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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
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第4話 エミーリアの人数

 エミーリアは、無事、自身の力の大きさを実感できたようだ。

 なによりだ。

 力を実感できていなければ、制御の訓練はできない。

 自身の力を実感することは、訓練のスタートラインに立つための、最低条件なのだ。


 さて。

 力の実感に関して、もう一つ確認しておかなければいけないことがある。

「さて。次の段階だ。」

 俺がそう言うと、エミーリアが、こちらを少し向く。


「今、エミーリアは、何人まで増えた?」


 レギオンは、力を増すと自身の数が増える。

 メーアの巨大な力を得たのだ。

 凄まじい数になっている可能性も、高い。


「・・・・。」

 エミーリアは、無言でこちらに向き直る。 

「見る?」

 俺は、エミーリアの言葉に、頷く。


 次の瞬間、エミーリアの身体にある無数の縫い跡から、腕が突き出した。

 過去にも何度か見たことがある、エミーリアが一気に数を展開するときの、自身の『出し方』である。

 大本のエミーリア自身は表情一つ変えず、微動だにしないのが、なんだか雰囲気がある。

 腕に引き続き、明らかに縫い跡の大きさに見合わないモノ、『別のエミーリア自身』が、出てくる。

 何回か見たことがあるとはいえ、なかなか壮絶な光景である。

 エミーリアの中から現れたエミーリア達は、皆、同じ外見、同じ格好をしている。

 ・・・よく見ると、表情が、個人個人で少し違うだろうか?

 その現れたエミーリア達からも、さらにエミーリアが現れる。


 数秒後。

 そこには、100人ほどのエミーリアが、並んでいた。

 

 俺は、そのエミーリア達を見て、言う。

「えっと・・・パッと数えられる人数じゃないね・・・。今、何人?」

 流石に、100人を超える人数を、パッと数えることはできない。

「私は、今、101人。もう、ミニマムレギオンじゃない。レギオンになった。」

 元が50人程度だったことを考えると、倍ほどに増えている。

 だが、思ったよりも少ない。

 メーアの力を完全に受け入れたのならば、数千、数万まで増えているとも思ったのだが・・・。

 すると、俺の考えていることを察したのか、エミーリアが答える。

「・・・群体レギオンも、あまり増やしすぎないほうが、いい。」

 ・・・そうなのか?

「人格の統率が、難しくなる。」

 なるほど。

 群体レギオンは、人数が増えると、そういった弊害があるのか。

 

 レギオンは、個体レギオンと群体レギオンに分類できる。

 個体レギオンは、たくさんの身体全てを一つの人格が統合し、操っているレギオンである。

 身体を増やしても人格は増えないため、身体一つ当たりの”重さ”は、軽い。

 そのため、大きな力を得ると、すぐに身体の数を増やすことができる。

 とはいえ、全ての体を一つの人格で操作しているため、身体の数が増えるほど操作が大変になる。

 身体の数が増える分、無制限に強くなれるわけではない。

 もう片方、群体レギオンは、身体それぞれに別の人格が宿っているレギオンである。

 こちらが、エミーリアである。

 別々の個でありながら同一人物という、不思議な個体が多数集まっているのだ。

 全員が同一人物として根本で繋がりながらも、全員が自己判断できる別個の人格なのである。

 一つの身体を生み出すということは、新たな個を創り出していることになるため、一人当たりの"重さ"は個体レギオンの比ではない。

 そのため、大きな力を得ても、簡単に増やすことができるわけではないようである。

 さらに、エミーリア曰く、個々が異なる人格であるため、人数が増えると、同一人物としての人格の統合・統率が難しくなるらしい。


 これから、エミーリアは、何人くらいになるのだろうか?

