【邂逅】2-28
《投擲》
コバヤシは様子見がてら、手持ちの石で少し離れた場所から、目的の場所一帯へと全力で集中砲火する。
ものすごい轟音と共に辺り一帯は砂埃に包まれる。
これで終わってくれればいいのだが、、
石を投げ終わるとすぐにマップを確認する。それでも多くの魔物はこれで倒せたようであった。しかしここに来てからずっと感じている巨大な威圧感は全く消えていない。
頭の中でずっとアラームが鳴っているような気分だ、、
どうやら“ボス”は無事のようだなということは分かる。
さてどうするか、、
次の一手を考えていると、土煙の中から声が飛ぶ。
「“勇者”か?」
静かに喋っているようなのにも関わらず、はっきりとその言葉は辺り一帯に響いた。男、の声、、? そこまで若くはない。
コバヤシは特に何の返事もせずに様子をうかがうことにする。
するとあたりに突風が一瞬吹き、土煙があっという間に晴れる。
こいつが、、“指揮官”だな、、
コバヤシはすぐにそうだと気づく。
最初は人間かと一瞬疑ってしまいそうになったが、すぐにそうではないことがわかる。
これがルゥの教えてくれた「魔物を操る魔族」に違いない、、
その魔族は体調2m強の人型であった。
ただし皮膚は紺色に光る鱗のようなものに覆われ、大きな尻尾を持ちギザギザの一角をその額に備えている。そして人間だったら目が付いているであろうその位置にはなにも無く、元々そうなのかそれともなくなったのかはわからなかったが、顔のその部分だけがぽっかりと抜け落ちていた。にもかかわらずその魔族は、はっきりとこちらを向いていた。
「おまえが、」
やはりこの魔族が喋っていたようだ。
「“勇者”か?」
コバヤシはいまだ何も喋らずに様子を見ている。この魔族のほかにも何体かまだ魔物が残っていたのだが、どういうわけか彼らは襲い掛かってこない。
「話せないのか、それとも勇者ではないか」
“目無しの魔族”はまだしっかりとこちらを見据えている。見えるのだろうか、、
「俺は勇者とやらではない」
コバヤシは初めて声を出す。
「…勇者ではない、か、、」
魔族の声には何故か失意の感情が入り混じっているかのようだった。
勇者を探していたのだろうか、、
コバヤシは警戒は解かずに考える。
「ではここへ何しに来た、少年よ」
見たところその力は“少年”では無いように思うが。
目無しは続ける。
「今はあまりかまってやる時間も無い」
コバヤシは、魔族とやらはみんなここまで意思の疎通が図れるものなのだろうかと少し驚きながらも、彼?に尋ねてみることにする。
「…お前達の目的は何なんだ、、」
コバヤシはその魔族を睨みつけながら言う。
・・・。
「…それをおまえに教える必要性を感じないな」
少しの間の後にその魔族はそう呟く。
教えてはくれないか、、
しかしコバヤシには特に何の問題も無かった。彼の目的はこの魔族を“止める”ことにある。
「お前が全ての魔物を操っているということはすでに分かっている」
コバヤシはここで少しカマをかけてみる。
「…ほぅ」
どことなく興味が出たような顔で魔族がこちらを見つめてくる。
「それで、もし私が操っていたとしたら、どうだというんだ?」
どうやら隠す気なんて無いか、、
それもそうかと思いつつ、コバヤシは更に続ける。
「今すぐに退け」
そう言うとコバヤシは、残りの石を手に持ち直して軽く構える。
出来るだけ殺したくはないなどと考えている自分に気が付く。
ここまで意思疎通が出来る生物を殺さなくてはならないのだろうか、、
「…残念ながら」
目無しの魔族は再び話し出す。
「それは出来ない」
魔族は、相変わらずこちらが見えているかのように見つめている。
そうこうしている間にも、王都内の魔物はおそらく人間を襲い続けているはずだ、、
「…退かなければお前を殺すしかない、、」
退いてくれ、、頼む、、
コバヤシの中で、もう一人の自分が「許すのか、、?」「この大量殺人者を、、?」と訴えているのがわかる。
そしてその通りだということは自分でも分かっていた。
「では、」
魔族が口を開く。
「殺される前に、」
続けて告げる。
「殺すしかないな」




