第25話 力の飴
第5章第20話の、リールの開放数について言及する部分を修正しました。
詳しい修正内容は、活動報告にあります。
よろしくお願いします。
数分が経ち、感極まっていたメーアも落ち着いた。
「ああ。私も、メタルにダメージを入れられる程度には強くなったのだな。」
メーアは、再び、そう言う。
思い返せば、今まで何度かメーアと戦ってきたが、メーアの攻撃でダメージを受けたのは、今回が初めてである。
確かに、メーアは強くなった。
上位の超人と比較しても、全く遜色はない。
実際に戦ってみてわかった。
戦略超人であるリールと比較しても、倍近い力を持っている。
メーアは、戦略超人として国家が囲い込むレベル超人と比較してもなお強い、凄まじい力の持ち主になっていたのだ。
そのメーアは、エミーリアの方に向き直り、口を開く。
「では、エミーリア。私の力を渡そうか。」
メーアがそう言うと、エミーリアは、少し、たじろいだ。
「でも・・・嬉しそうだった・・・。」
そして、いつものように、エミーリアの言葉は、いろいろと足りない。
案の定、メーアには言葉の意図が伝わっていないようである。
「・・・?嬉しそう・・・とは?」
メーアが疑問に思ってそう問いかけても、エミーリアは心配そうな表情をするばかりで、声を上げない。
完全に言うべきことは言い切った、と思っているのかもしれない。
「ああ、俺にダメージを入れられて嬉しそうだったのにその力を手放してもいいのか、ってことを訊きたいんだと思うよ?」
俺が解説すると、メーアは、納得気な表情をする。
「ああ、そういうことか。それなら、心配はいらない。」
そう言うと、メーアは説明を続ける。
メーア曰く、力はいずれ回復するそうだ。
今回の目的は、誰かに力を譲ることで、巨大な眼球を一時的に小さくする、もしくは減らすことだそうである。
そして、文明圏に行き、力を持ったまま眼球を小さく維持できる方法を探すのだそうだ。
「だから、心配せずに力をもらってくれ。」
メーアはそう言って説明を締めくくる。
説明に納得したのか、エミーリアも、頷いた。
すると、メーアはこちらを見て、言う。
「ということで、メタル。エミーリアに力を譲った後は、私を文明圏まで護衛してくれないか?」
ふむ?
そうか。
力を譲れば、メーアは一時的に弱体化する。
そして、エミーリアは、その力はまだ使いこなせないので、戦うことは難しい。
ならば、護衛役は必須だろう。
だが、それならば、文明圏近くまで移動してから、力を譲ればよいのではなかろうか?
「先に移動しちゃダメか?」
俺がそう問うと、メーアは返す。
「この巨体で移動すれば、それだけで、周囲の生物を刺激するのでな・・・」
なるほど。
下手に移動すれば、原生生物に襲撃される恐れがあるのか。
「力を委譲して、コンパクトになってからの方が、移動はしやすいだろう。」
まあ、確かにその通りだ。
ここは辺境。
メーアは非常に強いが、それよりも強い生物は、数は少ないとはいえ、いるのだ。
ということで、この場でエミーリアに力を譲ることになった。
「どうすれば、いい?」
エミーリアが言う。
「よし、少し待っていろ。」
メーアはそう言い、手のひらを空中に掲げる。
メーアは、手のひらを空中で複雑に動かす。
その軌跡は、ターコイズブルーに光り輝く。
「おぉ・・・。」
思わず声が出た。
メーアは、するすると手を動かし、複雑な文様を空中に描いていく。
その紋様一筋一筋に、ものすごい力が込められており、描くたびにメーアの力が小さくなっていくのが分かる。
それに伴い、周囲に浮かんでいた、巨大なメーアの眼球が、どんどん小さくなっていく。
メーアは、一つの眼球の直径が5cm程度まで小さくなった時、手を動かすのを止めた。
メーアの前には、眼球一つ分のエネルギーが込められた立体魔法陣が浮かんでいる。
そして、メーアは、手のひらをぐっと握る。
すると、立体魔法陣は小さく圧縮されていく。
最終的に、立体魔法陣は1cm程度の大きさのターコイズブルーの宝石のようなものに変化した。