「最終的に、何人くらいになるの?」

 思わず、訊く。

 すると、エミーリアは、少し、悩ましげな顔をする。

「・・・難しい。数がいれば、強い。でも、統率・統合は、難しい。」

 エミーリアは、すっと、増えたエミーリアの一角を指さす。

「あのあたりの身体に、人格は、ない。」

 エミーリアの体内から出てきたエミーリア達の中には、周囲をきょろきょろと見ている個体も多い。

 だが、エミーリアが指さした方の個体は、虚ろな目をして立っているだけだ。

「生命維持をするだけの、簡易な身体。あれに人格を入れるかは、悩んでいる。」

 虚ろな目をしているエミーリアは、50人ほど。

 一体、どういうことだろうか?

「うん・・・?ちょっとわからないな・・・。どういうことだい?」

 

 俺がそう訊くと、エミーリアは、少し、黙る。

「・・・。」

 なんだか、悩んでいるというか、恥ずかしがっているというか、何とも言えない様子だ。

「・・・・・・実は、私は、殆ど増えていない。今、私は、50人。」

 人格が入っている人数は、現状で50人とのことである。

 虚ろな目をしている51人は、人格の入っていない、まだ完全にはエミーリアになっていない身体のようだ。

「じゃあ、その51人は、どうして作ったの?」

 51人分の身体。

 これを作り上げるコストは、なかなかのものだっただろう。

「・・・。」

 エミーリアは、再び言い淀んでいる。

 そして、意を決したように、言う。

「・・・・・・見栄。」

 見栄。

 エミーリアから、その言葉が出るとは思わなかった。


 俺が何も言えないでいると、エミーリアは、俺を指さし、言う。

「強くてかっこいい、メタル。」

 唐突なべた褒め。

 なんだか照れる。

 次に、エミーリアは自分を指さす。

「その伴侶。小さくてみっともない、ミニマムレギオン。」

 ・・・。

 なるほど。

 どうやら、エミーリアは、ミニマムレギオンのままでは、俺には釣り合わない、と考えたようだ。


 そんなことはない!


 俺は、レギオンが好きなのではない。

 エミーリアだから、好きなのだ。

「みっともなくなんて、ないよ。」

 俺は、エミーリアに、言う。

「レギオンだから好きなんじゃない。エミーリアだから、好きなんだ。」

 

 俺がそう言うと、エミーリアは、はっとした表情をする。

 そして、はにかみ、言う。

「・・・ありがとう。」

 すると、中央のエミーリアの後ろにいる、人格のある49人のエミーリア達が、口々に話し始める。

「・・・かっこいい。」

「流石、私の伴侶。」

「違う。メタルは、私の伴侶。」

「でも、私たち、皆、エミーリア。」

 なんだか、皆でもにもにと喋りあっている。

 そこに、中央にいた、大本のエミーリアが、言う。

「メタルは、私の伴侶。そして、私たちの伴侶。」

 堂々と言い切ったその姿に、他の49人のエミーリア達が、一緒きらきらした目を向けた後、拍手する。

 ・・・いったい何が起こっているのだろうか?

「今こそ、行くべき。」

 49人のエミーリアの、誰かが言う。

 行く?

 どこへ?

「・・・行っても?」

「自分で決めるべき。」

 エミーリア達が、また、なにかをもにゃもにゃと話し合いはじめた。

 それに対し、大本のエミーリアが、言う。

「全員、私。私達は、個々であり、個。行ってもいい。」

 そう啖呵を切った大本のエミーリアは、俺の方を向いて、問いかけてくる。


「・・・勢いよく行っても、受け止めてくれる?」

 なるほど。 

 どうやら、皆、勢いよく俺に抱き着くか何かしたようだ。

 

 好きな人を受け止められなくて、何が超人か。

 全く問題はない。


「いいよ。おいで。」

 俺がそう言うと、50人のエミーリアが、駆け出した。

 俺は、腰を落とし、両手を広げ、受け止める態勢になる。

「さあ、こい!」


 次の瞬間、俺は、50人のエミーリアの津波に、飲み込まれたのだった。


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