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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第2章
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第1話 次の仕事を探しに

 

 現歴2265年4月14日 午前11時 剣ヶ峰市


 よく晴れた日差しの中、市街地を歩く。

 今日は、だいぶ暖かい日だ。春のやわらかい風が、気持ちがいい。 

 平日の昼間。

 人々はオフィスの中にいるのか、人通りは少ない。

 横を見れば、濃紫色の髪を肩口くらいまで伸ばした小柄な少女がいる。

 一人の気ままな旅だったが、今は、連れがいるのだ。


 エミーリア。

 ミニマムレギオンという珍しい人種の女性だ。

 前に受けた仕事で一緒に戦った仲で、エミーリアから希望があり、同行することになった。

 先の大鹿との戦いでは、一緒に受注した新米旅客とは一線を画す戦闘力を見せつけている。

 見た目は小柄な少女だが、地球のスクトゥムに似た四角い盾を持ち、刃渡り50㎝ほどの分厚い短めの剣を用いて戦う戦士だ。

 大人しい性格をしており、表情はあまり変わらないが、露出の多いチューブトップを着ており、外見と雰囲気のギャップが激しい。

「どこに行く?」

 エミーリアが、訊いてくる。

 鈴の音のような、きれいな声だ。

「とりあえず、首都に行こう。」

 そう答えると、エミーリアは無言で頷いた。

 相変わらず、表情は変わらない。

 とりあえず首都に行けば、高難易度の仕事があるだろう。


 俺とエミーリアは、戦闘旅客だ。

 戦闘旅客とは、古くは冒険者と呼ばれた人々で、戦闘や探索などを行い、報酬を得ることを仕事にしている人々のことだ。

 旅客は白、赤、黄、緑、青、鉄、赤熱銅せきねつどう硬銀ハードシルバー緑透金クリアヴィリディウム青鉄あおがねと、10段階に評価されている。

 一般的に、緑クラス以上は一流の戦闘旅客で、青クラス以上は超一流、鉄クラスを超えれば一騎当千の猛者とみなされる。

 

 エミーリアは緑クラスで、俺は青鉄。

 一応、一流以上の二人である。

 今いる『剣ヶ峰市』で受注可能な仕事には、ちょうどいい難易度と報酬の仕事は無かったのだ。

 ちょうどいい難易度の仕事を探すには、ヒトとモノ、情報が集まる首都へと赴くのが手っ取り早い。

 また、どうやらエミーリアは、自治区から出てきたばかりらしく、世間をよく知らないようなので、この星最大の都市を最初に見せておくのも、悪くないだろう。

 

 そんなことを考えて歩いていると、駅についた。

 剣ヶ峰駅から、首都への直通線は無いので、一度、近くの都市を経由する必要がある。

「ああ、次下りる先までは3時間くらいかかるから、お弁当買っとこうか。」

 そう言うと、エミーリアは頷いた。心なしか、目が輝いている。

 先の仕事の時も思ったが、エミーリアは、食べることが好きなようだ。

 エミーリアと共に、駅弁コーナーへ向かう。


 駅弁コーナーのショーケースを見れば、20種くらいの駅弁を印刷したポップが並んでいる。

 海も近いためか、海鮮の弁当もあれば、剣ヶ峰の山の幸を使った弁当もある。

 ・・・ツルギガミネセンジュ弁当?

 思わず二度見した。

 ポップには、『希少なツルギガミネセンジュをふんだんに使いました!』と書いてある。

 あれ、食えるのか?

 値段は、2,200印。

 ・・・ほかの弁当の倍くらいする。

 横を見れば、エミーリアも、同じ弁当のポップを見つめている。

 心なしか、顔色が青い。

 その顔を見て、決心した。

「すいません、ツルギガミネセンジュ弁当と、お茶ください。」

 そう言った瞬間、エミーリアが、こっちを見る。

 その視線には、驚愕と恐れ、少しの尊敬が見える。

 ふふふ。

 買ってしまった。

「エミーリア。好きなのを買いな。」

 俺の行動を見て、エミーリアもツルギガミネセンジュ弁当に手が伸びかけていたが、そう声をかければ、別の弁当へと手が伸びていく。

「これと、これ。あと、これも。」

 そう言いながら、エミーリアは、3つの駅弁を買った。

 剣ヶ峰ゆけむり弁当、海鮮ごのみ弁当、そして、ツルギガミネセンジュ弁当である。

 ・・・エミーリアも、食べてみたいようだ。

 結局、2人とも買ってしまった。

 

 電車に乗る。

 電車は、世界の都市を繋いでいる高速鉄道で、地球でいう新幹線に相当する車両だ。

 巨大都市間の路線は次世代システムによって代替されたが、地方路線ではまだまだ現役である。

 

 席に着き、荷物を頭上の棚に乗せる。盾に旅の荷物まで収まる、ゆったりサイズだ。


 ・・・あれ?重鉄がない・・・?

