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LION HEART  作者: 峰 牡丹
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第一章、夜桜

 ひんやりとした風がゆっくりほほをなでていく。徳島の夜の街は一部の飲み屋街がにぎやかなだけで、テレビで不景気不景気と言っているだけあって、ほとんど人は歩いていない。

 徳島で一番盛り上がり活気があるのは、はっきりいってお盆の阿波踊りの四日間だけである。芸能人や有名人などが毎年踊りこんでくる。

「踊る阿呆にみる阿呆、同じ阿呆ならおどらなそんそん」小さな子どもからお年寄りまで盛り上がるゆいつの恒例行事。そんな熱気なんて感じさせないくらい、静まり返っている冬の徳島の街。

 おれ、森下晃。ワインストアの仕事を手伝って半年ほどたった。やっと馴れた仕事。、親戚に頼まれ、手伝うはめになってしまったのだった。

 もともとお酒は好きなほうだから苦ではない。ここのお店はワインの種類が半端なく多い。

 徳島でも有数の有名なワインから、レアもの、ちょっとマニアックなもの。ワインに合うおすすめチーズなどなど・・・。徳島でワインを買うなら自分で言うのもなんだが、うちの店はけっこうおすすめだ

 お客様に合ったワインを選ぶ自信はままあると思う。

「晃ちゃんお疲れ様。遅くなってごめんね。もう上がっていいわよ。」

 おばちゃんがすまなさそうにいった。

 いつもより終わるのが遅くなってしまったからだ。急に届けてほしいワインがあるらしくどうしても僕じゃないとだめだというお客様の要望だったためだ。いつもより遅い帰り道。

 ーそういや、あそこの桜は早咲きだったよな?ー

 なんとなく思い出したので晃は、両国橋の公園向ってみた。橋といっても両国橋は少し短め。新町川にかかっている。徳島の夜の飲み屋街への小さな掛け橋だ。

「やっぱり誰も歩いてないなあ。桜独り占め?笑」

 と思っていたがよく見ると先約がいた。

 両国の早咲きの下で、まっすぐ前を向いて何かをしていている人がいる。ちょうど僕は両国橋の上にいたのでこの距離では何をしているのいかが全く分からない。唯一分かるのは、新町川をさみしそうに眺め、さっと立ち去っていっていく姿だけ。

 ーこんな時間にあの人人何しよったんだろう。ー

「ま、ええかそんなこと。」

 さっきその人が座っていたベンチに腰かけてお気に入りの銀河高原ビールを片手に夜空を見上げた。今晩はよく晴れているので、けっこうきれいに星空が見える。

 

 ますぐ家に直行することはめったにない。家のものからするとぼくはけっこうな変わりものらしく、周りからはかわっためでみられていたらしい。

 高校三年生の時、周りのみんなが卒業前の忙しいばたばたしているとき、ちょうど車の免許をとったとき、アルバイトで自分なりにめいっぱいためておいた貯金で小さな車を買った。で、

