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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第5章
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第24話 メーアの力2

 メーアは、芝居がかった動作で、両手を広げて、言う。


「ようこそ、我が眼底の世界、涙の海へ。」


 俺は、いつの間にか、メーアの作り出した世界に飲み込まれていたのだった。 

 ちなみに、エミーリアもこの世界に巻き込まれている。

 力を譲る予定の相手に、力の一端を見せるつもりなのかもしれない。


 周囲に視線を巡らせれば、一面に広がるのは、美しいターコイズブルーの海。

 海の深さは、膝丈程度。

 俺の足も水に漬かっているが、冷たくもなく、熱くもない。

 水平線は深い闇に遮られ見えないため、広さはわからない。

 空を見上げれば、闇の中に、同じくターコイズブルーの星々が輝き、世界を妖しく照らしている。



 メーアは、数十mほど離れた位置の水面に立っている。

「どうだね?美しいだろう?」

 メーアは、かなり自信ありげだ。

「ああ。」

 俺がそう返すと、メーアは、満足げに頷いた。

 確かに、この空間は、美しい。

 だが、空間には濃密な殺気が充満しており、決して、美しさを楽しむことはできない。


 すっ、とメーアが腕を振る。

 すると、周囲の水面から、無数の球体が、空中に浮かび上がる。

 

 やばい!


 そう感じた瞬間、思い切り身体を投げ出す。

 それとほぼ同時に、無数の球体から、大量の糸のようなものが飛び出す。

 その糸のうち何本かは、俺の元々いた場所にも展開されている。

「ほう。これを躱すか。」

 立ち上がり、周囲の状況を確認すれば、空中には多数の糸。

 糸は、よく見ると水でできており、星の光を反射して、きらきらと輝いている。

 

 その水の糸が、再び球体から射出された。

 

 躱そうと身体を動かそうとした瞬間、身体の動きが、急に制限された。

 体を見れば、先ほど身を投げ出した時に体に付着していた水からも糸が出ている。

 その糸は、周囲の水面に繋がっており、俺の身体を拘束している。


 力ずくで、糸を引きちぎる。

 糸はちぎれた。


 だが、迫りくる無数の糸を躱す時間は無くなった。


 全身の筋肉に力を込め、衝撃に備える。

 一拍置いて、下以外の全方向から、強い衝撃が身体に加わる。

 両足に力を入れ、その衝撃に耐える。

 横と上から、押しつぶすかのようなもの凄い力が掛かってくる。

 少し視線を巡らせれば、周囲に浮かぶ球体から、多数の水の糸が、俺に襲い掛かってきている。


 だめだ。このままでは、耐えきれない。

 ・・・・開放、2,000。

 開放を、倍に引き上げる。

 開放した力で、周囲の水の糸を押し返そうとする。


 少し、押し返せた瞬間、さらに、強い力が全周囲からかかってくる。

「ぐぅ・・・!」

 思わず、声が出る。

 開放、5,000。

 一気に、倍以上に力を引き上げる。

 

 体の奥から噴出した力は、全身を巡り、手足の先、指先まで充満する。

 開放1,000の時のように、威嚇のために外に少し漏らしたりはしない。

 そんな余裕はない。


 全身に力が廻った瞬間、身体がフッと軽くなる。

「よしっ!」

 一回、気合を入れる。

 そして、前進。

 目の前には、無数の水の糸が、俺の前進を阻もうと、襲い掛かってくる。

 一本一本の水の糸が、並の超人ならば、あっという間に串刺しにしてしまう威力をもっている。

 だが、俺の防御力を貫通することはできない。

 本来ならばこの水の糸は、相手を串刺しにして、八つ裂きにする技なのだろう。

 だが、俺の防御力を貫通できないので、圧力をかけるような状態になっていたようだ。


 俺は、まとわりついて動きを止めようとしてくる水や、襲い掛かってくる水の糸を無理やり粉砕し、メーアに迫る。

 途中、蒼硬に水がまとわりつく。

 だが、それも切り刻み、前に進む。

「むぅ、止まらんな。」

 メーアの声が聞こえる。

 メーアまでの距離は、あと10mほど。

 そこから一気に、メーアまでの距離を詰める。

 蒼硬を振られないようにか、蒼硬を持った右腕に、無数の水の糸が絡まってくる。

 今はチャンス。

 だが、無数の水の糸を千切って蒼硬を振るうのでは、少し、遅くなりすぎる。

 なので、愛剣を持っていない右手で、最短距離を辿って拳を突き出す。

 


 俺の拳は、メーアに、受け止められた。


 ??

