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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第5章
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第21話 12眼のフローティングアイ

皆さま、お久しぶりです。

プライベートも落ち着いてきましたので、更新を再開します。

今後ともよろしくお願いいたします。

「目が一つ増えたか?」

 俺がそう言うと、そのヒト型の何かは、にぃ、と笑う。

「ああ、増えたとも。」

 

 そう言うヒト型の何かの周囲に浮かんでいる眼球は、10個。

 1個1個は、10㎝ほどの大きさだ。

 そして、10個の眼を携えたヒト型部分が、目を開く。


 その瞬間、凄まじいプレッシャーが迸る。


 ヒト型部分についている二つの眼球と合わせて、12眼。

 正真正銘、最強のフローティングアイが、そこにいた。


 

*****

 

「・・・流石だな。膝をつかない者が、二人もいるとは。」

 12眼のフローティングアイの言葉に、周囲を見る。

 すると、皆、プレッシャーに耐えることができず、膝をついたり、地面に伏せたりしている。

 その中で立っているのは、俺と、リールの二人だ。

 リールは、立っているだけでやっとなようだが、どうにか膝をつかずにこらえている。

「ふむ。皆、膝をついたとしても、諦めてはいないようだ。良い表情をしている。」

 全員を見渡し、12眼のフローティングアイは満足そうに頷く。

「強き者どもよ。我が名はメーア。フローティングアイのメーアだ。以後、お見知りおきを。」

 12眼のフローティングアイ改めメーアは、芝居がかった動作で大きくお辞儀をする。

 そして、俺の方に向き直ると、話を進める。

「ところで、私の動作はおかしくはないかね?ヒト型の部分を作ってから、まだ300年だ。慣れていないのでね。」

 そう言いながら、両手を広げて見せる。

 それは、300年前に見た、まだ11眼だった時と比べ、かなりスムーズだ。

「だいぶスムーズな動きになったな。」

 そう言うと、メーアは、笑みを浮かべる。

「そうか。そうか。まあ、お前がそう言うならば、そうなのだろうな。」

 嬉しそうである。

 

 メーアは、両手を広げたり、くるりと回ったりと、動く。

「そうか、自然か。ふふ、嬉しいものだな。」


 ひとしきり動いた後、こちらに向き直る。

 その表情は、先ほどと違って、少し、真剣だ。

「今回お前を見て、お前に挑み続けた過去の私が、いかに愚かだったか、わかったよ。」

 そう言うメーアの声色には、どことなく諦観が混じっている。 

「12眼になって、ようやく、お前が隠している力が、見えた。」


 ・・・そうか。

 見えたか。


 俺は、見えた、と言われたので、より体の深いところに、力を隠す。

「お?見えなくなったな・・・。『見る』ことが専門のフローティングアイ相手に、しかも、12眼たるこの私でも見えないようにできるとは・・・。恐ろしいものだ。」

 メーアは、両手を小さく挙げる。

「降参だ、降参。それほどの力、どのように手に入れたかは知らぬが、勝てぬ戦いを挑むほど、私も若くはない。」

 その瞬間、放たれていたプレッシャーが霧散する。

 プレッシャーが無くなり、皆が、立ち上がる。

 あまりにもあっさりと降参したメーアを訝し気に見つめると、メーアは、焦ったような表情をする。

「お・・・おや?両手を上げるのは降参ではなかったか?文化には疎くてな・・・。」

「いや、降参でいいよ。」

 俺がそう言うと、メーアは、嬉しそうな表情を浮かべた。

「そうか、間違ってはいなかったか。戦う意思がないことをわかってくれて、嬉しい。」

 メーアは、言葉を続ける。

「だが、私がそれなりに苦労して作った群れを崩壊させたのだ。何か目的があるのだろう?」

 目的か。

 むしろ、俺としては、メーアの目的を知りたい。

「それよりも、お前は、なんで今更群れを作ったんだ?あんなに同族を嫌っていただろうに。」

 

 メーアは、昔から、同族を嫌っていた。

 今よりも眼球が少ない頃から、同族よりもはるかに知能が高かったメーアには、本能的に生きる同族が、とても愚かで刹那的に見えてしまったのだ。

 

 俺がそう訊くと、メーアは、少し、諦めたような表情をして、言う。

「いや・・・。そろそろ、我が力を託す先を探そうと思ってな。」

 力を託す・・・?

「どういうことだ?」


 そう訊くと、メーアは、説明をしてくれた。


 そもそも、メーアは、辺境に住み続けたいわけではないそうだ。

 文明圏に昔から憧れ、7眼の時に文明圏に住めないか画策もした。

 しかし、7眼以上のフローティングアイでは、体格が巨大すぎ、当時の文明圏に住むことが叶わなかったのだ。

 そこで、どうにか眼球を小さくしようと、さまざまな修行を行ったのだという。

 その結果、メーアの力はさらに強まり、眼球の個数は増え、サイズは大きくなっていった。

 眼球を小さくしようとヒト型部分を作り、狭い頭部に眼球を押し込んだりもしてみたが、ヒト型に入れた眼球は小さくなったが、それ以外は巨大なままだった。

「11眼の時に、私は悟った。このままでは、ただ、巨大化していくと。」

 そこで、11眼の時、全力で戦い、力を放出しきれば眼球も小さくなると思い、今まで何度か戦っても勝てなかった俺に再び勝負を挑んだそうである。

 その結果は、失敗。

 全力で戦っても、俺には勝てないし、力も小さくはならなかった。

 そこで、新たなアプローチとして、今の力は別の個体に引き継いで、自分の力を小さくすることを思いついたのだという。


「それ故、群れを作り、眼球の多い同族を育てていたのだよ。」

 なるほど。

 やっていることはわかる。

 だが、納得できないことがある。

 今、目の前にいるメーアの周囲を漂う眼球は、せいぜい10㎝程度と、小さい。

 これならば、文明圏に住んでも、問題はないだろう。

「今でも十分眼球は小さく見えるけど・・・?」

 俺が思っていることと同じことを、リールが言う。

 すると、メーアは、言う。

「今は、頑張って小さくしているからな。」

 メーアがそう言うと、メーアの周囲の眼球が、俺たちから離れるように飛んでいく。

「この大きさでは、30分も持たないのだ。」


 眼球は、遠くに飛んでいく。

 遠くに飛んで行っているのに、目に映る大きさは、小さくならない。

 むしろ、大きくなっている。


 8眼のフローティングアイでも7~8mほどのサイズがあった眼球は、12眼のフローティングアイともなれば、相当に巨大なようだ。

 眼球1個1個の大きさは直径50m程になり、それぞれが高層建築物のようだ。


 その眼球たちを背に、メーアが、自嘲気味に言う。

「普段はこんなサイズなのだ。これでは、文明圏で生活するのは、相当に不便だろう?」


 確かに、このサイズでは、文明圏で生活するにしても、相当窮屈かもしれない・・・。

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