「ちょっと出かけてくるわ。」

 と母親に言い残したまま一か月その小さな車で高知県の海岸ですごしていた。もちろん毛布もつんで。母親は呆れていたのをおぼえている。

 自分がこうと思うとそれがよしやし関係なく一直線。周りの有ことなんて関係ない。そんなんきこえへん。 といういきかたをかれこれ28年間してきたから。

 家族には大変な迷惑もかけたのは間違いない。

「よし、明日もがんばるか。」

 一週間後。

 たまたま友達の飲み会に誘われていて、街に飲みに来ていた。

 高校からの大の仲良し。おれ、寛、慎この三人が揃えば怖いものなし!みたいなところがあったかな。うんうん。

 今の本業をどう軌道にのせるか、最近のお互いの近況報告を含めおの場ので盛り上がる盛り上がる。

 四へんぐらい店をハシゴをして飲み歩いた。ふっと両国橋ので、阿波踊りのお囃子の笛の音が聞こえてきた。

 おれはなんか無償に気になった。なんか気になった。気になったというか興味を持ったってところかな。気付けばもうお開きにするにはいい時間だったし。

 二人に背中を向けて、手を振りながら、

「ほななぁー」

二人は同時に、

「へぇ?」

かなり酔いつぶれていた慎を寛にまかしてその場を後にした。そしていそいそと公園へ向かった。

 黒い編み上げのブーツにジーパンをインしてグレーのコートを着ている髪の長い女の子が夜桜の下で座っていた。

 その子はじっと新町川を眺め少しさみしげだった。

 近くにいってみようかどうか晃は悩んだ。ちょっとこんな時間に一人でこんなところにいる女の子。まー気軽にいってみよっつ。うんうん。

 と、そうこうしているうちに、彼女は和風の細い布袋から細長い物を取り出した。

 するとさっきまで猫背気味だった彼女の背中が、すっとまっすぐに伸びたのがわかった。聞いたことのあるメロディ。

 ーああ桜だー

 すこしたどたどしいが確かに桜だ。それも横笛で吹いているようだ。生で笛の音を聞いたのは初めてだった。阿波踊りのお囃子ぐらいは聞いたことはあるが・・・。

 と今度は阿波踊りのお囃子を弾き始めた。くり返しくり返したどたどしいが、吹いていた。途中息が続かなかったり、とぎれとぎれだが、彼女は真剣だった。いつも聞いているお囃子の音は太鼓、お三味、お笛のにぎやかなノリだ。

 しかし笛だけの独奏とゆうのは、なんとものびやかで優しく、ときには力強さ吹き方でいろいろな表現ができるようだ。

 笛の音色はしっかりおれの心に響いてしまった。

 真冬だけあって阿波踊りの音色なんて静かな町全体に響きわたるんじゃないかと思うほどひとりで力いっぱい吹き続けていた。

 通りすがりの人はちらちらと見ていたが。街全体元気がないせいか、なんかしけた顔している。

 若いのに横笛?たいがいは路上ではギターの弾き語りがほとんど。まさか横笛とは・・・。 ふとした瞬間彼女と目があった。よし、彼女の近くに行けるチャンス!

「冬のお囃子ってなんかいいね。」

「・・・」

 三秒ほど目はあったけれど、彼女はすぐに目線を外した。

 ーこの子はひとみしりなのかな?ー

 かなりポジティブな俺は返事がってこないことはあまり気にならなかった。が、相手からするとかなりあやしいい男に思われてもしかたがあるまい。

「ほれって阿波踊りの笛?」

 彼女はうつむいたままうなずいた。かなりあやしい目で見つめてきた」。

「阿波踊り好きなん?どっかの連にはいっとん?」

 彼女は首を横に軽く振った。

「君やっぱり人見知りなんやな!。徳島の子やろ?おんなじ徳島同士仲ようしょうや。 あ、別にナンパとかそんなんでないんでよ。」

「・・・」

「俺は森下晃。晃ちゃんでええよ。近くのワイン屋手伝い寄るんよ。君は?」

「・・・、小雪、真杉小雪。」

 やっと声が聞けた。ってかやっとしゃべった。

 彼女は黒っぽいストレートのロングヘアで、暗くてよくは分からないが、肌の色も白っぽい気がする。

「小雪ちゃんかぁー、もう話もできるようになったけん、友達やな 笑 小雪ちゃんは仕事何してんの?」

「あたしは喫茶店で働きょるん。」

 少しだけだが、彼女がほほ笑んだ気がした。

「笑ったら結構かわいいで。」

「・・・そんなことないよ。自分のいいとこやどこにもないし。」

 おお、ちょっとマイナス思考?

「笛よかったよ。生で笛だけって聞いたことなかったから、めっちゃしんせんだった。阿波人なのにね。」

「そんな気使わんでもいいです。」

 おおお?かかなりマイナス思考やなこれは。

「もっと吹いて吹いて!」

「じゃあ・・・あと一曲だけ。」

 と、猫背ぎみだった背中がすっと伸び、笛を唇にあてた。吹いているときはさっきとはまるで別人のようになる。

 吹き終えると彼女はすぐに笛をつまえ帰る準備をしだした。

「もういぬん?」

「うん、そろそろ帰らんと。明日も仕事やし。」

「なんか小雪ちゃん心に重たいものを抱えてる気がする。こんなにきれいな笛吹けるのに顔が元気がない気がする。」

「・・・」

「来週もこの桜の下のベンチで待っとるけん。笛また聞かしてな。あとおれでよかったら話ぐらいだったら聞けるよ。人に話すだけで大分違うと思う。仲良しの友達に話すより案外はなししやすいかもよ。」

彼女は表情を変えることなくこっくりとうなずいた。

 彼女と別れて両国橋を渡り愛車のビュートを止めている駐車場までゆっくりあるいていた。なんか男の俺が言うのもなんだが、心が浮かれているような気がする。

「やっとさーやっとやっと。私の心も浮いてきた。浮いた心は阿波踊り。あ、やっとさー、やっとやっと。なーんつって。」

あんまり変な表現だが、毎週火曜日が楽しみになったのは間違い。これは恋心なのか友達心なのかは分からないが、両国橋をスキップで渡っている姿は周りからはかなりの不審人物のように映っていただろう。橋のたもとの交番のお巡りさんも冷たい視線。

 いいんじゃいいんじゃ。はよう来週こんかいな。

 

 

 

 

 


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