第22話 眼の数
メーアの事情は分かった。
メーアは、自身の力の後継者を作り出そうとしていたのだ。
「さて。私の事情は話した。」
メーアの表情が険しくなる。
「では、私が苦労して作った群れを壊滅させた理由を聴こうか。」
こちらと敵対する意図はないとはいえ、それなりに怒りは感じているようである。
それもそうだ。
時間をかけて作り上げた群れを潰されたのだから。
隠していても、仕方がない。
俺は、なぜ、ここに来たのかを正直に説明することにした。
第14前進都市への3つの陸路が遮断されたこと。
そのうちの一つをフローティングアイが塞いでいたこと。
そして、当初は7眼のフローティングアイが群れの長だと考えられていたこと、など。
話していくうちに、最初は険しかったメーアの表情は、次第に呆れ顔に変わっていった。
「7眼の群れが、陸路を塞いでいた・・・だと?」
メーアの、ヒト型部分を除いた全ての眼が、ある一方向を向いた。
「逃げられると、思うなよ?」
巨大な眼球が、青白く光り、淡く力を纏う。
すると、先ほどの戦いでリールにやられた後、丘の陰に隠れていた7眼と8眼のフローティングアイが、浮かび上がってくる。
7眼と8眼のフローティングアイは、青白く光っているということは、メーアに持ち上げられているのだろう。
メーアの表情には、今度は、怒りが浮かんでいる。
「なあ、私は、文明圏とその関係する場所には、手を出すなと言っておいたよな?」
声色は、低く、恐ろしい。
「ここの陸路も、手を出すなと言っていたはずだ。」
メーアの言葉に、7眼と8眼のフローティングアイは、震えあがっている。
「なぜ、手を出した?理由を、聴こうか。」
一応、理由は聴くらしい。
「この場所ならば、強者がよく来るので、より早く、強くなれるかと・・・。」
8眼のうち、傷の浅い方がそう答えた。
その答えに、メーアは、呆れ果てた表情を浮かべる。
「・・・それで、上位者からの言いつけを破っては、どうにもならないだろうに・・・。これだから、眼数が少ない奴らは・・・。」
その声色は、怒りと呆れを通り越して、失望すら感じられるものだった。
メーアは、こちらを振り向くと、申し訳なさそうに言う。
「うちのモノが、そちらに迷惑をかけたようだ。さらに、その尻拭いまでやってもらってしまったようで、申し訳ない・・・。」
なんだか、見ているこっちが申し訳なるくらいの縮こまり具合である。
メーアの眼が、怪我人を治療している装甲車側に向く。
「そちらにも、被害を出してしまった。重ね重ね、申し訳な・・・。」
そんなメーアの言葉と視線が、一点を見つめたまま、固まった。
「・・・なあ、メタルよ。」
なんだか、愕然としたような声だ。
・・・先ほどから、ころころと表情がよく変わる。
「あそこにいる娘は、メタルの知り合いか?」
はて?
誰のことだろうか?
「とぼけるな。あそこで、怪我人を治療している、たくさんいる娘だ。」
そう言うメーアは、装甲車を指し示す。
そこには、作太郎と協力しながら、リピとリトヴァ、コロ、ヴァシリーサをかいがいしく治療しているエミーリアがいた。
最初は5人程度で治療していたようだが、今では、怪我人一人につき二人ずつで、計8人のエミーリアが治療している。
「え?知り合いだけど、どうしたの?」
メーアは、呆然とエミーリアを見つめている。
「素晴らしい!」
突如、メーアが叫んだ。
「うお!?」
思わず、驚きの声を上げてしまった。
あまりの豹変ぶりに、少し怖い。
「今見えているだけでも、あの娘は、16眼に達しているではないか!」
メーアはさらに言葉を続ける。
「しかも、なぜかは知らんが、内部はほぼガランドウときた!我が力も受け入れられるのでは?」
なんと。
どうやら、メーア的に、エミーリアは自分の力を譲るにあたって、お眼鏡にかなうようだ。
あまりのメーアの興奮具合に反応できないでいると、メーアに吊り上げられたままになっている傷ついた8眼のフローティングアイが、声を上げた。
「そ・・・そんな・・・。同族ですらない相手に・・・。」
その声に、メーアがぎろりとその8眼を睨みつける。
「・・・貴様、言いつけを守ることができないばかりか、目の数すら劣るのに、何を言っている?」
目の数は、そんなに重要なのだろうか?
そう思ったが、目の数すら劣る、と言われた8眼のフローティングアイは、完全にうなだれてしまった。
「・・・そう・・・ですな・・・。やはり、目の数で劣っては・・・。っく・・・。」
目の数は、どうやらフローティングアイ的にはだいぶ重要なようだ。
「ということでだ、メタル。あの娘と話をさせてもらっても、構わんか?」
そう言うメーアの表情は、キラッキラしている。
「何が、ということで、なのかはわからないけど、話すだけならいいよ。」
俺の言葉に、メーアが早速エミーリアの下に向かおうとする。
それを、俺は肩を掴んで止める。
「まあ待て、話すのはいいが、俺も立ち会うぞ。」
「なに?・・・まあ、いいだろう。」
メーアの力は、非常に強い。
エミーリアでは、到底敵わない。
メーアが、嫌がるエミーリアに力ずくでなにかをしないよう、立ち会わなければいけない。
*****
数分後。
「・・・・・。」
いつもどおり無表情で、しかし、その中にも警戒をにじませて立っているのは、エミーリア。
その数は、51。
エミーリアの力も大きくなり、その総数は59人まで増えている。
8人を治療に残しつつ、残るはメーアとの会談に出てきたのだ。
「お・・・おぉぉ・・・!」
その光景に打ち震えているのは、メーア。
フローティングアイ的には、エミーリアは118眼のフローティングアイに並ぶ存在として見えているのだ。
「た・・・確かに、この目の数では、敵わぬ・・・。」
メーアの後ろに控え、エミーリアに圧倒されているのは、7眼と8眼のフローティングアイ。
目の数は、本当に重要なようだ。
「で?話って何?」
そこに立ち会うのは俺。
エミーリアの意思に反してメーアが何かしないか、目を光らせる。
「そうだな。単刀直入に言おう。」
「エミーリアとやら。力には、興味がないか?」
メーアがそう言った時、エミーリアの眼が、少し、輝いた。




