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『the other side B』

メイは、自分へと向かってきた魔物(メイが見たことの無いものだった)をその剣で切り伏せる。

ドラコは相変わらずの表情で、淡々と襲ってくる魔物達を()()()葬っている。

これは援護なんて要らなかったかしらと少し自嘲気味に笑いながらも、襲ってくる魔物、これはたぶんデアベアーね、の攻撃を紙一重でかわす。

「しっ!」

そしてそのままその魔物のわき腹を切り裂く。


「メイ! 危ない!」

どんっという音が後ろでしたかと思うと、いつのまにか居たもう一体のデアベアがそのまま横へと倒れていく。


「あ、ありがとう、、」

メイはいつのまにか自分のそばまで来ていたルゥに対しそうお礼を言う。

彼女はそんなメイに対しウインクするなり“不思議な構え”を取る。

「ふぅー、、、」


何かしら、あの構えは、、


ルゥは膝を軽く曲げ半身になり、両こぶしを握り締めながら左手を前に出し、右手は自身のおなかの辺りに置いていた。

見たことも無い構えだった。それに彼女もドラコ同様、何の武器も所持していない、、


「はっ!!」


ルゥは襲ってきた魔物(見た目はライガのようであった)に対し右こぶしを突き出しで合わせる。

再びどんっという音と共にその魔物は倒れていく。


すごい、、

メイは彼女のその“術”のようなものを目にし、素直に感嘆する。

「さっ、残りも片しちゃいましょ!」

ルゥが大きな声でそう告げる。

メイはそれを聞いて再び自身に活を入れるのだった。

ドラコは前方で()()している。。


・・・


「これでだいたい終わりかしらね」

ルゥはそう言うと、少し疲れたようにふぅっと息を落ち着かせる。その姿すらどこか()()を覚えるものであるなとメイには感じられた。


「…さっきは、ありがとう、、」

メイはあらためてお礼を口にする。

するとルゥは、一瞬ぽかんとメイのことを見つめた後に、あははと笑い出す。


「いいわよ、あんなのは当たり前のことでしょ」

そう言って彼女は再びこちらにウインクを投げる。

メイはふっと微笑みながらそれを受ける。

「さっきの術?はいったいなんだったの?」

初めて見たんだけど、とメイはルゥに尋ねる。


「術?」

ルゥはきょとんとした顔でこちらを見つめ、それから「あぁ、あれのことね」と一人うなずく。

「あれは、、術とかそういうのじゃないのよ」


そうなの?

私にはなにかそういった()()のもにしか見えなかったが、、


「う~ん、、あれはまあ、“カラテ”っていう()()なのよ」

そう言って彼女は少し困ったように微笑む。それにしてもメイの(それなりには)長い生活において“からて”などというようなものは聞いたことも見たこともなかった。


まあアキラやドラコのような強さも見たことないけどね、、

いや、、一人だけ居たかと、彼女はその古い記憶をたどる。


「メイ」

ふと、ドラコが自分の裾を引っ張っていることに気づき、彼女は過去から戻される。

ドラコは奥へと続く道の先を指差していた。

その更に先を行けば、東門が見えてくるはずである。


あと少しだ、、

メイは、コバヤシがいつもそうしているようにドラコの頭をぽんと撫で、


「行きましょう!」

二人に向け声を飛ばす。


・・・


ようやく東門が見えてきたといったところで、三人は立ち止まり物陰へと身を潜める。


門の前に居たのは、これまでとは比較にならない数の魔物達であった。


最悪だわ、、

さすがにあの数は自分たちだけではどうにも出来そうもないと考え、メイは西門へと向かうかどうかを検討し始める。すると、


「メイ」

ドラコが再び自分の裾を引っ張っている。

少女は何か言いたげだ。

「ドラコ、、いくらあなたが強くてもあの数はさすがに、、」

メイは少女の目を見つめながら言う。


「ドラコ、ひ」

そう言うなり目の前の少女は口をぱくりと開ける。

“ひ”、、?

メイは一瞬何のことだろうかと考えるも、すぐにかつての光景を思い出す。



― ドラコのおなかが膨らんだと思ったのも一瞬、二体目の竜めがけ口から大きく息を吹きかけるのも一瞬のことだった。

― 目の前に、オレンジの炎があっというまにして広がる。



竜を倒した時のあの出来事であった。


あー、、

“火”のことかとメイは一人納得する。いやでも、、

「さすがのあんたでもあの数は、、」

するとドラコは親指をぴっとあげる。


「どらこ、りゅうモード」

そう言うと少女はゆっくりと息を吸い込み始める。


すぅーーー、、、


前回、竜を丸焼きにしたときと“感じ”が違う、、?

メイはそんなことを考えながらドラコを心配そうに見つめる。

少女はまだ息を吸い込んでいる。

辺りには自分たち以外の人間は居ない。


すぅーーー、、


「ね、ねぇ、、この子だいじょうぶなの、、?」

ルゥが心配そうにメイに尋ねる。

それに対し答えようとしたときだった。


ドラコが物陰からゆっくりと出る。

門の前に居た魔物達がこちらに気づいたのか、一斉に騒ぎ出す。

そして、メイにはどこかから“カチッ”という音が聞こえた。気のせいだったかもしれない。

最初はドラコの口から、なにやら青白い炎のようなものが漏れ出しているように見えた、が次の瞬間。


「   」

ドラコは向かってくる魔物達の群れへと向かって思い切り息を吐く。

少女の口から、扇状に青い炎がすさまじい速度で広がる。

それは一瞬のことであった。

その炎にかかった魔物達は瞬く間に解け落ちるか焦げ落ちるかしてしまう。悲鳴の一つもあげる暇も無く、鳴き声の一つもあげる間もなく、魔物達全てを壊滅させる。


・・・。

メイはあまりのことに衝撃で口が開いたままふさがらない。隣でルゥが「あれまぁ、、、」と言って目をぱちくりさせている。


ドラコは、けほんけほんと咳をしたかと思うと、こちらを振り返りピースをする。顔は相変わらず無表情のままだ。


「ドラコふぁいあ、()()

けほんけほんと再び咳をするドラコのその声は、少し嗄れているようにも聞こえた。炎の影響であろうかとメイは考える。


それにしても、、


「…すごいね、、あんたは」


ありがとね

そう言って彼女は、その少女の頭をわしわしと撫でる。


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