してしまうかもしれない。

 俺たちを優先せずとも、なんとなく心にわだかまりがある状態で、妹の下へ向かうことになるだろう。

 なので、先にヴァシリーサの妹の話をすることで、そちらに送り出したのだ。

 最初にアルバトレルスの話を出したので、ヴァシリーサは、今回の話は、アルバトレルス関連だと思っているのだろう。

 アルバトレルス関連の話ならば、俺たちだけで問題なく対応できると判断したのかもしれない。


 妹の話を聴き、冷静でなかったヴァシリーサは気づいていなかっただろうが、鈴は、ヴァシリーサの妹と、魔術で行方不明になった者達についての話が関係しているとは、一切言っていない。

 大方、ヴァシリーサの妹については、アルバトレルス関係を詳しく調査しなおしている最中に発見したのだろう。


 本題は、この後だ。

「で、俺たちへの話は?」

 俺の催促に、鈴は、口を開いた。


「灰神楽自治区は、知っていますか?」


 その言葉に、エミーリアと作太郎が、ピクリ、と反応する。


 灰神楽自治区。


 エミーリアと作太郎の、出身自治区である。

 そして、エミーリアの倒すべき目標、レピスタが治める自治区でもある。


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