 そうだ!ツルギガミネセンジュと戦った時に、消えてなくなってしまったのだった!

 忘れていた。

 首都か次の街に着いたら、武器を買う必要があるだろう。

「・・・貸す?」

 そう、エミーリアが声をかけてくる。

 その手には、50㎝ほどの分厚い剣が一振り。

 使いやすそうな剣ではある。

「あー。どうしようもない時は、借りようかな。」

 気を使わせてしまった。不覚である。

 とりあえず、荷物を棚に詰め込み、エミーリアと並んで席に着くと、それとほぼ同時に、車両が動き出した。

 

 さて。

 時刻は昼。

 気を取り直して、お弁当の時間だ。

 早速、ツルギガミネセンジュ弁当を、取り出す。

 ツルギガミネセンジュ弁当のパッケージは、艶消しの黒だ。

 弁当に掛けられている白い紙には、ツルギガミネセンジュが墨で荒々しく描かれており、妙な高級感がある。

 視線を感じて横を見れば、エミーリアが、俺のツルギガミネセンジュ弁当の開封を固唾を飲んで見守っている。

 エミーリアに見守られながら、弁当の掛け紙と蓋を取る。

 すると、目に飛び込んできたのは、黒。

 ご飯が黒い。その黒いごはんの上に、うっすらと灰色をした、透明な何かが乗っている。

 透明な何かには切込みは見えず、大きな1枚の何かに見える。説明書きを見れば、ツルギガミネセンジュの外皮の内側のやわらかい部分らしい。

 弁当の7割はその黒いごはんと透明な皮であり、付け合わせに漬物とこれまた黒い煮物が入っている。

 ・・・匂いを嗅いでみる。

 意外と悪くない。少し、生臭い気がするか・・・。

 小さな醤油差しが入っていた。透明な皮にかけるようだ。

 醤油をかける。

 すると、透明な皮には切れ込みが入っていたようで、美しい格子状に醤油が広がる。

 透明な何かに箸を入れれば、皮は短冊状に切ってあった。

 短冊状に切り、格子状の切れ込みを入れた皮を、それがわからないように精密に並べていたらしい。

 なんだか、美味しそうに見えてきた。

 黒いごはんは、ぬぺっとした見た目と違い、箸でとってみればちゃんと粒が立っている。

 エミーリアが見つめる中、ご飯と透明な皮を、口に運ぶ。


 ・・・!旨い!


 口に入れた瞬間、ご飯からカニ味噌のような強い旨味が広がる。

 臭み消しのショウガの香りが鼻から抜け、旨味と爽やかさが両立している。

 ショウガで消しきれないクセはあるが、それもいい意味での一つのアクセントだ。

 透明な皮は、イカのような味だ。歯ごたえはクラゲのようで、こりっこりである。

 切れ込みが入っているのは、そのままだと少し硬いからだろう。

 その切れ込みのおかげで歯切れは良い。

 イカのような味だが、少し薄味で、さっぱりしている。

 さっぱりした透明な皮と、旨味の強い黒ご飯。その2つを、ショウガと醤油の香りが繋ぐ。

 二口目をほおばる。

 うむ。旨い。

 これは、いい意味で予想を裏切られた。

「これは、旨いな。」

 そう言うと、俺を見ていたエミーリアが、ツルギガミネセンジュ弁当を取り出し、食べ始める。

 そして、エミーリアの顔も、驚愕に彩られた。

 エミーリアを横目に、黒い煮物を食べる。

 これも、旨いな。

 ご飯と同じモノで煮つけたのか、ご飯と同じような旨味がある。

 漬物を口に運べば、酸味が爽やかで、いい箸休めだ。

 そのまま、2人で黙々と黒い弁当を食べ続けた。


 最後の一口を食べ、お茶を飲む。

 ああ、美味しかった。

 満足のいく弁当であった。

 ツルギガミネセンジュ、美味しいんだな。

 横を見れば、エミーリアは2つ目の弁当に取り掛かっている。

 あいかわらず、よく食べる娘だ。

 窓の外を見れば、田園風景が広がっている。

 まだまだ先は長そうだ。

 


 俺は、やってきた睡魔に抵抗することなく、夢の世界へ旅立つのだった。


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