「さて、できたぞ。私の力を封じた飴だ。」
宝石のようなものは、飴だったのだ。
そう言い、エミーリアに、出来上がったターコイズブルーの飴を手渡す。
「これを食べれば、眼球一つ分の力が、エミーリアのモノになる。」
エミーリアは、そう言われた瞬間、飴を口に放り込んだ。
それを見たメーアは、呆れ顔だ。
「まだ説明があったんだがな・・・。まあいい。」
メーアは、呆れ顔のまま、説明を続ける。
「これから、私は眼球10個分の飴を作る。この飴は、エミーリアの身体に合わせて力を放出し、溶けてなくなっていくのだ。」
説明しつつ、メーアは手を動かし始める。
「あまり一気に力が身体に入っていくと、身体が耐えられなくて危険だからな。体の受け入れ速度に会うように溶けていく設計になっている。」
なかなか、気の利いた機能を持つ飴である。
「一つ目が溶けてなくなったら二つ目、それも無くなったら三つ目、のように舐めていけば、いずれ、全ての力を手に入れることができるだろう。」
説明しながらもメーアの手の動きは素早く、立体魔法陣はみるみる組みあがっていく。
「私が開発した、移譲先の相手に負担少なく力を譲る方法だ。どうだ、凄いだろう?」
俺は素直に頷く。
新しい魔術を開発するのは、非常に難しい。
しかも、立体魔法陣という、呪術的な要素を高度に組み合わせて作り上げているのだ。
専門家ですら難しいレベルである。
賞賛に値するものだ。
ちなみに、魔術と呪術は、異なる技術である。
魔術は、魔導子という粒子を魔力というエネルギーで励起させることによって、自然現象の模倣などの様々な現象を起こす技術だ。
いわば、魔導子を用いるための科学、のようなものである。
一方、呪術は、魔術よりも宇宙の根源に存在すると言われるエネルギーを、儀式や陣を用いて取り出して使う技術だ。
見方によっては、魔術よりも魔術的な妖しげな雰囲気をもつ技術である。
双方別々の技術であり、実際の運用では片方だけ使うこともあれば、組み合わせて使うこともある。
典型的な組み合わせとしては、呪文や魔法陣を用いて魔術を行使することが挙げられる。
魔法陣は、呪術で魔法を発動するための回路を作成したモノであり、魔法発動用呪術陣といった代物なのだ。
呪術には、技を使うときに技名を叫ぶことで、呪術的効果で少しばかり技の威力を上げる、といった使い方もある。
まあ、詳しく解説すればもっといろいろあるのだが、簡単にはこんなところだ。
それはさておき、そうこうしているうちに、2つ目の飴が出来上がる。
メーアは、その飴をエミーリアに渡す。
「では、この飴は、先ほどの飴が無くなったら、食べるのだ。」
メーアがそう言うと、エミーリアはいきなり飴を口に放り込んだ。
それを見て、メーアが狼狽える。
「なっ・・・!まだ、前の飴があるだろう!ペッしなさい、ペッ!」
だが、エミーリアは首を振る。
「もう、前の飴はない。2個目も、なくなった。」
そう言い、エミーリアはその小さな口を開いて見せる。
口の中を見れば、確かに飴はすでに無い。
それを見たメーアの表情は、驚愕に染まっている。
「な・・・なんと。それほど、力を受け入れる下地があるのか・・・!」
驚くメーアに、エミーリアは、首をかしげている。
「よし、わかった。急いで次の飴を作ろう。」
メーアはそう言うと、次の飴を作り始める。
その後、メーアは次々と飴を作り、エミーリアはその全てをぺろりと飲み込んでいった。
メーアの飴を疑うわけではないが、少々、心配になる光景である。
実際、エミーリアの内包する力が、みるみる大きくなっていっているのが分かる。
「エミーリア、大丈夫?」
俺がそう問いかけると、エミーリアは、頷く。
「大丈夫。飴、美味しい。」
どうやら、飴は甘くて美味しいようである。
俺は、その姿を見て、少し安心していた。
だが、安心してはいけなかったのかもしれない。
10個目の飴を食べた瞬間、エミーリアは、意識を失って卒倒したのだ。




