表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第5章
103/208

第23話 メーアの力


「エミーリアとやら。力には、興味がないか?」



 メーアがそう言った時、エミーリアの眼が、少し、輝いた。

 興味がないはずなどない。

 エミーリアは、強くなるため、力を手に入れるために旅をしてきたのだ。

「・・・どういうこと?」

 だが、エミーリアは、用心深い。

 素直に頷きはしない。

「私の力を、貴女に譲りたいのだ。」

 あまりにも都合のいい話に、エミーリアは訝し気な表情になる。

 まあ、当然の反応だろう。

 古今東西、唐突に力を譲られるのは、トラブルの前兆であることが多い。

 

 訝し気なエミーリアに、メーアは事情を説明する。

 その話を聴くうちに、エミーリアも納得したような表情に変化していく。


 俺は、力を譲渡する内容について、エミーリアとメーアの会話を聴いていた。

 エミーリアにとって不利な条件などもないようだ。

 理不尽な要求もない。 

 ただ、力を手放したいメーアが、力が欲しいエミーリアに力を譲る、だけの話である。

 互いの目的が一致しているため、話は、トントン拍子に進んでいく。


 20分ほど話した結果、エミーリアは納得し、メーアから力を受け取ることにした。

「わかった。力はもらう。どうすればいい?」

 エミーリアが、メーアに問う。

 力が手に入るとわかり、だいぶ前のめりな感じだ。

「まあ、少し待て。」

 メーアは、前のめりなエミーリアを制止する。

 そして、メーアが、俺の方を向く。


「エミーリアとの話はついた。さて。メタル。」

 ?

 改まって、なんだろうか?

「ひとつ、手合わせをしてくれないか?」

 あれ?

 メーアは、さっき、俺には敵わないとか、言っていなかっただろうか?

 なんだか、戦わなくてもよい雰囲気じゃなかっただろうか?

「え?なんで?」

 思わず問い返すと、メーアは、言う。

「メタルに勝てないことは、『見れ』ばわかる。」

 その表情には、好戦的な笑みが浮かぶ。

「だが、今の私が、果たしてどこまで通用するかは、やってみたいのだよ。」


 その言葉と共に、メーアの両目と、浮遊する10の眼球が、全て、俺の方を向く。


 ふと気がつく。

 メーアの瞳は、美しく深い、ターコイズブルーをしている。


 それら全ての眼から、計り知れない圧倒的な力を感じる。

 その力に、思わず、身体が震える。


 いいじゃないか。

 受けて立とう。


*****


 戦う前に、俺とメーア以外は、少し離れたところに退避することとなった。

 俺たちのパーティでは、唯一、リールのみが、防御に徹すれば、まだ生き残ることはできるかもしれない。

 だが、リール以外の討伐隊の皆も、メーアの配下のフローティングアイ達も、巻き込まれて無事に済む者はいない。

 リールも、防御に徹すれば倒されないだけで、戦力になるわけでもない。

 退避し、流れ弾を防ぐことに専念してもらうことにした。

 討伐隊とフローティングアイ達が同じ場所に身を寄せ合っているのは、少し、面白い光景だ。


 俺とメーアは、100mほど離れて、対峙している。


「よし、皆は退避したな。」

 メーアが、言う。

 遠いが、問題なく声は聞こえる。

「メタルよ、準備は良いか?」

 その声と共に、全ての眼が、俺を見据える。

 俺は、愛剣『蒼硬』を抜き、構える。

「蒼硬、起きて。」

 俺の声に、蒼硬が、少し、震える。

 そして、気だるげな女性の声がする。

「んぁ?・・・ああ、敵ね。」

 愛剣である蒼硬は、意思を持つ剣だ。

 俺とは、とても長い付き合いの相棒である。

 いずれ、蒼硬のことも、エミーリアには教えなければいけない。

 だが、今は、戦闘に集中だ。

「ああ、その剣も、懐かしいな。」

 メーアが言う。

 蒼硬との付き合いは、長い。

 前回メーアと戦った時も、既に愛剣だったのだ。

 蒼硬を構え、呟く。


「開放、1000。」

 

