第四章、真夜中の光
小雪ちゃんの泣き顔を目の前に、俺はびっくりした。悪いことを言ってしまったのでないかと思い必死にあやまった。
「小雪ちゃんん、悪い気さしてしもうたかな・・・?ほんまにごめん。小雪ちゃんのためになんか言うてあげてかって。」
涙でほほを濡らした小雪ちゃんがこっちを向いて、
「ありがとう・・・。ほんなこというてくれたん初めてじゃよ。ほんまにありがとう。」
よかった、おれはそう思った。喜んでくれてるんだって。おれの些細なひと言で少し笑顔も見せてくれた。
「毎日自分でもなんでかはわからんけんど、気分が落ち込むん。毎日毎日。朝目が覚めても毎朝悲しい気持になって朝起きるのが怖い。起きてたら悲しいことばっかり考えてしまうから、カーテンも全部閉めきって光を閉ざすの。朝はみんなに平等にくるのに、自分の中に朝を迎えたくない、逃げてるの。」
小雪ちゃんの涙は止まりかけていたが、またあふれてきそうだ。
「悲しい気持ちになるってたとえばどんなことを考えてしまうん?」
慎重に、小雪ちゃんをなだめるようにおれはたずねた。
「本当にいろんなこと。考えても仕方のないようなことまで考えてしまうんよ。十二色の絵具を一気ににぐちゃまぜにしたみたい。ある時自分で気付いてしまったの。自分は世の中の流れに乗り切れてないのかもって。世の中に自分だけ取り残されてているような気がしてその世の中の流れに乗り切れていない自分が悪いんでないんかと思って。」
スーッとひんやりした風が二人を通りぬけていった。一緒に桜の枝もゆっくりゆれた。
「それから、だんだん友達付き合いができんようになってしもうてね。はじめは何でそんなこと考えてしまうんだろうって思って、聞いてくれる友達に話して聞いてもらってたん。でもだんだんもみんな困っていくことに気付いてしもうたら、相手にもうし訳ない気がしてきて。一緒に遊んでても暗かったらみんな気つかうでしょ?ほなけん今は家族とも友達とも距離をおいている。」
「こんな若い子女の子がそんなことを考えてるなんて晃は信じられなかった。俺考えてこたなかった。確か小雪ちゃんはおれの九つ年下やから二十歳だったよな?おれが二十歳の時は友達と何して遊ぼうかなって考えたり、その時楽しかったらいいみたいな考えだたよな。あまりにも違いすぎる考え。
「今は知り合いの紹介で治るかどうかわからんけんど、メンタルクリニックに通って様子をみよるよ。今はこんな感じ。」
彼女は少しにっこりしていった。
「ゆっくりでいいからこれから元気になれるように一緒に考えよう。」
小雪ちゃんは少し驚いたように
「晃ちゃんはがんばれって言わなんだね。」
「当たり前じゃん。十分がんばって考えながら生きてるんやから。」
こういったときはネットで見たぞ。「がんばれ」っていっちゃいかんということを。かなり相手の負担になるらしからな。
「番号とアドレスまだ教えてなかったね、赤外線しょうっか?」
「うん。晃ちゃんならいいかな。最初は変な人かと思ってたけど。」
「やっぱし??笑」
小雪ちゃんから笑顔があふれた。そして両国橋の上で今夜は二人笑顔で別れた。