 この拳を受け止められるほど、メーアは強くはないはずだが・・・?


「・・・強いとは思っていたが、ここまで通用しないとはな・・・。」

 メーアの驚愕の声。

 だが、台詞に反して、その声には、まだ、力がある。

「では、正真正銘、私の本気をお見せしよう!」

 




 その瞬間、ありとあらゆる方向から『視線』を感じた。


 気が付けば、足元の水は、無くなっている。

 

 周囲を漂う球体には、いつの間にか、瞳、がある。



 全ての球体から、メーアに、濃密なエネルギーが、流れ込んでいる。

「・・・さて。この形態を見せたのは、メタルが初めてだな。」

 メーアから、異様なまでの威圧感を感じる。

「疑似的に、眼球を増やした・・・?」

 思わず、呟く。

 すると、メーアは俺の声に反応する。

「すでに把握したか。流石だな。」

 メーアは、疑似的に眼球数を大量に増やした。

 それは、眼球数が力に直結するフローティングアイにとって、反則に近い技である。

 それにより手に入れた力で、俺の拳を受け止めたようだ。


 メーアの力が、不自然なまでに膨れ上がっていく。

 疑似的に増えた眼球が、異様なまでにエネルギーを生み出しているのだ。

 あまりのエネルギーの濃さに、メーアの周囲の空間が、歪んで見える。


 

「さて、見てもらおうか。これが、私の、最高の一撃だ。」

 そう言うと、メーアの眼球に、エネルギーが流れ込んでいく。

 今から放たれるのは、メーアの、全てをかけた一撃。

 今回の戦いは、メーアの力試しだ。

 ならば、俺は、受け止めなければなるまい。

「よし、受け止めよう。思う存分撃って来い!」

 両足を広げ、腰を落とす。

「開放、10万。」

 受け止めたときに力負けしないように、開放を跳ね上げる。

 全身に、はち切れんばかりの力が充ちる。

「さあ、来い!」



 俺の声と同時に、メーアが目を見開く。

 そこから、極彩色に見える光線が、放たれる。

 実際は極彩色ではない。 

 あまりのエネルギーに空間が歪み、本来見えない色が見えているだけなのだ。


 その光線、いや、エネルギー波は、思ったよりも細い。

 俺の身長くらいか。

 だが、内包するエネルギーは、恐ろしいレベルだ。

 あまりのエネルギーに、周囲の空間すら切り裂きながら、迫ってくる。


 俺は、全身に力を巡らせ、両手を前に突き出し、そのエネルギー波を、受け止める。

 受け止めた瞬間、大地を割るほどの衝撃が襲い掛かってきた。

 この威力を周囲に逃がしてはいけない。

 下手したら、大陸が割れる。

「ぐ・・・・ぅおおお!?」

 思わず、叫ぶ。

 素晴らしい威力だ。

 小さな星程度ならば、破壊できるほどのエネルギー量である。

 どうにか、俺の筋肉だけで受け止め、周囲に影響が出ないようにする。

 

 数秒後、エネルギー波は、止まった。


 受け止めた両腕が、痛い。

 ダメージだ。

 ダメージを受けた。

 この旅で初めて、正攻法で明確なダメージを受けた。


 エネルギー波を放ったメーアは、固まっている。 

 気が付けば、周囲の空間は、元に戻っている。


 ターコイズブルーの海は枯れ、漆黒の星空もない。

 周囲には、戦いで荒れた大地と、さわやかな青空が広がっている。


 メーアは、ポツリと、言う。

「わかっていたとはいえ、ここまで通用しないと、少し、落ち込むな。」

 そのメーアに、俺は、言葉を返す。

「・・・流石。痛かった、ぜ。」

 俺がそう言うと、メーアは、ハッとした顔をする。

「痛かった・・・?ダメージが通ったのか?」

 その言葉に、俺は頷く。

「ああ、しっかり、ダメージを受けたよ。良い一撃だった。」

 

 その言葉に、メーアは目を閉じ、一筋、涙を流す。

「・・・ああ。私も、強く、なったのだな。」

 メーアの攻撃は、初めて、俺にダメージを与えたのだ。


 よほど嬉しかったのだろう。

 メーアは、そのまま目を閉じ、しばらくの間、余韻に浸っていたのだった。


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