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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第5章
110/208

第31話 デブリーフィング

 現歴2265年6月17日 午前11時過ぎ


「ロンギストリアータ要塞が見えたっすよ!」

 ヴァシリーサの声がする。

 その声で目を覚まし、簡易ベッドから起き上がる。

 兵員室上面ハッチを開け、顔を出せば、頬に風が当たる。

 この地域のこの時期は、まだ、涼しい爽やかな風だ。

 見えてきたという要塞を見ようと、緑のヒヨコ号が進む先に目を向ける。

 ・・・砲塔の後部しか見えない。

 仕方がないので、身体を大きく乗り出し、砲塔の向こう側を見る。


 今、緑のヒヨコ号は、眺めの良い高台の上を走っているようだ。

 高台からは、ここから先に広がる平原や森、川や沼などが見え、それらが続く遥か先に、地平線がある。

 よく見ると、その地平線は、どことなく凸凹している。


 ・・・ここから見える地平線全てが、ロンギストリアータ第6要塞なのだ。

 今いる場所は、 ヴィリデレクス州と辺境の大陸を繋ぐ『ロンギストリア地峡』の辺境側である。

 地峡とはいえ、その幅は場所にもよるが200km~300kmもある。

 ロンギストリアータ要塞は、その要塞を完全に横切っているのだ。


「改めて見れば、雄大ですなぁ。」

 車長ハッチから身を乗り出している作太郎が、感嘆の声を上げる。

 今は、エミーリアがドライバーで作太郎が車長、ヴァシリーサが砲手を担当している。

 俺は休憩だったのだ。


 鯨骨街を出て2日。

 前回は1日で走り抜けることができた道のりだが、今回は2日かかった。

 途中、錆色号のエンジンが故障し、修理に1日かかったためである。

 

 車列の前の方を見れば、錆色号がヨタヨタと走っている。

 いろいろと調子が悪いようで、時折大きく震えては、明らかに異常なドス黒い排気を吹きだす。

 あの状態でよく走っているものである。

 ここから要塞までは、20㎞ほどといったところだろうか。

 果たして、錆色号は要塞まで持つのだろうか?



*****



 ・・・ダメだった。

 錆色号は、要塞まであと数kmといったところで、ひときわ大きく震えると、ついに、動かなくなった。

「動きそう?」

 そう問いかけるのは、リトヴァ。

 リトヴァの問いかけに、エンジンを覗き込んでいたヴィクトルが答える。

「・・・ダメじゃな。魔術サイクル部分が完全にいかれとる。部品が無いことには、どうにもならん。」

 ヴィクトルは、残念そうに答える。

 どうやら、錆色号のエンジンは魔術エンジンだったようだ。

 

 魔術エンジンとは、その名の通り、魔術により動くエンジンである。

 簡単に説明するならば、魔力を流すと駆動する立体魔法陣を用いてエネルギーを取り出すエンジンだ。

 一口に魔術エンジンと言っても種類が数多くあるので一概には言えないが、レシプロエンジンのピストンの部分が立体魔法陣によって構築されているようなイメージをしておけば、おおむね問題はない。


「メタルよ。ここまで来れば、お前なら担いでいけるのではないか?」

 メーアが、俺を見て、言う。

 ・・・まあ、できないことはない、かもしれない。

 力や体力といった面では、問題なくできる。

 俺は、皆の視線を感じつつ、錆色号の下にもぐる。

 不整地を走破するため、車体下にはそれなりに隙間があるのだ。

「持つのは、この辺でいい?」

「・・・おう、そうじゃな。そのあたりならよいぞ。」

 車体下の真ん中あたりまで行き、俺がそう問いかければ、ヴィクトルが答える。

 よし。

 じゃあ、持ち上げてみよう。


 片膝をついた状態で、車体下部に肩を押し付ける。

 そして、ゆっくりと力を入れる。


 ギギギギ、と、金属が歪む嫌な音がする。


「・・・ダメじゃ!止まれ!ストップ、スト――ップ!!」

 ヴィクトルの声が聞こえ、持ち上げるのを止める。

 そして、ゆっくりと錆色号を下ろし、車体下から出る。

「ダメじゃな。被弾痕を応急処置した部分に、変に力がかかりすぎる。下手したら、真っ二つじゃな。」

 どうやら、担ぐのも上手くいかないようだ。

 錆色号は、思った以上に満身創痍なようである。


 最終的に、錆色号は緑のヒヨコ号で牽引していくこととなった。

 残り数㎞くらいならば、まあ、できないことはないだろう。

 


