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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第6章
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第3話 力の実感

 眼を開ける。

 なんだか明るい。

 どうやら、首都の闘技場とは異なり、いきなりフィールドに出現させられたようだ。

 武器はどうするのかと思ったら、目の前に半透明の操作パネルが現れる。

 どうやら、本来ならばカプセルに入る前に武器を設定する必要があったらしい。

 設定をしていなかったので、この場で設定画面が現れたようである。

 とりあえず、愛剣『蒼硬』と同じようなサイズ感の武器を選択。

 かなり細かい設定項目もあるが、今回は、強度を上げる以外は特に操作はしない。

 こういうモノをいじりだすと、楽しすぎて時間がいくらあっても足りないのだ。


 入力を終えると、目の前に剣が一振り生成される。

 切っ先諸刃づくりの直刀。

 注文通りだ。

 剣を手に取り、フィールドをさっと見渡す。

 広さは、5㎞四方で設定したので、その通りなのだろう。


 まず、眼に入ったのは、エミーリア達。

 エミーリアは、100mほど離れた場所にいる。

 エミーリア達は20人ほど現れており、たくさんの盾と剣をまとめたりする作業をしている。

 エミーリアは人数が多いので、戦闘準備にも時間がかかるのだろう。

 しばらく眺めていたら、エミーリア達は、束ねられた剣と盾を持ってエミーリアの体内へと帰っていく。

 体内でエミーリア達全員に配るのだろうか?


 エミーリアが準備をしているうちに、周囲の環境を簡単に確認する。

 左手を見れば平野が広がっており、右手を見れば市街地だ。

 平野部は、くるぶしくらいまでの高さの草に覆われており、起伏もほぼ無い。

 障害物は、所々に10m程度の高さの木が生えているくらいで、目立つものは無い。

 市街地から道路が数本、平原の中に敷設されている。

 道路はアスファルトで舗装されているため、草が生えている部分とは足場の状態は異なるだろう。

 市街地は、外周部に2階建て程度の一軒家が3層くらいで立ち並び、その先には数十mの高さのビル群が聳え立っている。

 訓練用の張りぼてみたいな市街地が生成されるものかと思いきや、カラフルな看板が輝き、車が所々に並ぶなど、なかなかリアルな市街地だ。

 

 エミーリアに目線を向ける。

 少し目を離しているうちに、エミーリアは一人になっている。

 戦闘用意はできたようだ。

 エミーリアに向けて、剣を掲げる。

 すると、エミーリアは、頷く。 


 戦闘開始だ。

 エミーリアの雰囲気が変わり、盾を前面に出し、身体を隠しながら、じりじりと迫ってきている。

 どうやら、まずは力を手に入れる前の戦い方で来るようだ。


「開放、1000。」

 力を開放する。

 あえて、少し周囲に力を漏らし、エミーリアに知覚させる。

 メーアの力を全て引き継いだエミーリアに対しては、低すぎる開放数だ。

 だが、力を使いこなせていないエミーリアにとっては、荷が重い開放数だろう。


 俺が力を開放したことで、エミーリアが、止まる。

 どうやら、開放数に驚いているようだ。

 この開放数では、まだエミーリアの方が強いはずである。

 やはり、自身がメーアから引き継いだ力の大きさを理解しきれていないらしい。


 剣を抜き、エミーリアに向けて走る。

 エミーリアに到達するまで、所要時間はコンマ数秒。

 そのままの勢いで、エミーリアの盾に、まっすぐ振り下ろすように剣を叩きつける。

 

 盾と剣が接触するが、衝撃がスッと変な方向へ抜ける。

 

 反応した。


 エミーリアは、開放1000の速度に反応した。

 正直、力を実感できていないようなので、反応できないと思っていた。

 少々、エミーリアを見縊っていたようだ。

 剣が流されたことで、俺の身体が少し泳ぐ。

 そこへ、隙を見逃さず、エミーリアの剣が突き込まれてくる。

 咄嗟にバックステップで躱しつつ距離を取る。

 下がった俺に対し、エミーリアは鋭く踏み込み、剣を繰り出す。

 素晴らしい攻めだ。

 攻撃の合間、こちらが反撃に出たくなるようなタイミングでシールドバッシュを混ぜることで、反撃を防いでいる。

 最近、強い者達と一緒に行動することが多かったため目立っていなかったが、エミーリアの戦闘技術は一級品なのだ。

 

