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ゴブリン退治のクエストが始まる。

当たり前だけど、ボクらは苦戦しなかった。何しろ相手がゴブリンだ。上位種は多かったけど、彼らを手ごわく感じるのは一般的な騎士や冒険者の場合だ。ボクのレベルは63。その上、数々のチート能力で徹底的に強化されている。もはやゴブリン程度に負ける理由を探す方が難しい。

正直、クリア後のエクストラダンジョンとしては物足りないくらい。はっきり言ってお遊び用のボーナスステージみたいなもんだ。


「さすがはキヨハルだね♪」

「さすがはキヨハル様♪」


一刀のもとにゴブリンジェネラルを切り捨てたボクに、ニーナとリンネが口々に称賛する。いつものことだが、褒められるってのは何度言われても気分がいいもんだ。

まぁ、だからと言って戦闘中に気を抜きすぎても駄目だけどね。


「とは言っても、さすがにここまで手ごたえがないと味気ないかな?」

「キヨハル様の相手になる敵なんて、もうどこにもいませんわ」

「キヨハルは最強の戦士だもんな」

「そうだね……」


ボクは勇者で、S級冒険者で、最強の戦士だ。

もうボクに勝てる敵なんてどこにもいないのかもしれない。

だから……


「ねぇ、リンネ、ニーナ」

「何だ?」

「何でしょうか?」

「この戦いが終わったら、みんなでフォーラ王国に行ってみないか?」

「フォーラ王国って?……ああ、この前の吟遊詩人の詩に出てきた国か」

「すごく遠い国ですわよね?」

「嫌……かな?」

「まさか」

「どこまでもお供しますわ」

「ありがとう」


突然メチャクチャ遠い国に行ってみたいなんて、とんでもない要望にあっさり同意してくれる二人に感謝する。


「それにしてもどうしてフォーラ王国になんて行きたいんだ?」

「まさか!……キヨハル様、フォーラ王国の勇者と戦うつもりなのでは!?」

「いやいや、しないよ、そんなこと」


いくらゴブリン退治が物足りないからって、いきなり見ず知らずの勇者に喧嘩を売ったりなんてしない。戦うのは嫌いじゃないけど、見境なく戦うような戦闘狂じゃないんだ。


「まぁ、軽い手合わせくらいならお願いするかもね。何しろ魔族の魔王を倒せるくらいの人だから」

「セイヤとか言ったっけ? フォーラ王国の勇者。確かに魔族の異常個体に勝てるぐらいだから、相当強いんだろうな」

「それでもキヨハル様が負けるなんてあり得ませんわ」

「どうだろう? まぁ、負けるとも思わないけどね」


この世界の強さはゲームみたいにレベルとステータスという分かりやすい形で表されるものの、それが全てって訳じゃない。同レベルでの戦いだと、ゲームでいうところのプレイングスキルみたいなものも要求される。

鋼の剣で叩き切られても無傷なボクでも、完全に気を抜いている場面ならば、かすり傷くらいならつけることが出来る。というか、完全に傷つかない身体じゃあ、髪も爪も切れないしね。その辺りまではさすがにゲーム仕様じゃない。

特に対人戦でレベルが上がってくると、どれだけ戦闘に集中して、逆に相手の集中力をどれだけ削げるか、そんな駆け引きが重要になってくるんだ。


「だったら、キヨハルは何でフォーラ王国の勇者に会いたいんだ?」

「それは……」


ニーナの問いにボクは数瞬迷う。

リンネも同様なのか、黒瞳を揺らめかせながらボクを見る。

どこかでマリーの声が聞こえた気がした……気がする。

だけど結局、ボクはあらかじめ用意していた答えを口にした。


「ひょっとしたらボクと同じ国から来た人間かもしれないからね。久しぶりに同郷の人に会ってみたくなったんだよ」

「ああ、なるほど、勇者ってことは異世界から女神様に遣わされた人間だもんな」

「ニホンという国でしたわね。フォーラ王国の勇者もそこからやって来たのですね」

「それは判らないけど、セイヤって名前は、ボクの生まれた国の名前っぽいからさ。だから会ってみたいのさ」


思ってもいない望郷の念を口にする。二人は快く了承する。きっと他のみんなも断ったりしないだろう。


「みんな、ありがとう」

「いえ、キヨハル様が望むのならば」

「着いて行くよ、キヨハルの行く所にね」


次の目的地も決まったし、こんなクエストでいつまでもグズグズしているのも馬鹿馬鹿しい。いるかどうかわからないゴブリンの魔王なんてさっさと片付けてしまおう。

ボクらは山を登りながら見つけたゴブリンを蹴散らしていく。途中で一か所だけ集落に寄る。全部始末すると時間がかかるから、そこいる主だった上位種のゴブリンだけ始末する。特にゴブリンジェネラルだ。コイツは放っておくとゴブリンロードに進化するかもしれないからな。

この世界のゴブリンは雑食で、群れて凶暴化すると人間を喰う。当たり前のように生存者なんていないから、正直言って広域殲滅魔法で集落ごと消し飛ばしてしまってもいいのだけど、あれはみだりに乱発するべきじゃない。山火事になっても厄介だからね。

馬鹿正直に一匹ずつ始末していき、ボクは奥の集落に到着する。そこで意外な光景に出くわした。



「まさか……ボクらが出遅れるなんてね」


すでに奥の集落に到着して戦いを始めていたトールを見て、ボクは素直に驚いた。とは言っても、まだほんの入り口部分といったところか。村の外縁部でトールとマリーは交戦を始めていた。