 そんなごたごたがあり、ロンギストリアータ第6要塞まで帰りついたのは午後5時。

 途中、こちらを確認した要塞から、車両回収部隊が来てくれたおかげで、錆色号も無事に要塞まで帰りつくことができたのだ。



*****


 現歴2265年6月20日 午前10時

 

 要塞に帰り着いてから、3日。

 俺たちのパーティは、出撃前ブリーフィングを行った第8ブリーフィングルームに集まっていた。

 デブリーフィングだ。

 今回の仕事に参加した旅客は、およそ100人。

 第8ブリーフィングルームには、その半分程度の人数が集まっている。

 メンバー全員が出席しているチームが多かったブリーフィングの時とは異なり、代表のみが出席しているチームが多いようだ。

 出席者の表情は、一様に疲労感こそ漂うものの、明るい。

 暗い表情をしたパーティはほぼいないため、戦死者は少ないのかもしれない。


 定刻になると、部屋の正面の少し高くなった場所に、軍人が現れた。

 ブリーフィングの時は二人だったが、今回は3人いる。

 そのうちの一人、最も階級が高そうな者が、口を開く。

「諸君、集まってくれて感謝する。」

 そのまま、軍人は言葉を続ける。

 

 軍人によると、昨日の16時、目標だった第14前進都市への陸路の回復が確認されたらしい。

 陸路が回復したのは、俺たちが対応したフローティングアイが占拠していた経路だとのことである。

 他の2つの陸路が未だ回復の目途が立たないとのことなので、これは大きな前進だ。

 働いたかいがある、というものである。

 また、今回の作戦中に、死者は出なかったらしい。

 何人かは重傷で入院中とのことだが、その者達も命に別状はないとのことである。

 辺境で、この人数の作戦を行って死者が出ないのは、もはや奇跡に近い。

 作戦は大成功と言っていいだろう。

 

 その後、最初に話した軍人は部屋からいなくなり、残った2人により、報酬の説明が行われた。

 当初示されていた報酬の他、追加報酬がある旅客もそれなりにいるようだ。

 一応、作戦の完了報告をした時点で報酬の暫定額は言い渡されていたが、戻ってきてすぐの者など、ここで初めて聞く旅客も多いのかもしれない。

 俺たちの討伐隊内での報酬の割り振りは、既にローランドが行っている。

 あとは、その報酬を軍から受け取るだけだ。


 デブリーフィングは無事に終わり、旅客たちは各々解散していった。


「いや~、しかし。この規模の作戦で死者が出ないのは、凄いね。」

 俺がそう感想を言うと、メーアが答える。

「それは、私とメタルが戦っていたからだぞ。」

 ・・・なに?

「私とメタルほどの力が戦っていたのだ。巻き添えを恐れて、あのあたりの地域のある程度強力な生物は、活動を控えていたのだろうよ。」

 なんと。

 そういうことか。

 辺境の生物は、修羅の世界たる辺境で生き残るために、危険察知能力は高い。

 俺たちが戦っていたことで、様子見のために大人しくしていたのかもしれない。


 部屋に戻ると、ローランドが待っていた。

「おお、戻ったか。報酬だ。受け取ってくれ。」

 ローランドの手から、報酬を受け取る。

 今回は、討伐隊を代表して、ローランドが報酬を受け取ったのだ。

 ローランドは、それをチームごとに分けて持ってきてくれたのだ。

「確かに受け取った。ありがとう。」

 受領書にサインをし、ローランドに渡す。

 今回一緒に仕事をしたチームは、皆、誠実な人が集まっていたので、こういうことができる。

 あまり素行がよくないチームと組むと、報酬でもめることも多いので、本来ならば注意が必要なのだ。

 

 俺たちのチームの報酬額は、7億印。

 15億印のうち、3億印が『青の戦士を仰いで』の取り分で、5億印がエリザとエルザの取り分である。

 ローランド曰く、戦功順に傾斜配分したそうだ。

 うちのチームは、ここまではいらないと全員で言ったのだが、『青の戦士を仰いで』の皆もエリザ・エルザも、うちのチームより多く受け取るわけにもいかないと言い、退かなかった。

 そのため、うちのチームが総報酬の約半分もの報酬を得ることになったのである。

 


 それらの報酬に加え、道中で討伐したオオガンセキカタツムリや6眼のフローティングアイの素材などを売却したところ、さらに5億印ほどの金額が手に入った。

 ちなみに、フローティングアイの素材を売却することには、メーアは異論はないそうだ。

 メーア曰く、力で得たモノなので、自由にしていいとのことである。

 弱肉強食は辺境のおきてだそうだ。

 

 そんなこんなで、今回の仕事での俺たちの収入総額は、実に12億印にもなったのだった。


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