 体の奥底から、力が溢れ出してくる。

 その力は、一瞬にして全身を駆け巡り、指先まで満ちる。

 そのまま抑え込むこともできるが、あえて、体外に少し力を放出する。

 まあ、戦闘前の威嚇のようなものだ。

 そして、すぐに力を体内に抑え込む。 

 その様を見たメーアが、呆れたように呟く。

「・・・いつ見ても、凄まじい力と、その制御だな。」

 そのメーアの言葉をあえて無視し、言う。

「準備いいよ。」

 すると、メーアの雰囲気が、変わる。

 


「さて、始めるとするか。」



 メーアの言葉と同時に、視界を、真っ白な光が埋め尽くす。

 メーアが、全ての眼から、光線を放ったのだ。

 8眼のフローティングアイが放った光線魔術が、児戯に思えるほどの、高出力な光線。

 魔術というよりも、雑に魔力を垂れ流しただけにも見える。

 その魔力の奔流に向けて、蒼硬を横薙ぎで一振り。

 真っ白な魔力の流れに切れ目が生まれるので、その切れ目に飛び込む。

 目の前にとめどなく迸ってくる真っ白な魔力を、蒼硬で切り伏せながら、前進する。

「相変わらず、頭がおかしいな!?」

 メーアの叫びが聞こえる。

 その瞬間、周囲から魔力の奔流が無くなる。

 

 足元に嫌な予感がして、前に跳ぶ。

 すると、俺が立っていた場所を中心に、半径10mほどの太さで、光の柱が天高く立ち上がる。

 地面には、簡単な魔法陣。

 先ほど、雑に魔力を垂れ流していたように見えて、地面に魔法陣を作っていたようだ。

 回避した俺に向けて、10の瞳から、光線が放たれる。

 さらに、先ほど発生した光の柱から、無数の光弾が周囲に放たれ始める。

 前後から圧殺しようという魂胆なようだ。

 まず、前方から迫る光線を、前進しながら潜り抜けて躱す。

 そして、背後から襲い掛かってくる光弾を、蒼硬で弾く。

 光弾の威力は低い。

 これは、無視してもいいかもしれない。

 

 8眼のフローティングアイの戦いを見ても思ったが、フローティングアイの戦い方は、ワンパターンだ。

 眼球から光線を放つくらいしか、大技がない。

 メーアは、先ほどの光の柱を作り出す技も使ったが、直撃しなければ大した威力ではない。

 このまま順当に攻めれば、勝てる。

 

 ・・・そう思わせたいのだろう。


 ずっと、視界を塞ぐ白い光線のみを撃っているのは、目くらましか。

 先ほどの光の柱の魔術も、ブラフだろう。

 全ての技が、12眼のフローティングアイとしては、弱すぎる。


 12眼のフローティングアイの強さは、こんなものではないはずだ。

 少なくとも、今、攻撃を捌き続けているが、『たった』1,000程度の開放で、捌き続けられていること自体が、おかしいのだ。



「ふむ、読まれているか。」


 メーアの声が、妙に大きく聞こえる。

「だが、既に、貴様は捕らえられている。」


 唐突に、襲い掛かってきていた光線が、止まる。

 背後にあった光の柱も、もう、ない。


 周囲を、確認する。


「・・・ほう。」

 思わず、声が出る。


 認識した瞬間、世界が、塗り替わった。 

 視界一面に広がるのは、美しく、ターコイズブルーの海。

 深さは、膝丈程度。

 広さは無限で、水平線は、深い闇に遮られ、見えない。

 闇の中に、同じくターコイズブルーの星々が輝き、世界を妖しく照らしている。


 退避しているはずの討伐隊の皆も見当たらなければ、フローティングアイ達も、いなくなっている。

 討伐隊の中では、唯一、エミーリアだけが、同じ空間の遠く離れた場所にいる。

 エミーリアは、突如として変化した空間に、驚いたような表情をして、きょろきょろしている。


 ターコイズブルーの空間にいるのは、俺とメーア、そしてエミーリアだけだ。


 メーアは、芝居がかった動作で、両手を広げて、言う。


「ようこそ、我が眼底の世界、涙の海へ。」


 俺は、いつの間にか、メーアの作り出した世界に、飲み込まれていたのだった。 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