「驚きましたね……」

「ああ、それなりに急いだつもりだったんだけどな……」


リンネとニーナも同様だったのだろう。二人を見て驚いている。

二人がズルをした。例えば立ち寄る予定だった集落に寄らなかったり、そこで上位種を間引くのを怠った……とは思わない。トールはともかく、マリーは絶対にそういうズルはしないからだ。


「意外に真面目なヤツだったんだね」

「ええ、彼は明らかに一番乗りにやる気がなさそうでしたから……マリーに言われたからでしょうか?」

「だな……顔つきも明らかに真剣だしな。嫌なヤツだと思ってたけど、ちょっとだけ見直したかな」


彼のレベルはボクの半分しかない。言っちゃ悪いが圧倒的に格下だ。だけどボク達を出し抜いて、先に到着した。恐らくは休憩も挟まずに全速で駆け抜けたのだろう。

マズイな……敵と切り結ぶトールを見て、ちょっと感動してしまった。こういうひたむきさって、最近のボクからは失われてたからな。

とはいえ……


「そろそろボクらも加勢しようかな?」

「そうですね」

「劣勢だしな」


本音で言うと、彼が敵を倒すまで待ってあげたいのだが仕方ない。

トールとマリーが戦っているのはゴブリンではない。ハイオーガというオーガの上位種で、並みの戦士では歯が立たないような強敵だ。彼の能力は完全に対ゴブリンに特化している。レベル的には十分勝てるし、マリーもいるから大丈夫だと思うが、倒すとなると少々骨が折れるだろう。

さぁ、勇者様の登場だ。

ボクは剣を抜くと、颯爽とハイオーガに斬りかかった。


当たり前だけど、ボクからすればハイオーガなんてものの数じゃない。

魔王さえ殺せる聖剣はあっさりとハイオーガの持っていた鋼鉄の棍棒を切り落とし、剣帝のスキルを限界まであげた剣捌きはオーガの身体を鎧ごと袈裟斬りに両断した。


「悪いね。あのままでも勝てると分かってたけど時間の問題もあるからさ」

「解ってる。大事なのはなるべく逃がさずに、ゴブリンの魔王を始末することだ」


不満そうだが文句をつけたりはしない。彼は現状をしっかり理解しているのだ。


「じゃあ、悪いが。このままゴブリンの魔王もキヨハルが倒してくれよ」

「いいのかい? 多分、トールでも勝てるよ」

「何で分かるんだよ」

「見れば判るさ」


戦いに途中で乱入してきたゴブリンの無残な死体を見て苦笑する。ボクの『解析』のエクストラスキルなしでも、彼の能力の異常性は解る。何しろ彼の斬撃はかすっただけでホブゴブリンの胴体を両断し、ゴブリンジェネラルの攻撃すら素手で受け止めるのだ。


「魔王殺しの栄誉が手に入るかもよ」

「別にいいさ。そもそも本当に魔王なのかも不明だ。俺はこの集落のうち漏らしがないように、周辺のゴブリンを狩っていくから、終わったら声をかけてくれ。マリーもいいだろ?」

「うん、いいよ。トールも頑張ったもん♪」


勝ち負けには興味がないのかマリーも即答する。彼女はきっとボクとの勝負に勝つとか負けるとかよりも、トールが手を抜くのを見たくなかったんだろう。


「それにしても、この前も言ったけどマリーも本当に強くなったな」

「えへへ~、そうでしょ~♪」


以前はパーティの落ちこぼれ……とまでは言わないが、正直、器用貧乏な感じでイマイチ活躍の場がなかった彼女だが、トールと組むことで見事に彼の弱点を補う動きを見せていた。

まぁ、あのとき彼女を不遇にしてしまったのはボクにも責任がある。ボクの『解析』のスキルはレベルを限界まであげると通常のステータス表記だけでなく、スキルの成長性を指し示すスキルツリーをも閲覧することが出来る。これで「このステータスには、このスキルを習得させればいい」と方向性をちゃんと示してレベル上げさせれば、大抵の場合は強くなる。サザリネやスーリエやなんかは、それで爆発的に強くなった。マリーがいた頃にスキルツリーが見れていれば、もう少し彼女を強くすることも出来ていたんだ。


ボクは何気ないつもりで『解析』を発動させて、マリーのスキルを見る。

治癒術師のくせにSTR(筋力値)VIT(耐久値)が高く、INT(知力値)が低い。レベルが上がって数字は伸びてはいるものの、相変わらずチグハグなステータスだ。スキルの構成も大きな変化はない。あと笑っちゃいけないが、彼女の加護は『逃げた動物を捕まえる加護』なのだ。彼女の実家が農家ではなく酪農家なら、もう少し活躍の場があったのかもしれない。まぁ、彼女は牧羊犬というか、人懐っこい犬みたいな感じだから、ある意味お似合いの加護なのかもしれないけどね。

苦笑しながらステータスの閲覧を終えようとしたときだ。


ん?……何かおかしい。


違和感に気が付いた。

おかしいのは最後に見た加護の部分だ。そこに見慣れぬ文字が浮かび上がっている。


≪魔王討伐のクリアを確認。女神権限により閲覧制限されていたデータが解放されます≫


何だ、これ?

閲覧制限??

前にマリーのステータスを見たとき、こんな表示はなかったぞ!?

加護の部分の『逃げた動物を捕まえる加護』が消える。

そこにはこう表示されていた。


『勇者を導く加護』


……と



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