『the other side A』
コバヤシが(文字通り)飛び立った後、宿屋の前には三人が残される。
では自己紹介をしないといけないわね!
黒髪の“サキュバス”はそう言うなり喋りだす。
「私はラレリュース・ド・エルゥ。“ルゥ”でいいわ!」
訳あって“あの人”とは生活を、、じゃなくて行動を共にすることにしたの、、
そう言って目の前のサキュバスは頬を染める。
…あきらぁあああ、、、
一体このサキュバスに何したんだぁあああと荒ぶるエルフである。
その“ルゥ”と名乗るサキュバスの身長は、この三人の中だと一番高く、それが種族の特徴だかは分からなかったが(信じたくなかったが)男であれば必ず振り向いてしまうスタイルを誇っている。真っ黒の長いワンピースに(動きにくくは無いのだろうか、、)真っ黒に艶めくそのロングヘアーは、女性の自分ですらふと惹かれそうになるほどであった。
肌はうっすらと浅黒く、大きな瞳は真紅の色をたたえている。どこかドラコと似ているなとメイには感じられた。
「ドラコ、ドラコ」
そして隣の赤髪少女が自己紹介の流れに続く。
「らりるれるぅ~」
そう言ってドラコはぺこりと頭を下げる。らりるれる?
「…メイリィアよ、、“メイ”でいいわ、」
アキラとは“生活を”共にしてるの。
そしてエルフはサキュバスに向けてにっこりと微笑む。
「ドラコも~」
そしてこの少女は“ピース”を目の横に持ってくる。何のポーズなのだろうかこれは、、
メイは自分の“先制攻撃”がドラコに台無しにされたことを少し恨みつつ、目の前に居るサキュバスの反応を見る。
「あら、じゃあ私達はこれから“ファミリー”ね!」
よろしく二人とも!
そう言って彼女はにっこりと(純粋に)笑う。
ふぁみりー?
メイは聞き慣れない単語を耳にする。
「ふぁ~みまふぁみまー」
ドラコはそんなことを言いながらルゥと“ハイタッチ”をしていた。
まぁ今はこんなことを気にしてる場合でもないか、、
メイはとりあえず分からないことを棚上げし、これからの予定を考えるのだった。
・・・
「まずはアキラも言っていたように、ここからの脱出を図りましょう」
旅馬車は使えそうに無いから徒歩での脱出になるわと、メイは他二人に告げる。
「で、どこから脱出するかだけど、、」
そこまで言ってメイは考える。
どこから抜けるのが一番早くて可能性が高いだろうか、、
いま自分たちから最も近いのは北門、次が東門となっている。
「出るとすれば東か西からにした方が良いわ」
考え込んでいたメイに対してルゥがそう告げる。
「…理由を聞いても?」
メイは少し不審に思いながらそう問いかける。
「私はこの街の外からやってきたの」
だからだいたいの状況は理解できているわ。
彼女は真剣な眼差しでメイを見つめる。
このサキュバスが言うには、南は魔物の大群が、そして北にはあまりに多くの人間が押し寄せてきたがためにパニックに陥っているとのこと。
確かに北門は一番大きい門なので、人々は最初にそこから避難しようと考えるかもしれない、、
メイは、自分が覚えている限りのこの街の知識を総動員させる。
「よし、、」
そして彼女は決断する。
「東から抜けるわよ!」
メイは二人に向けてそう言い放つ。
・・・
東口まで走って向かう一行は、途中で「どうやら人々が東側から逃げてきている」ということに気づく。
東側になにかがある、、?
メイは走りながらその嫌な予感を振り払おうとするのだった。
「メイ、あれを!」
後ろからルゥが呼びかける。彼女は前方を指差していた。メイは急停止する。
そこには何体かの魔物が獰猛に暴れている真っ最中であった。
これが、こちら側から人間達が避難していた原因、、
メイは向こう側の魔物達を様子見ながら考える。
さてどうしたものかと考えていると、横からものすごい勢いでドラコが飛び出していく。
「あ」
その赤い長髪が後ろへとなびく姿には、ある種の美しさすら感じさせる。
ドラコは魔物の内の一体へと一瞬にして距離を詰める。
ぱぁんという大きな音がしたかと思うと、そのドラコの目の前に居た虫型の魔物が木っ端微塵になる。
赤い鬼の猛攻は止まらない。次々に周りの魔物達を粉々にしていく。
相変わらずでたらめな強さだわ、、
そんなドラコを見ながらメイはあきれて笑うしかない。
「わぉ、すごい!」
ルゥはドラコの強さに感動しているらしく、のんきに飛び跳ねている。“ぶらぼー”とはどういう意味なのだろう、、
あたりの魔物を赤髪少女が一掃したあたりで、周辺の魔物達が異変に気づいたのか、更にその数が増える。
「ドラコ!」
少しでもあの子の手助けをしなくちゃと、メイも飛び出す。
「あなたはここで待っていて!」
そしてルゥにはその場での待機を命じる。
アキラに言われてるもんね、、
彼女を危険な場所に連れて行くわけにはいかない。
メイは、ドラコを囲む多くの魔物達を見据えながら、自身の剣を抜く。