 さらに俺は、大きく下がる。

 俺が下がるのに合わせ、エミーリアが剣を大きく振るう。

 エミーリアの剣からは、白い光が飛び出し、俺に向かってくる。

 一部流派で『飛斬』とも呼ばれる、剣を媒介として斬撃を飛ばす魔術だ。

 斬撃を飛ばすタイプの魔術の中では基礎的なものであり、普通ならば少しの裂傷と衝撃を与える程度の威力しかない。

 上位旅客たちの間では、低いとはいえ無視できない威力を活かした牽制や、発動の速さを活かして連携攻撃の起点にする、等の使われ方が主な魔術である。

 俺は、その飛んでくる斬撃を、身体を反らして躱す。



 俺の横を掠めて飛んでいった飛斬は、俺の背後の家を数軒薙ぎ倒し、そのまま、ビルを一つ両断・倒壊させて消えた。



 エミーリアが、飛斬を撃った姿勢で、固まっている。

 自分が放った技の威力に驚いているようだ。

 俺は、そんなエミーリアに、話しかける。

「実感できたかい?メーアから引き継いだ力の大きさを。」

 エミーリアは、少し、頷く。

 そして、口を開く。

「一時、休戦。」

 そして、俺に手招き。

 俺がエミーリアの傍まで行くと、エミーリアは市街地に向けて剣を振り上げる。

 どうやら、なにかしらの攻撃を試し打ちするつもりのようだ。


 エミーリアの剣が、薄紫色に光る。

 剣にエネルギーを込めている。

 術式もなく、ただ力を流し込んでいる。

 剣の纏った光の色から、エミーリアのエネルギー色は、どうやら紫色のようだ。

 エミーリアが力を込めることに慣れておらず、無駄に力が分散しているのでまだ薄紫色をしているのである。

 ここから訓練していけば、鮮やかな紫色を呈するはずだ。

 

 エミーリアは、力が込められた剣を、市街地に向けて振るう。


 まず、剣から迸ったエネルギーは、エミーリアが持った剣を崩壊させた。

 生成された剣は、膨大なエネルギーに耐えることができなかったのだ。

 媒介である剣が崩壊したことで、エネルギーは分散し威力は低くなったが、広範囲に広がる巨大なうねりとなって、市街地になだれ込む。

 エネルギーの奔流は、正面の数件の木造家屋を飲み込み、易々と倒壊させる。

 剣が崩壊したことで勢いが弱まっているとはいえ、木造家屋を倒壊させるだけの威力は残っているのだ。

 さらに、エネルギーの奔流は収まることなく、ビル群に到達。

 弱まった威力では、強固な鉄筋コンクリートのビル群を倒壊させることはできなかったものの、ガラス窓や脆い壁などは、全て吹き飛んでしまった。

 エネルギーの奔流は、街一区画分のビルを廃墟に変え、消えていった。

 

 エミーリアは、自分が放ったエネルギーがもたらした結果に、絶句している。

 いつもの無表情が、心なしか、引き攣っている。


 いきなり大きな力を手に入れた時、最も気を付けなければいけないこと。

 それは、今までの感覚で力を使うこと。

 力が大きくなった状態でそんなことをすれば、周囲に大きな被害をもたらすことになる。

 本来、段階を経て力を付けていったならば、そんな心配はない。

 自然と自身の力に見合った立ち回りができるようになるからだ。

 だが、今回のエミーリアのように、唐突に大きな力を手に入れると、そうもいかない。

 普段通りの動きを大きくなりすぎた力で行えば、今目の前で起きたことを、人々の暮らす街で起こすことになるのだ。


 今回のエミーリアとの手合わせは、そこをエミーリアに実感してもらうのも、大きな目的なのである。


 しばらく、崩壊した市街地を見つめていたエミーリアは、ゆっくりとこちらを向き、言う。

「・・・力の、使い方を、教えて。」



 どうやら、無事、自身の力の大きさを実感できたようだ。

 なによりだ。

 実感さえできれば、上手く制御できるよう、訓練できるようになるのである。

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